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2018 年間ベストアルバム10 チャットモンチーとアイドルの10枚


イントロダクション

 文章を書くのは好きなのですが、今までこの手の記事を書いたことはありませんでした。

 でも、Twitterやブログで、音楽好きの皆さんが年間ベストを挙げているのを見て、「俺も書きたい!」との思いが沸点に達したので、初めて書いてみます。

 2018年の年間ベストアルバムです。選んだのは10作。聴いた音楽が偏っているので、ここで選んだのは邦楽のみ。

 洋楽は30作品ぐらい選んで、別記事にて書こうと思っています。

 基本的には、2018年にリリースされたスタジオ・フル・アルバムを選んでいますが、1作だけミニアルバムも入ってます。

 結果的に選んだのは、チャットモンチーが1枚、残りの9枚はいわゆるアイドル・グループの作品です。

 ということで、記事のタイトルのとおりなのですが「チャットモンチーとアイドルの10枚」となりました。

 なにを選んだか、結果だけ見たい方は、この下の目次のみご覧ください。10作品を確認できます。

 なぜチャットモンチーが1位なのか、どうしてそれ以外はアイドルばかりなのか、評価の基準はなにか。そのあたりの理由を「レビュー方針」にまとめてあります。

 そのあとに1作ごとのコメント、さらに総評をまとめたので、そちらもお読みいただけると嬉しいです。

目次
レビュー方針
なぜアイドルとチャットモンチーか?
10 アイドルネッサンス『アイドルネッサンス』
9 桜エビ~ず『sakuraebis』
8 代代代『むだい』
7 lyrical school『WORLD’S END』
6 amiinA『Discovery』
5 けやき坂46『走り出す瞬間』
4 Negicco『MY COLOR』
3 ヤなことそっとミュート『MIRRORS』
2 Maison book girl『yume』
1 チャットモンチー『誕生』
総評

レビュー方針

 なぜこの作品を、どのような基準で選んだのか。最初にレビュー方針を説明させていただきます。

 まず、もっとも基本的な前提として、僕が好きなアルバムを選びました。当たり前といえば、当たり前ですね。

 例えば、rockin’onやPitchforkだったりっていう名のあるメディアの場合は、そのメディアの色を出しつつも、一般的に認知された名作を、選ばざるをえないと思うんです。

 一定以上の規模のメディアになると、ある程度は世論をうつし、みんなが好きな(あるいはそのメディアの読者が好きな)アルバムの近似値をとっていくような作業になるよなと。

 ただ、僕のような名もなき個人が選ぶベストアルバムは、逆に好みが寄っていた方が、情報として価値があると考えています。

 個人の好みの総体が、大手メディアや世論によって作られる、客観的なベストアルバムになる、ということです。つまり、個人的なベストアルバムは、主観的であればあるほど良いんじゃないかなと。

 では、どういう基準で選んでいくのか。自分が好きなアルバムを選ぶのは、先述したとおりですが、ある程度は基準らしきものを作りました。

 ある作品は歌詞が良いから選び、ある作品はリズム構造が革新的だから、また別の作品はメロディーが保守的で好きだから、というランキングも悪くはないのですが、僕は論理的な批評が好きなんです。

 上記のような基準でアルバムを選ぶのは、ラーメンも寿司もケーキもフランス料理も駄菓子も、とにかく今年食べたうまいものを順番に並べました!って感じで、あまりにも雑多。

 くりかえしになりますが、そういう個人のランキングも、魅力的なものであるとは思います。ただ、僕はちょっと違ったコンセプトで書きたい、というだけです。

 というわけで、おもいっきり個人的に、自分のコンセプトに沿って、10作を選びました。

なぜアイドルとチャットモンチーか?

