ヤなことそっとミュート『MIRRORS』


ヤなことそっとミュート 『MIRRORS』

発売: 2018年5月6日
レーベル: クリムゾン印刷

目次
イントロダクション
1, ルーブルの空
2, クローサー
3, GHOST WORLD
4, HOLY GRAiL
5, No Regret
6, Reflection
7, Any
8, 天気雨と世界のパラード
9, AWAKE
10, Palette
11, Phantom calling
総評

イントロダクション

 2016年結成の女性アイドルグループ、ヤなことそっとミュートの2ndスタジオ・アルバム。

 オルタナティヴ・ロックを下敷きに、エモ、グランジ、ポストロック、ポスト・ハードコア、シューゲイザーなど、多彩なジャンルを横断する音楽性を持ったグループ。それが、ヤなことそっとミュート、通称ヤナミューです。

 2010年代に入り、非アイドル・ポップ的な音楽を志向するグループは、ヤナミュー以外にも多数います。そのなかでヤナミューが特異なのは、硬派な音楽性と、アイドル的なポップさを、分離することなく共存させているところ。

 アイドルにただオルタナティヴ・ロックをかぶせるのではなく、かといってアイドル歌謡を、オルタナ風にアップデートしたわけでもない。

 洋楽にも負けないクオリティを保ちながら、女声ボーカル4人を擁するアイドル・グループとしての魅力が、高次に両立しているんです。

 具体的には、サウンドとアレンジは硬派なオルタナ。そこに女声ボーカルが楽器のようにアンサンブルと溶け合い、カラフルな世界観を実現しています。

 いわば、ボーカルもひとつの楽器として、アンサンブルに参加しているんですよね。しかも、前述のとおりメンバーは4人。

 複数の女声ボーカルによる、ハーモニーと巧みなパート分け。ときにはコール・アンド・レスポンスのような掛け合いもあり、4人のボーカリストを擁している点が、サウンド的にもリズム的にも、あきらかにプラスに働いています。

 複数の女声によるアイドルらしいボーカル・ワークが、オルタナティヴなアレンジと溶け合い、ヤナミューにしか実現できない音楽を作り上げているんです。

 前作『BUBBLE』から、およそ1年ぶりのリリースとなる本作『MIRRORS』。

 硬質なサウンド・プロダクションと、趣向を凝らしたアンサンブルは健在。前作からの違いを挙げるなら、直線的なビートを持った、疾走感あふれる曲が多数をしめるところでしょうか。

 いずれにしても、妥協なしの硬派なオルタナティヴ・サウンドと、4人のメンバーによる表現力ゆたかなボーカルの融合という、ヤナミュー特有の黄金比は変わっていません。

 以下、1曲ごとに簡単にレビューします。

1, ルーブルの空
 イントロから、ギターが時空を捻じ曲げるように鳴り響き、タイトさと荒々しさを併せ持ったアンサンブルが展開。

 タイトに引き締まったパートと、荒々しく躍動するパートが細かく切り替わり、コントラストが鮮明。

 ところどころ変拍子も顔を出し、足がもつれながらも、気にせず走る抜けるような荒々しさが、かっこいい1曲です。

2, クローサー
 前のめりに打ちつけられるドラムに、ギターとボーカルが絡みつき、躍動感をともなって疾走していく曲です。

 ハードな音像とアンサンブルに負けず、むしろ4人のボーカルが、バンドを先導していくようなバランス。メンバーの歌唱力の向上を感じさせる曲でもあります。

 オモテの拍を食い気味に打ちつけるドラムのリズムと、波のようなギターのフレーズ、そして速めのテンポ。ハードコア色の濃い1曲。

3, GHOST WORLD
 ギターの鋭いカッティングに、エフェクト処理されているのか、浮遊感のあるボーカルが重なり合う、疾走感あふれる1曲。

 やや物憂げなボーカリゼーションで、音程の起伏の少ないAメロに対し、サビに入ると一転してメロディアスに展開。ここまでわかりやすく、長調の爽やかなメロディーというのも、ヤナミューにしては珍しい。

 再生時間2:54あたりから聞こえる、ギターのテクニカルな速弾きも、疾走感を増幅させています。

4, HOLY GRAiL
 ギターのアルペジオから始まる、ミドルテンポの1曲。Aメロでは、2人ずつハモリながら歌っていて、こういうアレンジが可能なのも、4人編成のメリットだなと感じます。

