2018 年間ベストアルバム10 チャットモンチーとアイドルの10枚


イントロダクション

 文章を書くのは好きなのですが、今までこの手の記事を書いたことはありませんでした。

 でも、Twitterやブログで、音楽好きの皆さんが年間ベストを挙げているのを見て、「俺も書きたい!」との思いが沸点に達したので、初めて書いてみます。

 2018年の年間ベストアルバムです。選んだのは10作。聴いた音楽が偏っているので、ここで選んだのは邦楽のみ。

 洋楽は30作品ぐらい選んで、別記事にて書こうと思っています。

 基本的には、2018年にリリースされたスタジオ・フル・アルバムを選んでいますが、1作だけミニアルバムも入ってます。

 結果的に選んだのは、チャットモンチーが1枚、残りの9枚はいわゆるアイドル・グループの作品です。

 ということで、記事のタイトルのとおりなのですが「チャットモンチーとアイドルの10枚」となりました。

 なにを選んだか、結果だけ見たい方は、この下の目次のみご覧ください。10作品を確認できます。

 なぜチャットモンチーが1位なのか、どうしてそれ以外はアイドルばかりなのか、評価の基準はなにか。そのあたりの理由を「レビュー方針」にまとめてあります。

 そのあとに1作ごとのコメント、さらに総評をまとめたので、そちらもお読みいただけると嬉しいです。

目次
レビュー方針
なぜアイドルとチャットモンチーか?
10 アイドルネッサンス『アイドルネッサンス』
9 桜エビ~ず『sakuraebis』
8 代代代『むだい』
7 lyrical school『WORLD’S END』
6 amiinA『Discovery』
5 けやき坂46『走り出す瞬間』
4 Negicco『MY COLOR』
3 ヤなことそっとミュート『MIRRORS』
2 Maison book girl『yume』
1 チャットモンチー『誕生』
総評

レビュー方針

 なぜこの作品を、どのような基準で選んだのか。最初にレビュー方針を説明させていただきます。

 まず、もっとも基本的な前提として、僕が好きなアルバムを選びました。当たり前といえば、当たり前ですね。

 例えば、rockin’onやPitchforkだったりっていう名のあるメディアの場合は、そのメディアの色を出しつつも、一般的に認知された名作を、選ばざるをえないと思うんです。

 一定以上の規模のメディアになると、ある程度は世論をうつし、みんなが好きな(あるいはそのメディアの読者が好きな)アルバムの近似値をとっていくような作業になるよなと。

 ただ、僕のような名もなき個人が選ぶベストアルバムは、逆に好みが寄っていた方が、情報として価値があると考えています。

 個人の好みの総体が、大手メディアや世論によって作られる、客観的なベストアルバムになる、ということです。つまり、個人的なベストアルバムは、主観的であればあるほど良いんじゃないかなと。

 では、どういう基準で選んでいくのか。自分が好きなアルバムを選ぶのは、先述したとおりですが、ある程度は基準らしきものを作りました。

 ある作品は歌詞が良いから選び、ある作品はリズム構造が革新的だから、また別の作品はメロディーが保守的で好きだから、というランキングも悪くはないのですが、僕は論理的な批評が好きなんです。

 上記のような基準でアルバムを選ぶのは、ラーメンも寿司もケーキもフランス料理も駄菓子も、とにかく今年食べたうまいものを順番に並べました!って感じで、あまりにも雑多。

 くりかえしになりますが、そういう個人のランキングも、魅力的なものであるとは思います。ただ、僕はちょっと違ったコンセプトで書きたい、というだけです。

 というわけで、おもいっきり個人的に、自分のコンセプトに沿って、10作を選びました。

なぜアイドルとチャットモンチーか?

 ここからは、具体的な選考基準のご説明。

 まず、最初に考えたのは、なにを1位にするべきか。これはすんなりとチャットモンチーの『誕生』に決まりました。

 理由は、僕がとにかくチャットモンチーが好きだから、というのが一番ですが、2018年という時代において、十分に革新性と大衆性を両立していると思うからです。

 1位が決まりました。次に考えたのは、それ以外のアルバムをどのような基準で選ぶのか。

 言い換えれば、チャットモンチー『誕生』を1位にするならば、どのような基準でランキングを作るべきか、ということ。このランキングは『誕生』を1位にするためのものとも言えます。

