目次
・イントロダクション
・1, 貴方解剖純愛歌 〜死ね〜
・2, ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌
・3, どうせ死ぬなら
・4, 生きていたんだよな
・5, 愛を伝えたいだとか
・6, 君はロックを聴かない
・7, ふたりの世界
・8, 満月の夜なら
・9, マリーゴールド
・10, 今夜このまま
・作詞家としてのあいみょんの魅力
・個別レビュー一覧
イントロダクション
1995年生まれ。兵庫県西宮市出身のシンガーソングライター、あいみょん。
2015年に、タワレコ限定シングル『貴方解剖純愛歌 〜死ね〜』がリリースされたあたりから、存在は知っていました。
当時は「変わった名前だな」「すごいこと歌ってるなw」ぐらいの印象だったんですが、あれよあれよという間に、2018年には「NHK紅白歌合戦」の出場も決定。世代を代表するシンガーの1人と言っていいでしょう。
前述の「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」を含めて、彼女の書く歌詞は、いささかエキセントリック。そのため、過激な言葉づかいやテーマに、注目しがちです。
でも、うわべのセンセーショナルな言葉だけに気を取られていては、彼女の魅力を捉えそこなってしまうでしょう。
過激なように見せて、非常に巧妙なテクニックを備えた作詞家であり、シンガーであると僕は考えています。
そこで本論では、シングル曲を中心に、あいみょんの代表曲を10曲選び、彼女の魅力をお伝えしたいと思います。
ランキング形式ではなく、僕が選んだ10曲をリリース順に並べました。彼女の表現の幅広さを、つかんでいただければ幸いです。
1, 貴方解剖純愛歌 〜死ね〜
1曲目は「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」。前述のとおり、TOWER RECORDS限定で発売された、あいみょんのデビューシングルです。
2015年3月4日にリリース。同年5月20日リリースの1stミニアルバム『tamago』にも収録されています。
タイトルに「死ね」と入っているところから示唆的ですが、歌詞の内容も過激。
例えば歌い出しの歌詞は「あなたの両腕を切り落として 私の腰に巻き付ければ あなたはもう二度と 他の女を抱けないわ」。
グロテクスとも言える内容に、耳が奪われてしまいますけど、ただ過激なだけじゃないんです。語り手の「私」は、話の進めかたが人を追い詰めるように論理的で、それが怖さを増幅させています。
曲調は、ざらついたギターが印象的な、コンパクトなロック。あいみょんのハスキーな声とのバランスも、秀逸なアレンジです。
2, ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌
2曲目に紹介するのは、1stミニ・アルバム『tamago』に収録される「ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌」。
シングル曲ではないですが、あいみょんの多彩さ、面白さがよく出た楽曲なので選びました。
この曲も、まずタイトルが目を引きますよね。「ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌」。
曲名のとおりと言うべきなのか、歌詞も「ザギン」「ギロッポン」「ちゃんねー」ねど、業界用語が多用されています。
ただ、こういった用語を使う人がいた、あるいは今もいるわけで、全編にわたってネタにしてるから、わかりやすく笑えますけど、その裏には流行りを追う人への冷めた目線も感じられます。
曲調は、クランチ気味のギターが、小気味よくリズムを刻む、軽やかなロック。
3, どうせ死ぬなら
3曲目は「どうせ死ぬなら」。2015年12月2日リリースの2ndミニ・アルバム『憎まれっ子世に憚る』に収録。
どうせ死ぬならこんなことがしたいと、ひたすら語り手の願望と好きなものが、羅列されていきます。