 ここからは、具体的な選考基準のご説明。

 まず、最初に考えたのは、なにを1位にするべきか。これはすんなりとチャットモンチーの『誕生』に決まりました。

 理由は、僕がとにかくチャットモンチーが好きだから、というのが一番ですが、2018年という時代において、十分に革新性と大衆性を両立していると思うからです。

 1位が決まりました。次に考えたのは、それ以外のアルバムをどのような基準で選ぶのか。

 言い換えれば、チャットモンチー『誕生』を1位にするならば、どのような基準でランキングを作るべきか、ということ。このランキングは『誕生』を1位にするためのものとも言えます。

 僕が重視したのは、革新性と大衆性のバランス。

 商品として流通するポップ・ミュージックは、多くのリスナーに気に入られることを目指しています。

 もちろん、音楽性を重視し、売れることよりも、自分の音楽を追求するバンドやシンガーもいるでしょう。チャットモンチーも、まさにそのようなバンドだと思います。

 でも、CDやダウンロードで販売される音楽は、少なくとも売れないよりは、売れたほうが良いと考えられているということです。

 ただ、ベタだと売れるかもしれないけど退屈だし、かといって実験的すぎると売れない。ポップ・ミュージックは、この革新性と大衆性のバランスが面白いと思うんです。

 そして、このバランス感覚の振れ幅が大きいのが、いわゆるアイドル・グループ。

 語弊を恐れずに言えば、アイドルはバンドやシンガーソングライター以上に、売れることに意欲的。いわば即物的とも言えます。

 そのため、もちろん保守的なポップスを下敷きにしているグループも多いのですが、すこしだけ実験的であったり、意外なジャンルの要素を持ち合わせていたりと、前述のバランス感覚が絶妙なんです。

 ということで、ポップでありながら、革新的な魅力も持ち合わせている。そんな10作を選びました。

 作品によって、保守的なポップスをアップデートしたネオ歌謡曲であったり、変拍子と転調の嵐なのにポップスとしても成立していたりと、そのバランス感覚はさまざま。

 結果として、2018年という時代において、どのぐらい実験的でもポップだと認められるか。ポップの基準のようなものを、ぼんやりとでも示すことができればと考えています。

 では、10位から1位まで、選考理由とともに順番に発表します!

10 アイドルネッサンス『アイドルネッサンス』

 残念ながら、2018年2月24日をもって解散したアイドルネッサンス。

 セルフ・タイトルとなる本作『アイドルネッサンス』は、解散後の5月4日にリリースされた、彼女たちのラストアルバムです。

 これまでにリリースした全ての音源が収められたアルバムのため、オリジナル・アルバムとは呼びがたいのですが、現在のアイドル・シーンの一面を、象徴していると思うので選びました。

 「アイドルネッサンス」という名が示唆するとおり、「名曲ルネッサンス」をテーマにしたグループ。大江千里からthe pillows、KANA-BOONまで、古今東西のさまざまな楽曲を、モダンなアイドル・ソングにアレンジし、カバーしています。

 過去の焼き直しといえばそうなんですけど、メロディーは名曲から借り、アレンジメントやサウンド、ダンスや歌唱で変化をつけるというのは、ありそうでなかった方法論。

 例えばPerfumeやBABYMETALが、アイドル・グループのフォーマットを利用しつつ、それぞれテクノとメタルでクオリティを追求するのとは、まったく逆の発想とも言えます。

 「ポップとはなにか?」「時代性とはなにか?」も考えさられました。

9 桜エビ~ず『sakuraebis』

 スターダストプロモーション所属、私立恵比寿中学の妹グループ的な存在として活動する、桜エビ~ずの1stアルバム。

 スタダ所属のアイドルというと、前述のエビ中をはじめ、ももクロやTEAM SHACHIなど、ロックな要素を持っていたり、変化球のねじれたポップ感覚を持っているのが特徴。

 でも桜エビ~ずは、ストレートないい曲を揃えた、スタダでは異端なグループと言えます。

 ただ、1曲目「僕らのハジマリ」のエレキギターの使い方、5曲目「オスグッド・コミュニケーション」の前のめりのリズムとシンセの使い方など、スタダらしい飛び道具的なエッセンスもあり。