 僕が重視したのは、革新性と大衆性のバランス。

 商品として流通するポップ・ミュージックは、多くのリスナーに気に入られることを目指しています。

 もちろん、音楽性を重視し、売れることよりも、自分の音楽を追求するバンドやシンガーもいるでしょう。チャットモンチーも、まさにそのようなバンドだと思います。

 でも、CDやダウンロードで販売される音楽は、少なくとも売れないよりは、売れたほうが良いと考えられているということです。

 ただ、ベタだと売れるかもしれないけど退屈だし、かといって実験的すぎると売れない。ポップ・ミュージックは、この革新性と大衆性のバランスが面白いと思うんです。

 そして、このバランス感覚の振れ幅が大きいのが、いわゆるアイドル・グループ。

 語弊を恐れずに言えば、アイドルはバンドやシンガーソングライター以上に、売れることに意欲的。いわば即物的とも言えます。

 そのため、もちろん保守的なポップスを下敷きにしているグループも多いのですが、すこしだけ実験的であったり、意外なジャンルの要素を持ち合わせていたりと、前述のバランス感覚が絶妙なんです。

 ということで、ポップでありながら、革新的な魅力も持ち合わせている。そんな10作を選びました。

 作品によって、保守的なポップスをアップデートしたネオ歌謡曲であったり、変拍子と転調の嵐なのにポップスとしても成立していたりと、そのバランス感覚はさまざま。

 結果として、2018年という時代において、どのぐらい実験的でもポップだと認められるか。ポップの基準のようなものを、ぼんやりとでも示すことができればと考えています。

 では、10位から1位まで、選考理由とともに順番に発表します!

10 アイドルネッサンス『アイドルネッサンス』

 残念ながら、2018年2月24日をもって解散したアイドルネッサンス。

 セルフ・タイトルとなる本作『アイドルネッサンス』は、解散後の5月4日にリリースされた、彼女たちのラストアルバムです。

 これまでにリリースした全ての音源が収められたアルバムのため、オリジナル・アルバムとは呼びがたいのですが、現在のアイドル・シーンの一面を、象徴していると思うので選びました。

 「アイドルネッサンス」という名が示唆するとおり、「名曲ルネッサンス」をテーマにしたグループ。大江千里からthe pillows、KANA-BOONまで、古今東西のさまざまな楽曲を、モダンなアイドル・ソングにアレンジし、カバーしています。

 過去の焼き直しといえばそうなんですけど、メロディーは名曲から借り、アレンジメントやサウンド、ダンスや歌唱で変化をつけるというのは、ありそうでなかった方法論。

 例えばPerfumeやBABYMETALが、アイドル・グループのフォーマットを利用しつつ、それぞれテクノとメタルでクオリティを追求するのとは、まったく逆の発想とも言えます。

 「ポップとはなにか?」「時代性とはなにか?」も考えさられました。

9 桜エビ~ず『sakuraebis』

 スターダストプロモーション所属、私立恵比寿中学の妹グループ的な存在として活動する、桜エビ~ずの1stアルバム。

 スタダ所属のアイドルというと、前述のエビ中をはじめ、ももクロやTEAM SHACHIなど、ロックな要素を持っていたり、変化球のねじれたポップ感覚を持っているのが特徴。

 でも桜エビ~ずは、ストレートないい曲を揃えた、スタダでは異端なグループと言えます。

 ただ、1曲目「僕らのハジマリ」のエレキギターの使い方、5曲目「オスグッド・コミュニケーション」の前のめりのリズムとシンセの使い方など、スタダらしい飛び道具的なエッセンスもあり。

 48Gや坂道とは一風変わった、モダン歌謡曲路線のアルバム。

8 代代代『むだい』

 今回選んだ10作のなかで、唯一のミニアルバムです。

 オルタナティヴ・ロックやポストロックなど、従来のアイドル・ポップからは離れた音楽性をもったグループも、最近は珍しくありません。

 代代代(だいだいだい)も、そんなグループのひとつ。「SOLID CHAOS POP」というジャンル名を掲げる彼女たち。

 音楽性はハードコアテクノ的なサウンドを基調としていますが、驚くのは曲によってノイズ・ロックを彷彿とさせるほど、実験的であるところ。

 例えば、2曲目「凶ぺ」にはいわゆるコード進行がなく、電子ノイズが鳴り響く、無調性の楽曲。

 7曲目「歪んだ歪み、歪んだ歪み」は、電子的な持続音が鳴るなか、ボーカルのメロディーが奥の方から聞こえる、音響が前景化した1曲。

 しかも、ただの糞ノイズってわけじゃなくて、いずれの曲も歌入りのポップソングとして、ギリギリ成り立っているところがまた面白いです。

7 lyrical school『WORLD’S END』

 ヒップホップアイドルユニット、lyrical schoolの4thアルバム。

 ブラック・ミュージックを取りこんだJ-POPって、どうしてもリズムやバック・トラックは借り物で、メロディーは歌謡曲というバランスになりがち。

 しかも、リズム構造にしても、ちょっと時代遅れだということが、少なくありません。

 でも、lyrical schoolの『WORLD’S END』は、思いのほかリズムが現代的。2010年代以降のアメリカのヒップホップに通じるリズムを持っています。

 さらに、その上に乗るラップも、良い意味で日本語をいかした引っかかりとメロディー感があり、これぞ日本のヒップホップ!と呼べるクオリティを、備えていると思います。

 ラップのリズムも声質も、狙いすぎずにスムースなところが良い!