いくつか引用すると「ジョンレノンのあの曲を聴きながら逝きたい」「太陽の塔の上で HAPPYを叫びたい」「どうせ死ぬなら ダメもとの告白もする」などなど。
でも、この曲が伝えるのは、絶望ではなくて希望。死ぬ気になって、自分の願望を思い浮かべていたら、好きなもの、愛おしいものの多さに、気づいたのではないでしょうか。
歌詞の後半に出てくる「どちらかと言えば死にたくないわ」という一節にも、そんな思いが集約されています。
4, 生きていたんだよな
「生きていたんだよな」は、2016年11月30日にリリースされた、メジャー1stシングル。テレビ東京系ドラマ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』主題歌。
2017年9月13日リリースの1stアルバム『青春のエキサイトメント』にも、収録されています。
「二日前このへんで 飛び降り自殺した人のニュースが流れてきた」という一節から始まる、センセーショナルな1曲。
でも、うわべの言葉だけに気を取られていると、この曲の本当の魅力を見失ってしまいます。
自殺の現場に群がる無数の野次馬たち。現場の写真をアップして、盛り上がるネット上。いわば自殺がエンターテイメントと化した状態を、語り手は冷めた目線で記述していきます。
そして、野次馬たちが騒ぎたてるのに対し、語り手は自殺した少女の人生を思い、涙を流すんです。現代社会や人間の異常性を、あばき出した1曲と言えるでしょう。
この曲のうわべだけに注目し「いきなり自殺とか出てきて凄い曲じゃん!」なんてリアクションをするのは、野次馬たちと一緒です。
冷めた目線のところは、メロディーで歌うのではなくたんたんと語り、感情が溢れ出すところは、メロディーで歌う構成になっていて、コントラストが鮮やか。
5, 愛を伝えたいだとか
「愛を伝えたいだとか」は、2017年5月3日リリースのメジャー2ndシングル。1stアルバム『青春のエキサイトメント』にも、収録されています。
ここまで紹介してきた、エキセントリックとも言える楽曲群とは違い、ゆるやかに恋人のことが語られていきます。注目すべきは、男性目線で書かれている点。
この曲がリリースされた当時、あいみょんは22才。それなのに20代から30代前半ぐらいの、ちょっと頼りない男性が、リアルに描かれています。
年齢や性別を超えて、他人になりきる能力も、あいみょんの特筆すべきところ。
6, 君はロックを聴かない
「君はロックを聴かない」は、2017年8月2日リリースのメジャー3rdシングル。1stアルバム『青春のエキサイトメント』にも、収録されています。
先ほどの「愛を伝えたいだとか」と同じく、男性目線で書かれたこの曲。でも、雰囲気はだいぶ異なります。
「愛を伝えたいだとか」が20代の頼りない、ダメっぽいオーラも漂う男性を描いていたのに対して、「君はロックを聴かない」で描かれるのは中学か高校生ぐらいのウブな少年。
女子を部屋に招いて、自分の好きなロックのレコードを聴かせるっていう曲です。
ロックだけが友達!というタイプの少年を、リアルに描き出していて、人によっては心がヒリヒリするんじゃないでしょうか(笑)
僕自身もロックにすがるようなタイプの学生だったので、聴きながら「うわぁ〜わかるなぁ」というポイントが、いくつもありました。
曲調はゴリゴリのロックというわけではなく、あいみょんの声とアコースティック・ギターが中心に据えられた、ミドルテンポのナンバー。
7, ふたりの世界
7曲目に紹介するのは「ふたりの世界」。こちらはシングル曲ではありません。1stアルバム『青春のエキサイトメント』に収録。
今度は女性目線で、恋人と思われる男性のことを歌っています。ピンチも倦怠期も、乗り越えた時期だと思われる恋愛が、描かれています。
男の僕からすると「女性のこういうところって分かんないな」と思うところもあり、非常にリアルティのある歌詞です。「女性ってこういうこと考えてるのかな、こわっ!」と思うポイントも、いくつかありました。
歌詞のラストを締めくくる「大好きで ちょっと嫌いで 今がある」という一節に、この曲のメッセージが凝縮されていると思います。
8, 満月の夜なら
「満月の夜なら」は、2018年4月25日リリースのメジャー4thシングル。