 48Gや坂道とは一風変わった、モダン歌謡曲路線のアルバム。

8 代代代『むだい』

 今回選んだ10作のなかで、唯一のミニアルバムです。

 オルタナティヴ・ロックやポストロックなど、従来のアイドル・ポップからは離れた音楽性をもったグループも、最近は珍しくありません。

 代代代(だいだいだい)も、そんなグループのひとつ。「SOLID CHAOS POP」というジャンル名を掲げる彼女たち。

 音楽性はハードコアテクノ的なサウンドを基調としていますが、驚くのは曲によってノイズ・ロックを彷彿とさせるほど、実験的であるところ。

 例えば、2曲目「凶ぺ」にはいわゆるコード進行がなく、電子ノイズが鳴り響く、無調性の楽曲。

 7曲目「歪んだ歪み、歪んだ歪み」は、電子的な持続音が鳴るなか、ボーカルのメロディーが奥の方から聞こえる、音響が前景化した1曲。

 しかも、ただの糞ノイズってわけじゃなくて、いずれの曲も歌入りのポップソングとして、ギリギリ成り立っているところがまた面白いです。

7 lyrical school『WORLD’S END』

 ヒップホップアイドルユニット、lyrical schoolの4thアルバム。

 ブラック・ミュージックを取りこんだJ-POPって、どうしてもリズムやバック・トラックは借り物で、メロディーは歌謡曲というバランスになりがち。

 しかも、リズム構造にしても、ちょっと時代遅れだということが、少なくありません。

 でも、lyrical schoolの『WORLD’S END』は、思いのほかリズムが現代的。2010年代以降のアメリカのヒップホップに通じるリズムを持っています。

 さらに、その上に乗るラップも、良い意味で日本語をいかした引っかかりとメロディー感があり、これぞ日本のヒップホップ!と呼べるクオリティを、備えていると思います。

 ラップのリズムも声質も、狙いすぎずにスムースなところが良い!

6 amiinA『Discovery』

 北欧のポストロックを連想させる、壮大で清潔感のあるトラックに、少女感のある等身大のボーカルが重なるamiinA。

 おそらく狙っているんでしょうが、地声でさりげなく歌っている雰囲気が、わらべ歌のようにも響き、幻想的な世界観を演出しています。

 荘厳なポストロックと、NHKみんなのうたが融合したようなバランス。

 「ポストロック」と一口に言っても、あまりにも範囲が広すぎますが、彼女たちの特徴は、アコースティック楽器をいかし、フォーク・ミュージックを彷彿とさせるところ。

 Sigur Rósを思わせる躍動感もあります。

5 けやき坂46『走り出す瞬間』

 乃木坂46、欅坂46につづく坂道シリーズ、けやき坂46の1stアルバム。

 秋元康がプロデュースする48Gおよび坂道シリーズは、音楽としては保守的で、良くも悪くも歌謡曲の延長線上にあると言えます。

 けやき坂46も例外ではなく、2018年において珍しいぐらい、王道のアイドル・ポップ。

 しかしながら、アイドル歌謡的なジャンルから、離れる傾向の強いアイドル・シーン。王道のポップスが、逆にカウンターとして機能していると思えるのが、本作『走り出す瞬間』です。