6 amiinA『Discovery』

 北欧のポストロックを連想させる、壮大で清潔感のあるトラックに、少女感のある等身大のボーカルが重なるamiinA。

 おそらく狙っているんでしょうが、地声でさりげなく歌っている雰囲気が、わらべ歌のようにも響き、幻想的な世界観を演出しています。

 荘厳なポストロックと、NHKみんなのうたが融合したようなバランス。

 「ポストロック」と一口に言っても、あまりにも範囲が広すぎますが、彼女たちの特徴は、アコースティック楽器をいかし、フォーク・ミュージックを彷彿とさせるところ。

 Sigur Rósを思わせる躍動感もあります。

5 けやき坂46『走り出す瞬間』

 乃木坂46、欅坂46につづく坂道シリーズ、けやき坂46の1stアルバム。

 秋元康がプロデュースする48Gおよび坂道シリーズは、音楽としては保守的で、良くも悪くも歌謡曲の延長線上にあると言えます。

 けやき坂46も例外ではなく、2018年において珍しいぐらい、王道のアイドル・ポップ。

 しかしながら、アイドル歌謡的なジャンルから、離れる傾向の強いアイドル・シーン。王道のポップスが、逆にカウンターとして機能していると思えるのが、本作『走り出す瞬間』です。

 ほかの秋元グループの楽曲には、中途半端に他ジャンルを参照したものも散見されるんですが、ストレートなモダン歌謡曲を、ブレずに作ればいいのになと思います。

4 Negicco『MY COLOR』

 新潟を拠点に活動するアイドルグループ、Negicco4作目のスタジオ・アルバム。

 多彩な作家陣による楽曲を収めながら、Negiccoの確固とした世界観があり、すべてが極上のポップスとして仕上がっています。

 ものすごく耳なじみがいいのに、どの曲もわずかに革新性や違和感をふくみ、ポップの範囲を拡大するようなアルバム。ポップスはこう作れ!というお手本のような作品です。

 例えば1曲目の「Never Ending Story」では、ポリリズムというほど複雑ではないけど、ドラムが立体的にリズムを刻み、独特の揺らぎを生み出しています。

 堂島孝平プロデュースの4曲目「愛、かましたいの」は、一聴するとカラフルなポップスですが、下品に歪んだギターだったり、キュートなシンセだったり、オモチャ箱のように多様なサウンドが詰め込まれた1曲。

 13曲目「15」(いちご)は、リズムを刻む電子音と、3人のメンバーのボーカルが、中空をはずむように飛びかう1曲。Negicco風のEDMとでも言いたくなります。

3 ヤなことそっとミュート『MIRRORS』

 オルタナティブ・ロックを基調とした音楽性をもつアイドルグループ、ヤなことそっとミュートの2ndアルバム。

 音圧の高いディストーション・ギターを多用し、曲によっては歌よりもギターが前景化するぐらい、激しいサウンドを特徴としています。

 5曲目「No Regret」のマスロックを彷彿とさせる幾何学的なギターのフレーズ、11曲目「Phantom calling」の複雑かつ正確無比なアンサンブルなど、歌無しのインスト・バンドとしても成立する楽曲のクオリティ。

 でも、メロディーが埋もれることなく、歌モノとしての魅力も備えている点が、ヤナミューの特異なところです。ただアイドルが、オルタナっぽい音楽をカバーしたわけじゃないんですよね。

 女声ボーカル4名によるコーラス・ワークも美しく、硬派なオルタナと、アイドル的ポップスを、高次に両立したアルバム。

 

2 Maison book girl『yume』

 現代音楽やポストロックをとりこんだ音楽を展開するアイドルグループ、Maison book girlの3rdアルバム。

 全21曲収録で、9曲目「MORE PAST」を除いて、奇数曲はインスト。偶数曲はボーカル入り。

 つまり、ボーカル曲とインスト曲が、交互に並ぶ構成になっています。

 このグループの音楽の特徴は、なんといってもリズム構成。3拍子と4拍子以外の変拍子を多用し、曲が始まって、まずはどのようにリズムを取るべきか、つねに耳をフラットにして音楽に向き合う必要があります。

 例えば2曲目の「言選り_」。ピアノのみのイントロ部分では、一般的な4拍子のように感じるんですけど、他の楽器が入ってきて歌が始まると、4拍子と6拍子が交互に訪れる展開。