 4人の声の違いもわかりやすく、和音的なハーモニーだけでなく、音響的な深みも多分に持っています。

5, No Regret
 イントロで聞こえる、スケール練習みたいな幾何学的なギターのフレーズが印象的。荒々しく小節線を飛びこえていくアレンジも好きですけど、この曲のように理路整然としたアンサンブルもいいですね。

 ボーカルのメロディーは流麗。再生時間2:05あたりからのギターソロは、糸を引くような音作りとフレーズ。ベタにエモい要素が多く含まれているんですけど、メンバーの歌唱とハーモニーが良いからか、モダンな聴感になっています。

6, Reflection
 前曲「No Regret」につづいて、ストレートにエモい曲が並びます。ミュートを織り交ぜたゴリゴリしたギターと、ところどころカチッとリズムを止めるボーカルのメロディーが、Aメロの推進力になってますね。

 サビに入ると、それまで溜め込んだパワーを爆発させるように、ギターも歌メロも開放的に展開。これもベタといえばベタなんですけど、泣けるほどかっこいいです(笑)

7, Any
 短調が多いヤナミューの楽曲群のなかで、めずらしく突き抜けた明るさの長調の楽曲です。西海岸のパンクバンドかと思うぐらい、明るくて爽やか。

 再生時間0:38あたりからなんか、ヘッドバンギングでも起こりそうなリズム構成です。ただ、ヤナミューらしいと言うべきか、目まぐるしく展開があり、全体の構成はなかなか複雑。

 ギターもパワーコードで押し切るばかりじゃなく、細かくパーカッシヴにリズムを刻んだり、再生時間1:20あたりからはタッピングを織り交ぜて、テクニカルな演奏を披露したりと、聴きどころは満載です。

8, 天気雨と世界のパラード
 各楽器ともシンプルにリズムを刻むイントロから、段階的にシフトを上げ、サビでコード進行的にもアレンジ的にもクライマックスに達する、王道の展開。

 コードとメロディーは循環してるんですけど、バンドのアンサンブルは変化を続けるので、4分ほどの曲なのに、実際より長く感じます。それぐらい、細部まで趣向が凝らされた1曲。

9, AWAKE
 ミュート奏法のギターをはじめ、音の枝葉が少ないイントロから始まり、サビでは音で埋め尽くされる。静と動というほど極端ではありませんが、音の出し入れが絶妙なアレンジです。

 個人的には、Aメロで聞こえる、ベースの行ったり来たりする一塊りのフレーズが好き。

10, Palette
 他のバンドを引き合いに出しすぎるのは好きじゃないんですけど、American Football、Pele、Tristezaあたりのポストロックを彷彿とさせる曲です。

 というか、正直イントロを聴いたとき、ギターのクリーンな音作りと、回転するようなフレーズから「まんまAmerican Footballじゃん!」と思いました。

 全体のサウンド・プロダクションも、激しい歪みは鳴りを潜め、おだやか。ファルセットを織り交ぜ、高音域に寄ったボーカルは、幻想的な空気を醸し出します。

11, Phantom calling
 各楽器とも、複雑なフレーズを正確にくり出し、マスロックかくあるべし!という演奏が繰り広げられる1曲です。

 ミクロな視点で各フレーズを追いかけると、まぁ複雑なんですけど、機械仕掛けの時計のように、カッチリと一体感のあるアンサンブルが構成されます。

 ただ、そんな複雑怪奇なアンサンブルのなかで、分離することなくボーカルのメロディーが際立っていて、ポップ・ソングとして成立してるところが凄い。

 バックは変拍子と転調、変態的なフレーズの嵐みたいな演奏なのに、思いのほかサラッと聴けてしまうという。

総評

 最後の「Phantom calling」が特に象徴的ですけど、複雑な構成の曲でも、ポップスとして成立させるバランス感覚が抜群な1作です。

 実験性と大衆性を両立させる最も大きな要因は、やっぱり4人のメンバーのボーカルワークでしょう。前作『BUBBLE』と比較すると、パート割り、ハモリなど、ボーカルもより凝った構成になっています。

 また、前作との差異というと、素直にボーカルが前景化された曲が多いな、とも思います。前作は曲によっては、ボーカルがバンドに埋もれるようなバランスの曲もあり、それはそれでかっこよかったんですけどね。

 いずれにしても、前作と並んで「名盤」と言えるクオリティを備えたアルバムです。

 




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