 ほかの秋元グループの楽曲には、中途半端に他ジャンルを参照したものも散見されるんですが、ストレートなモダン歌謡曲を、ブレずに作ればいいのになと思います。

4 Negicco『MY COLOR』

 新潟を拠点に活動するアイドルグループ、Negicco4作目のスタジオ・アルバム。

 多彩な作家陣による楽曲を収めながら、Negiccoの確固とした世界観があり、すべてが極上のポップスとして仕上がっています。

 ものすごく耳なじみがいいのに、どの曲もわずかに革新性や違和感をふくみ、ポップの範囲を拡大するようなアルバム。ポップスはこう作れ!というお手本のような作品です。

 例えば1曲目の「Never Ending Story」では、ポリリズムというほど複雑ではないけど、ドラムが立体的にリズムを刻み、独特の揺らぎを生み出しています。

 堂島孝平プロデュースの4曲目「愛、かましたいの」は、一聴するとカラフルなポップスですが、下品に歪んだギターだったり、キュートなシンセだったり、オモチャ箱のように多様なサウンドが詰め込まれた1曲。

 13曲目「15」(いちご)は、リズムを刻む電子音と、3人のメンバーのボーカルが、中空をはずむように飛びかう1曲。Negicco風のEDMとでも言いたくなります。

3 ヤなことそっとミュート『MIRRORS』

 オルタナティブ・ロックを基調とした音楽性をもつアイドルグループ、ヤなことそっとミュートの2ndアルバム。

 音圧の高いディストーション・ギターを多用し、曲によっては歌よりもギターが前景化するぐらい、激しいサウンドを特徴としています。

 5曲目「No Regret」のマスロックを彷彿とさせる幾何学的なギターのフレーズ、11曲目「Phantom calling」の複雑かつ正確無比なアンサンブルなど、歌無しのインスト・バンドとしても成立する楽曲のクオリティ。

 でも、メロディーが埋もれることなく、歌モノとしての魅力も備えている点が、ヤナミューの特異なところです。ただアイドルが、オルタナっぽい音楽をカバーしたわけじゃないんですよね。

 女声ボーカル4名によるコーラス・ワークも美しく、硬派なオルタナと、アイドル的ポップスを、高次に両立したアルバム。

 

2 Maison book girl『yume』

 現代音楽やポストロックをとりこんだ音楽を展開するアイドルグループ、Maison book girlの3rdアルバム。

 全21曲収録で、9曲目「MORE PAST」を除いて、奇数曲はインスト。偶数曲はボーカル入り。

 つまり、ボーカル曲とインスト曲が、交互に並ぶ構成になっています。

 このグループの音楽の特徴は、なんといってもリズム構成。3拍子と4拍子以外の変拍子を多用し、曲が始まって、まずはどのようにリズムを取るべきか、つねに耳をフラットにして音楽に向き合う必要があります。

 例えば2曲目の「言選り_」。ピアノのみのイントロ部分では、一般的な4拍子のように感じるんですけど、他の楽器が入ってきて歌が始まると、4拍子と6拍子が交互に訪れる展開。

 16曲目「レインコートと首の無い鳥」は10拍子あるいは、かなり高速な5拍子を基本として、3拍子が顔を出します。

 変拍子とか複合拍子というと、なんだか敷居の高い難しい音楽のようですけど、4分なり5分のポップ・ソングとして成立しているのが凄い。

 変則的なリズムが、音楽のハードルを上げるのではなくて、リスナーの耳をつかむフックへと転化しているんですよね。

 ちなみに3拍子と4拍子以外は、リズムを取るのが難しいと感じる人は、最初はこまかくリズムを区切って感じるといいと思いますよ。

 例えば5拍子だったら、3拍子と2拍子のセット、あるいは2拍子と3拍子のセットで感じるように。そこから、徐々にリズムの大枠をつかめるようになると、より音楽を聴く楽しみが広がるはずです。

1 チャットモンチー『誕生』

 堂々の1位! チャットモンチーの7thアルバムであり、ラスト・アルバム『誕生』です。

 3ピース・バンドとしてデビューし、ロック的なダイナミズムを持ったアンサンブルを、特徴としていたチャットモンチー。

 ドラマーの高橋久美子さん脱退により、2ピースとなってからもそれは変わらず、2ピース・バンドの限界を追求するように、生々しいサウンド・プロダクションと、変幻自在なアンサンブルを併せ持った音楽を、作り上げてきました。