エロティックな歌詞だと言われることが多く、確かにベッドの中の男女を、ポエティックに描写しているんですけど、僕が注目するのはその表現方法。
例えば、アイスクリームが溶けることで、時間の経過と2人の関係性をあらわしたりと、直接的な言葉を使わずに、多くの情報を伝えているんです。
音楽面では、アコースティック・ギターとリズム隊が、立体的にアンサンブルを構成。流れるようなメロディーが重なり、爽やかな曲調。
歌詞におけるオブラートに包んだ表現の数々と、曲の爽やかさのバランスもまた、面白いです。一聴したら、そんなことを歌っているとは、思いませんから。
9, マリーゴールド
「マリーゴールド」は、2018年8月8日リリースのメジャー5thシングル。
あいみょんにしては意外なほど毒がない…と言ったら、語弊があるかもしれませんが、おだやかな恋愛が描かれた曲です。
センセーショナルな言葉やテーマが控えられたことによって、彼女の作詞家としての能力の高さが、よりダイレクトに分かる曲でもあります。
空や雲の様子で、時間の経過や感情の変化をあらわし、こちらの感受性が研ぎ澄まされるような、繊細な歌詞です。
10, 今夜このまま
「今夜このまま」は、2018年11月14日にリリースされたメジャー6thシングル。日本テレビ系ドラマ『獣になれない私たち』主題歌。
歌詞全体が、巧みな比喩表現によって彩られた楽曲です。具体的には、ビールを連想させる言葉が並ぶんですけど、決して「ビール」というワード自体は使いません。
それなのに、ビールの味やイメージを利用して、感情を記述していくんです。
音楽面では、アコースティック・ギターと電子音が立体的に組み合い、その中をボーカルが自由に動きまわるようなアレンジが秀逸。
作詞家としてのあいみょんの魅力
さて、ここまでシングル曲を中心に、あいみょんの楽曲を10曲とり上げてきました。最後に、彼女の作詞家としての魅力を、考察したいと思います。
まず、彼女の表現の振り幅は、特筆すべきでしょう。センセーショナルな内容から、メロウでおだやかな曲まで、テーマも表現手法も、多岐にわたっています。
上記で紹介してきた10曲を、リリース順に聴いていくと、初期は過激なワード選びが多く、徐々に表現の幅を広げていることが分かるでしょう。
初期の曲が劣っているという意味では決してなく、例えば猟奇的とも言える「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」と、自殺をあつかった「生きていたんだよな」にしても、センセーショナルな言葉と、冷静な語りが共存しています。
言い換えれば、ただ過激なことを書いているのではなくて、まず表現したいことがあり、その手段としてセンセーショナルな言葉を使っているということ。
感情と理性が、高い次元で両立した歌詞とも言えます。
もうひとつ挙げておきたい特徴は、共感性の高さ。曲によって、女性目線と男性目線を使い分け、それぞれ語り手になりきっています。
変幻自在に様々なキャラクターを演じる役者のことを「カメレオン俳優」と呼ぶことがありますが、「カメレオンシンガー」とでも言ったらいいでしょうか。
楽曲によって、キャラクターと語りの手法を変える表現手段の豊富さには、おどろかざるを得ません。
前述したとおり、紅白への出場も決まり、2019年には2ndアルバム『瞬間的シックスセンス』のリリースも予定されています。
彼女の表現のさらなる進化を、楽しみに待ちましょう。
個別レビュー一覧
当サイトに掲載している、あいみょんの楽曲レビューの一覧。主に歌詞の考察をしています。
「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」歌詞の意味考察 グロテスクを増幅させる「私」の論理性
「生きていたんだよな」歌詞の意味考察 フィクション化する現実
「君はロックを聴かない」歌詞の意味考察 厨二病を生む出すロックの機能
「今夜このまま」歌詞の意味考察 ビールを連想させる言葉
「マリーゴールド」における自然現象の機能 歌詞の意味考察
「満月の夜なら」歌詞考察 アイスクリームによる情景描写