あいみょん「今夜このまま」歌詞の意味考察 ビールを連想させる言葉


目次
イントロダクション
ビールの比喩
ビールを例に何を語るか?
語り手の心情
どんな恋を描いているか?
結論・まとめ

イントロダクション

 「今夜このまま」は、兵庫県西宮市出身のシンガーソングライター・あいみょんのメジャー6枚目のシングル。2018年11月14日にリリース。作詞作曲は、あいみょん。

 前々から「あいみょん」という印象的な名前のシンガーソングライターの存在は知っていたのですが、なんとなく自分には遠い音楽なのだと思い、聴いていませんでした。

 僕は私立恵比寿中学(愛称:エビ中)が好きなんですけども、そのエビ中のメンバーである星名美怜さんが、ライブで「マリーゴールド」をカバーしたことから興味を持ち、聴いてみたらハマってしまったという。

 そんなわけで、興味を持ち始めてから初のリリースとなる「今夜このまま」は、発売を楽しみにしていて、リリース後すぐに聴き込みました。

 この曲に限らず、あいみょんの歌詞はいくつもの解釈を許容する多層性のあるもの。このページでは「今夜このまま」の歌詞を、僕なりに読みといてみたいと思います。

ビールの比喩

 一聴して気がついたのは、歌詞全体にビールを連想させる表現が見られること。ビールというのはもちろん、麦芽を使ったアルコール飲料のことです。

 で、確認してみると「今夜このまま」は、日本テレビ系のテレビドラマ『獣になれない私たち』の主題歌になっていて、このドラマにはクラフトビールバーが出てくるんですね。ほとんどドラマを観ないもので、知りませんでした。

 ドラマの主題歌であろうとなかろうと、ビールを用いた比喩が使われているのは事実。タイアップによって楽曲自体の意味が変質するわけではないので、ムリにドラマに引きつけることなく、歌詞のみから伝わる意味を考察していきます。

 また、実際にビールを意図した比喩かどうかよりも、大切なのは歌詞がなにを伝えようとしているか。仮にビールを比喩に用いているとして、それによって何を表現したのかが重要です。

 なので、ひとまずこの曲はビールを比喩に使っているという前提に基づいて、歌詞を読みといていきます。

ビールを例に何を語るか?

 では、ビールの比喩を用いているとして、いったいそれがどんな機能を持ち、どのような効果をあげているのか。

 ビールを思わせる部分を、順番にピックアップしながら、確認していきましょう。1番のAメロ1連目の歌詞を、以下に引用します。

苦いようで甘いようなこの泡に
くぐらせる想いが弾ける
体は言う事を聞かない
「いかないで」って
走ってゆければいいのに

 1行目から、早速ビールを思わせる言葉が並びます。「苦いようで甘いようなこの泡」とは、端的にビールをあらわす表現と言えるでしょう。

 なぜなら、苦味が前面に出た食品はそれほどありませんし、さらに「泡」と続けば、多くの人がビールを想像せざるを得ません。

 僕はビールはおろかアルコールをほとんど飲まないので、想像するしかないのですが、ビールは苦いけど美味しい、美味しいけど飲み過ぎれば酔っぱらい、体の自由を奪います。すなわち、単純に美味しいだけでなく、二面性をはらんでいるということ。

 「苦いようで甘いような」という一節には、そのようなビールの二面性が、含意されているとも言えるでしょう。

 人によってアルコールで気持ちがオープンになったり、その逆に内省的になることがあります。2行目の「くぐらせる想い」とは、そのような気持ちの変化をあらわしているのでしょう。

 3行目に続く「体は言う事を聞かない」とは、文字どおり酔って体が動かない状態を指しているとも取れますし、もともと口には出せない感情を抱えていたことを表現しているとも取れます。