 しかし、通算7作目となる本作。2017年の「機械仕掛けの秘密基地ツアー」から予兆はあったのですが、これまでのチャットモンチーとは打って変わって、大々的にシンセサイザーとコンピュータを導入したアルバムとなっています。

 そのため、この時期のチャットモンチーは「メカットモンチー」とも呼ばれます。

 そんなメカットモンチー体制で制作された本作。2018年7月22日をもって「完結」したため、前述のとおり彼女たちのラスト・アルバムとなりましたが、クリエイティヴィティはまったく衰えていません。

 シンセサイザーによる電子音が多用された、サウンド・プロダクションに耳が行きがちですが、僕はこのアルバムを一言であらわすなら、「オルタナティヴなアルバム」であると思います。

 確かに電子音らしい電子音が使われ、これまでのチャットモンチーとは、あきらかに異なる耳ざわりであるのは事実。

 サウンド的にはEDMに近いとも言えるのですが、音楽的にはEDMとは極北のところに位置している。言い換えるなら、流行りのダンス・ミュージックとは、まったく異質の音楽を鳴らしているんです。

 たとえば2曲目の「たったさっきから3000年までの話」。電子音が飛びかうバック・トラックのなかで、ボーカルが浮かび上がり、電子的なサウンドでありながら、対比的に声のぬくもりとメロディーが音楽の中心になっています。

 電子的なサウンドはひかえめな、3曲目「the key」においても、ぶっきらぼうにリズムを区切る歪んだギター、サビでのワルツのように揺れる3拍子など、少しずつ定番をハズしながら、あたらしいロックを鳴らしています。

 ラスト・アルバムでありながら、最後まで革新性をもったロックを目指すチャットモンチー。つねに冒険を続けてきた、実にチャットモンチーらしいアルバムと言えます。

総評

 以上、僕がものすごく個人的な基準で選んだ、2018年のベストアルバムでした。

 2000年代に入ったあたりから、英米では60年代のロックをアップデートした、ロックンロール・リヴァイヴァルなんてものが起こり、ヒップホップやジャズやネオ・ソウルなどのブラックミュージックも、ますます境界が曖昧になってきました。

 各ジャンルの歴史が終焉にむかって、どんどんジャンルがボーダーレスになっていく、おもしろい時代なんじゃないかなと、個人的には思っています。

 ここ日本でも、こういう流れは確実に起こっていて、2010年代以降「アイドル戦国時代」なんて言葉が生まれてからの女性アイドル・シーンは、まさにジャンルの終焉に立ち上がったブームなんじゃないかなと。

 つまり、バンドAに影響されたバンドBがデビュー、という感じで縦線に歴史が書かれるのではなく、無数のアイドル・グループたちが、もっと即物的に目新しいジャンルを取り込んでいってるんですよね。

 このあたりの自由度の高さが、アイドルの魅力のひとつです。ジャンルのつながりが時間軸ではなく、データベース的になってきたとも言えます。

 そんな状況下で、ここ数年のアイドル・シーンは、非J-POP的と思われるジャンルを吸収しながら、「ポップ」と認識される範囲を拡大してきたんじゃないかと思うんです。

 サイクルが速く、グループ数も多い、アイドル・シーン。ベタな音楽では目立てないし、かといって実験的すぎても、大きなポピュラリティは得られない。

 そんな2018年という時代において、革新性とポップさのバランス感覚の秀逸な10作を、選んだつもりです。





人気曲・代表曲で解き明かす、あいみょんの魅力


目次
イントロダクション
1, 貴方解剖純愛歌 〜死ね〜
2, ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌
3, どうせ死ぬなら
4, 生きていたんだよな
5, 愛を伝えたいだとか
6, 君はロックを聴かない
7, ふたりの世界
8, 満月の夜なら
9, マリーゴールド
10, 今夜このまま
作詞家としてのあいみょんの魅力
個別レビュー一覧