 16曲目「レインコートと首の無い鳥」は10拍子あるいは、かなり高速な5拍子を基本として、3拍子が顔を出します。

 変拍子とか複合拍子というと、なんだか敷居の高い難しい音楽のようですけど、4分なり5分のポップ・ソングとして成立しているのが凄い。

 変則的なリズムが、音楽のハードルを上げるのではなくて、リスナーの耳をつかむフックへと転化しているんですよね。

 ちなみに3拍子と4拍子以外は、リズムを取るのが難しいと感じる人は、最初はこまかくリズムを区切って感じるといいと思いますよ。

 例えば5拍子だったら、3拍子と2拍子のセット、あるいは2拍子と3拍子のセットで感じるように。そこから、徐々にリズムの大枠をつかめるようになると、より音楽を聴く楽しみが広がるはずです。

1 チャットモンチー『誕生』

 堂々の1位! チャットモンチーの7thアルバムであり、ラスト・アルバム『誕生』です。

 3ピース・バンドとしてデビューし、ロック的なダイナミズムを持ったアンサンブルを、特徴としていたチャットモンチー。

 ドラマーの高橋久美子さん脱退により、2ピースとなってからもそれは変わらず、2ピース・バンドの限界を追求するように、生々しいサウンド・プロダクションと、変幻自在なアンサンブルを併せ持った音楽を、作り上げてきました。

 しかし、通算7作目となる本作。2017年の「機械仕掛けの秘密基地ツアー」から予兆はあったのですが、これまでのチャットモンチーとは打って変わって、大々的にシンセサイザーとコンピュータを導入したアルバムとなっています。

 そのため、この時期のチャットモンチーは「メカットモンチー」とも呼ばれます。

 そんなメカットモンチー体制で制作された本作。2018年7月22日をもって「完結」したため、前述のとおり彼女たちのラスト・アルバムとなりましたが、クリエイティヴィティはまったく衰えていません。

 シンセサイザーによる電子音が多用された、サウンド・プロダクションに耳が行きがちですが、僕はこのアルバムを一言であらわすなら、「オルタナティヴなアルバム」であると思います。

 確かに電子音らしい電子音が使われ、これまでのチャットモンチーとは、あきらかに異なる耳ざわりであるのは事実。

 サウンド的にはEDMに近いとも言えるのですが、音楽的にはEDMとは極北のところに位置している。言い換えるなら、流行りのダンス・ミュージックとは、まったく異質の音楽を鳴らしているんです。

 たとえば2曲目の「たったさっきから3000年までの話」。電子音が飛びかうバック・トラックのなかで、ボーカルが浮かび上がり、電子的なサウンドでありながら、対比的に声のぬくもりとメロディーが音楽の中心になっています。

 電子的なサウンドはひかえめな、3曲目「the key」においても、ぶっきらぼうにリズムを区切る歪んだギター、サビでのワルツのように揺れる3拍子など、少しずつ定番をハズしながら、あたらしいロックを鳴らしています。

 ラスト・アルバムでありながら、最後まで革新性をもったロックを目指すチャットモンチー。つねに冒険を続けてきた、実にチャットモンチーらしいアルバムと言えます。

総評

 以上、僕がものすごく個人的な基準で選んだ、2018年のベストアルバムでした。

 2000年代に入ったあたりから、英米では60年代のロックをアップデートした、ロックンロール・リヴァイヴァルなんてものが起こり、ヒップホップやジャズやネオ・ソウルなどのブラックミュージックも、ますます境界が曖昧になってきました。

 各ジャンルの歴史が終焉にむかって、どんどんジャンルがボーダーレスになっていく、おもしろい時代なんじゃないかなと、個人的には思っています。

 ここ日本でも、こういう流れは確実に起こっていて、2010年代以降「アイドル戦国時代」なんて言葉が生まれてからの女性アイドル・シーンは、まさにジャンルの終焉に立ち上がったブームなんじゃないかなと。

 つまり、バンドAに影響されたバンドBがデビュー、という感じで縦線に歴史が書かれるのではなく、無数のアイドル・グループたちが、もっと即物的に目新しいジャンルを取り込んでいってるんですよね。

 このあたりの自由度の高さが、アイドルの魅力のひとつです。ジャンルのつながりが時間軸ではなく、データベース的になってきたとも言えます。

 そんな状況下で、ここ数年のアイドル・シーンは、非J-POP的と思われるジャンルを吸収しながら、「ポップ」と認識される範囲を拡大してきたんじゃないかと思うんです。

 サイクルが速く、グループ数も多い、アイドル・シーン。ベタな音楽では目立てないし、かといって実験的すぎても、大きなポピュラリティは得られない。

 そんな2018年という時代において、革新性とポップさのバランス感覚の秀逸な10作を、選んだつもりです。