 いずれにしてもビールを連想させることで、それぞれの言葉が広がりを持って響いていることが分かります。

 次に1番のBメロ歌詞を、以下に引用します。

抜け出せない
抜けきれない
よくある話じゃ終われない
簡単に冷める気もないから
とりあえずアレ下さい

 上記引用部も、書き方は抽象的であるものの、やはりビールおよびアルコールを連想させる表現が並んでいます。

 まず冒頭の「抜け出せない 抜けきれない」。アルコールが抜けないことを思わせますし、同時に自分ではコントロールできない感情をあらわしているようにも感じられます。

 4行目の「簡単に冷める気もないから」も、似たような表現と言えるでしょう。お酒の酔いから冷めるのと同時に、気持ちが冷めることもあらわしているようです。

 そして5行目の「とりあえずアレ下さい」。例によって、ここでも「アレ」は具体的には何か明かされません。

 しかし、ここでも「ビール」を代入しても成り立ちます。居酒屋などで1杯目に「とりあえずビール!」と言うのは、もはや定型文とも言える表現です。

 ここまでのビールを思わせる歌詞の流れを考えると、引用部の「アレ」にも、反射的にビールが入ると解釈して、差し支えないでしょう。

 上記Bメロをまとめると、語り手の深みにハマった感情を、アルコールが抜けないことに照らし合わせ、語っています。

 つまり、自分でもコントロールできない、あるいは理解できない感情を、アルコールで酔っ払うことに例え、表現しているということ。

 ビールの比喩を採用した理由は、形容詞で説明するよりも、語り手の感情を正確に描きだし、リスナーに伝えるためだと考えられます。

語り手の心情

 では、ビールを例に出して描写される、語り手の心情とはどのようなものか。引き続き、確認していきましょう。

 1番のサビの歌詞を、以下に引用します。

消えない想いは
軽く火照らせて飛ばして
指先から始まる何かに期待して
泳いでく 溺れてく
今夜はこのまま
泡の中で眠れたらなぁ

 引用部から察するに、語り手の抱える感情とは、成就する可能性の低い恋心でしょうか。確定的には記述されませんが、ひとまずそのように仮定して、話を進めます。

 抽象的ではありますが、引用部の前半3行は、相手との仲が発展することを願っている、と解釈可能でしょう。

 後半3行も、同じく関係の進展を願っていると思われるのですが、前半とは違いアルコールの存在を示唆する言葉が含まれています。

 まず、4行目の「溺れてく」。そして6行目の「泡の中」。

 「お酒に溺れる」という言い回しがありますが、4行目の「溺れてく」は、お酒の勢いに任せて関係が進展することをあらわした表現とも取れます。

 6行目の「泡の中」も同様に、ビールの酔いによって、進展を期待する表現だと言えるでしょう。

 語り手の心情とはどのようなものか、という問いに立ち返ると、6行目の「泡の中で眠れたらなぁ」がその答え。

 この一節は、ビールの酔いがまわった状態で眠りたい、意訳すると、酔いがまわったような夢見心地の状態で眠りたいという語り手の心情をあらわしています。

 「酔う」という言葉は、お酒にだけ用いるわけではありません。「才能に酔う」という使い方もしますし、誰かを心から慕うことを「心酔」とも言います。

 この曲においても、語り手の恋心が非常に強く、そしてお酒に酔っているかのように、制御できない状態であることを、ビールを用いて描写しているのだと考えられます。

 例えば、2番のAメロでは以下のように綴られます。

だんだん息もできなくなって
心の壁も穴だらけで
制御不能 結構不幸?
自暴自棄 です。

 「制御不能」という言葉が使われ、語り手の自分でもコントロールできない感情が、端的にあらわされたパートだと言えるでしょう。

 また、4行目には他の部分には出てこない句点(。)が打たれています。これは、他の部分が落ちついた状態で記述されているのに対して、感情をそのまま流れるように記述した、あるいは実際に語り手が発言した部分なのではないかと思います。

 そのため、わざわざ句点を打って、言葉の終わりをハッキリさせたということです。

どんな恋を描いているか?

 ここまで、ビールを連想させる歌詞であることを確認してきましたが、この曲ではビールのイメージを一貫して使い続けます。

 前述したように、この曲では恋愛関係が歌われているように思われるのですが、ではビールを用いることで描く恋愛が、どのような質のものであるか、検討します。

 2番のサビの歌詞を、以下に引用します。

言えない想いは
軽く飲み込んで 隠しちゃって
鼻の先に取り付いた本音に油断して
抱かれてく 騙されてく
今夜の夜風に
吹かれながら 揺れながら

 最初の2行は、語り手が相手に想いを伝えられない、ということが記述されています。3行目と4行目は、示唆的ではありますが、相手に遊ばれているということでしょうか。

 そして、5行目と6行目では、想いを伝えらないまま遊ばれている、切ない感情が綴られています。

 上記2番のサビ後に挿入される、大サビあるいはCメロと呼ぶべきパートの歌詞を、以下に引用します。

ねぇ もう 帰ろう 帰ろう
影も もう ねぇ 薄くなって
結局 味のない 味気のない

夜が眠る

 上記引用部は、2番のサビの続きと考えられます。語り手は結局、想いを伝えられないまま。

 3行目の「味のない 味気のない」とは、なにも進展がないこと。改行を挟んだ4行目の「夜が眠る」とは、進展のないまま夜が終わってしまうことを、あらわしているのでしょう。

 ビールの味は苦く、泡もいずれ消えてしまいます。そのようなビールのイメージを、一貫して用いる「今夜このまま」の歌詞は、ビールの味のように苦く、泡のように儚い恋。

 言い換えれば、なかなかうまくいかない切ない恋を、描いていると考えられます。

結論・まとめ

 この曲では一貫して「ビール」や「お酒」といった単語は使われず、あくまでそれを匂わせる表現を用いるのみです。

 この曖昧性が、形容詞のみで説明するよりも、また「ビール」という単語を出して直接的に書くよりも、語り手の微妙な感情を、より的確に描きだしている、というのが本論の結論です。

 お酒に酔うことと、人に酔うこと。酔って体の自由がきかなくなる事と、恋をして感情がコントロールできなくなること。

 複数の意味を共存させながら、自分で自分のコントロールができず、ふわふわした状態にあることを、「今夜このまま」は描きだしています。

 言葉におさまりきらない感情。例えば「好き」と「嫌い」の中間、あるいは混じり合った状態を描けるところが、音楽の魅力だと思っているんですが、この曲はまさに音楽の魅力が詰まった1曲です。

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