イントロダクション

 1995年生まれ。兵庫県西宮市出身のシンガーソングライター、あいみょん。

 2015年に、タワレコ限定シングル『貴方解剖純愛歌 〜死ね〜』がリリースされたあたりから、存在は知っていました。

 当時は「変わった名前だな」「すごいこと歌ってるなw」ぐらいの印象だったんですが、あれよあれよという間に、2018年には「NHK紅白歌合戦」の出場も決定。世代を代表するシンガーの1人と言っていいでしょう。

 前述の「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」を含めて、彼女の書く歌詞は、いささかエキセントリック。そのため、過激な言葉づかいやテーマに、注目しがちです。

 でも、うわべのセンセーショナルな言葉だけに気を取られていては、彼女の魅力を捉えそこなってしまうでしょう。

 過激なように見せて、非常に巧妙なテクニックを備えた作詞家であり、シンガーであると僕は考えています。

 そこで本論では、シングル曲を中心に、あいみょんの代表曲を10曲選び、彼女の魅力をお伝えしたいと思います。

 ランキング形式ではなく、僕が選んだ10曲をリリース順に並べました。彼女の表現の幅広さを、つかんでいただければ幸いです。

1, 貴方解剖純愛歌 〜死ね〜

 1曲目は「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」。前述のとおり、TOWER RECORDS限定で発売された、あいみょんのデビューシングルです。

 2015年3月4日にリリース。同年5月20日リリースの1stミニアルバム『tamago』にも収録されています。

 タイトルに「死ね」と入っているところから示唆的ですが、歌詞の内容も過激。

 例えば歌い出しの歌詞は「あなたの両腕を切り落として 私の腰に巻き付ければ あなたはもう二度と 他の女を抱けないわ」。

 グロテクスとも言える内容に、耳が奪われてしまいますけど、ただ過激なだけじゃないんです。語り手の「私」は、話の進めかたが人を追い詰めるように論理的で、それが怖さを増幅させています。

 曲調は、ざらついたギターが印象的な、コンパクトなロック。あいみょんのハスキーな声とのバランスも、秀逸なアレンジです。
 
 

2, ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌

 2曲目に紹介するのは、1stミニ・アルバム『tamago』に収録される「ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌」。

 シングル曲ではないですが、あいみょんの多彩さ、面白さがよく出た楽曲なので選びました。

 この曲も、まずタイトルが目を引きますよね。「ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌」。

 曲名のとおりと言うべきなのか、歌詞も「ザギン」「ギロッポン」「ちゃんねー」ねど、業界用語が多用されています。

 ただ、こういった用語を使う人がいた、あるいは今もいるわけで、全編にわたってネタにしてるから、わかりやすく笑えますけど、その裏には流行りを追う人への冷めた目線も感じられます。

 曲調は、クランチ気味のギターが、小気味よくリズムを刻む、軽やかなロック。

 

3, どうせ死ぬなら

 3曲目は「どうせ死ぬなら」。2015年12月2日リリースの2ndミニ・アルバム『憎まれっ子世に憚る』に収録。

 どうせ死ぬならこんなことがしたいと、ひたすら語り手の願望と好きなものが、羅列されていきます。

 いくつか引用すると「ジョンレノンのあの曲を聴きながら逝きたい」「太陽の塔の上で HAPPYを叫びたい」「どうせ死ぬなら ダメもとの告白もする」などなど。

 でも、この曲が伝えるのは、絶望ではなくて希望。死ぬ気になって、自分の願望を思い浮かべていたら、好きなもの、愛おしいものの多さに、気づいたのではないでしょうか。

 歌詞の後半に出てくる「どちらかと言えば死にたくないわ」という一節にも、そんな思いが集約されています。

 

4, 生きていたんだよな

 「生きていたんだよな」は、2016年11月30日にリリースされた、メジャー1stシングル。テレビ東京系ドラマ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』主題歌。

 2017年9月13日リリースの1stアルバム『青春のエキサイトメント』にも、収録されています。

 「二日前このへんで 飛び降り自殺した人のニュースが流れてきた」という一節から始まる、センセーショナルな1曲。

 でも、うわべの言葉だけに気を取られていると、この曲の本当の魅力を見失ってしまいます。

 自殺の現場に群がる無数の野次馬たち。現場の写真をアップして、盛り上がるネット上。いわば自殺がエンターテイメントと化した状態を、語り手は冷めた目線で記述していきます。

 そして、野次馬たちが騒ぎたてるのに対し、語り手は自殺した少女の人生を思い、涙を流すんです。現代社会や人間の異常性を、あばき出した1曲と言えるでしょう。

 この曲のうわべだけに注目し「いきなり自殺とか出てきて凄い曲じゃん!」なんてリアクションをするのは、野次馬たちと一緒です。

 冷めた目線のところは、メロディーで歌うのではなくたんたんと語り、感情が溢れ出すところは、メロディーで歌う構成になっていて、コントラストが鮮やか。

 

5, 愛を伝えたいだとか

 「愛を伝えたいだとか」は、2017年5月3日リリースのメジャー2ndシングル。1stアルバム『青春のエキサイトメント』にも、収録されています。

 ここまで紹介してきた、エキセントリックとも言える楽曲群とは違い、ゆるやかに恋人のことが語られていきます。注目すべきは、男性目線で書かれている点。

 この曲がリリースされた当時、あいみょんは22才。それなのに20代から30代前半ぐらいの、ちょっと頼りない男性が、リアルに描かれています。

 年齢や性別を超えて、他人になりきる能力も、あいみょんの特筆すべきところ。

 

6, 君はロックを聴かない

 「君はロックを聴かない」は、2017年8月2日リリースのメジャー3rdシングル。1stアルバム『青春のエキサイトメント』にも、収録されています。

 先ほどの「愛を伝えたいだとか」と同じく、男性目線で書かれたこの曲。でも、雰囲気はだいぶ異なります。

 「愛を伝えたいだとか」が20代の頼りない、ダメっぽいオーラも漂う男性を描いていたのに対して、「君はロックを聴かない」で描かれるのは中学か高校生ぐらいのウブな少年。

 女子を部屋に招いて、自分の好きなロックのレコードを聴かせるっていう曲です。

 ロックだけが友達!というタイプの少年を、リアルに描き出していて、人によっては心がヒリヒリするんじゃないでしょうか(笑)

 僕自身もロックにすがるようなタイプの学生だったので、聴きながら「うわぁ〜わかるなぁ」というポイントが、いくつもありました。

 曲調はゴリゴリのロックというわけではなく、あいみょんの声とアコースティック・ギターが中心に据えられた、ミドルテンポのナンバー。

 

7, ふたりの世界

 7曲目に紹介するのは「ふたりの世界」。こちらはシングル曲ではありません。1stアルバム『青春のエキサイトメント』に収録。

 今度は女性目線で、恋人と思われる男性のことを歌っています。ピンチも倦怠期も、乗り越えた時期だと思われる恋愛が、描かれています。

 男の僕からすると「女性のこういうところって分かんないな」と思うところもあり、非常にリアルティのある歌詞です。「女性ってこういうこと考えてるのかな、こわっ!」と思うポイントも、いくつかありました。

 歌詞のラストを締めくくる「大好きで ちょっと嫌いで 今がある」という一節に、この曲のメッセージが凝縮されていると思います。

 

8, 満月の夜なら

 「満月の夜なら」は、2018年4月25日リリースのメジャー4thシングル。

 エロティックな歌詞だと言われることが多く、確かにベッドの中の男女を、ポエティックに描写しているんですけど、僕が注目するのはその表現方法。

 例えば、アイスクリームが溶けることで、時間の経過と2人の関係性をあらわしたりと、直接的な言葉を使わずに、多くの情報を伝えているんです。

 音楽面では、アコースティック・ギターとリズム隊が、立体的にアンサンブルを構成。流れるようなメロディーが重なり、爽やかな曲調。

 歌詞におけるオブラートに包んだ表現の数々と、曲の爽やかさのバランスもまた、面白いです。一聴したら、そんなことを歌っているとは、思いませんから。

 

9, マリーゴールド

 「マリーゴールド」は、2018年8月8日リリースのメジャー5thシングル。

 あいみょんにしては意外なほど毒がない…と言ったら、語弊があるかもしれませんが、おだやかな恋愛が描かれた曲です。

 センセーショナルな言葉やテーマが控えられたことによって、彼女の作詞家としての能力の高さが、よりダイレクトに分かる曲でもあります。

 空や雲の様子で、時間の経過や感情の変化をあらわし、こちらの感受性が研ぎ澄まされるような、繊細な歌詞です。

 

10, 今夜このまま

 「今夜このまま」は、2018年11月14日にリリースされたメジャー6thシングル。日本テレビ系ドラマ『獣になれない私たち』主題歌。

 歌詞全体が、巧みな比喩表現によって彩られた楽曲です。具体的には、ビールを連想させる言葉が並ぶんですけど、決して「ビール」というワード自体は使いません。

 それなのに、ビールの味やイメージを利用して、感情を記述していくんです。

 音楽面では、アコースティック・ギターと電子音が立体的に組み合い、その中をボーカルが自由に動きまわるようなアレンジが秀逸。

 

作詞家としてのあいみょんの魅力

 さて、ここまでシングル曲を中心に、あいみょんの楽曲を10曲とり上げてきました。最後に、彼女の作詞家としての魅力を、考察したいと思います。

 まず、彼女の表現の振り幅は、特筆すべきでしょう。センセーショナルな内容から、メロウでおだやかな曲まで、テーマも表現手法も、多岐にわたっています。

 上記で紹介してきた10曲を、リリース順に聴いていくと、初期は過激なワード選びが多く、徐々に表現の幅を広げていることが分かるでしょう。

 初期の曲が劣っているという意味では決してなく、例えば猟奇的とも言える「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」と、自殺をあつかった「生きていたんだよな」にしても、センセーショナルな言葉と、冷静な語りが共存しています。

 言い換えれば、ただ過激なことを書いているのではなくて、まず表現したいことがあり、その手段としてセンセーショナルな言葉を使っているということ。

 感情と理性が、高い次元で両立した歌詞とも言えます。

 もうひとつ挙げておきたい特徴は、共感性の高さ。曲によって、女性目線と男性目線を使い分け、それぞれ語り手になりきっています。

 変幻自在に様々なキャラクターを演じる役者のことを「カメレオン俳優」と呼ぶことがありますが、「カメレオンシンガー」とでも言ったらいいでしょうか。

 楽曲によって、キャラクターと語りの手法を変える表現手段の豊富さには、おどろかざるを得ません。

 前述したとおり、紅白への出場も決まり、2019年には2ndアルバム『瞬間的シックスセンス』のリリースも予定されています。

 彼女の表現のさらなる進化を、楽しみに待ちましょう。

個別レビュー一覧

 当サイトに掲載している、あいみょんの楽曲レビューの一覧。主に歌詞の考察をしています。

「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」歌詞の意味考察 グロテスクを増幅させる「私」の論理性
「生きていたんだよな」歌詞の意味考察 フィクション化する現実
「君はロックを聴かない」歌詞の意味考察 厨二病を生む出すロックの機能
「今夜このまま」歌詞の意味考察 ビールを連想させる言葉
「マリーゴールド」における自然現象の機能 歌詞の意味考察
「満月の夜なら」歌詞考察 アイスクリームによる情景描写