あいみょん「マリーゴールド」における自然現象の機能 歌詞の意味考察


目次
イントロダクション
設定確認
自然現象と繋がる心
「空」と「雲」が映しだす感情
恋の安定期
雲の拡大と感情の変化
結論・まとめ

イントロダクション

 「マリーゴールド」は、兵庫県西宮市出身のシンガーソングライター、あいみょんのメジャー5作目のシングル。2018年8月8日にリリース。作詞作曲は、あいみょん。

 「マリーゴールド」というタイトルが示すとおり、語り手が恋人と思われる「君」を、花のマリーゴールドに重ね、語っていく曲です。

 しかし、マリーゴールド以上に僕が気になったのは、この曲における「空」や「雲」などの自然現象。

 タイトルにもなっているぐらいですし、マリーゴールドが表現のキーとなっているのは事実ですが、同じぐらい空模様が重要な役割を果たしているように、僕には思われるのです。

 そこで、本論では「マリーゴールド」における自然現象に注目しながら、歌詞を読みといてみたいと思います。

設定確認

 最初に歌詞の大まかな設定を、確認しておきましょう。

 登場人物は、恋愛関係にあると思われる語り手と「君」。語り手の視点から、「君」のこと、2人の思い出などが綴られます。

 現在進行形の恋であるのか、過去の恋を懐かしんでいるのか、曖昧なのですが、この議論はひとまず脇に置いておきます。

 歌詞がフォーカスするのは、具体的なストーリーではなく、語り手が「君」を愛おしく思う気持ち。

 「麦わらの帽子」や「マリーゴールド」など、イマジネーションを喚起させる言葉を散りばめながら、語り手の感情が綴られていきます。

自然現象と繋がる心

 では、ここから自然現象に注目しながら、歌詞を考察していきます。

 歌い出し1行目から、自然現象を使った表現が出てきます。1番のAメロ1連目の歌詞を、以下に引用します。

風の強さがちょっと
心を揺さぶりすぎて
真面目に見つめた
君が恋しい

 上記の引用部では、風に吹かれることで、心が揺さぶられています。「寒いからテンションが下がる」というようなことは実生活にもありますが、それは過酷な環境を嫌がってのこと。自然現象と心は、本来つながっていません。

 そのため、この曲では自然現象が、心や状況をあらわす記号として、機能しているのではないかと示唆されます。

 実際、この後の歌詞にも「空」や「雲」など、自然現象をあらわす言葉が出てきて、それぞれ語り手の感情、あるいは2人の状況を映し出しているように思われるのです。

「空」と「雲」が映しだす感情

 サビに入ると、自然現象をあらわす言葉として、前述の「空」と「雲」が登場。1番のサビ1連目の歌詞を、以下に引用します。

麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと
懐かしいと笑えたあの日の恋

 4行目に「懐かしいと笑えたあの日」と記述されているため、上記引用部は現在の視点から、過去をふり返っているものと推測できます。

 そして、その過去とは3行目の「空がまだ青い夏」。青空と「笑えた」ことが繋がっており、空がポジティヴな意味で使われていることが分かります。

 続くサビの2連目では、今度は「雲」が登場。以下に引用します。

「もう離れないで」と
泣きそうな目で見つめる君を
雲のような優しさでそっとぎゅっと
抱きしめて 抱きしめて 離さない

 1連目の「空」が「笑える」とセットになっていたのに対して、上記の「雲」は「優しさ」と共に使われています。

 「空」が楽しい感情、「雲」がおだやかな感情を代表している、とも言えるでしょう。ここで重要なのは、幸福と不幸、楽しみと悲しみ、といったように、両者が完全な対立関係にはなっていない点。

 この曲においての「空」は、雲のない青空として使われています。言い換えれば「晴れ」を意味しているということ。したがって、言葉を対立させたいなら、雲よりも雨を使う方が適切です。

 しかし、この曲で使われるのは「雨」ではなく「雲」。そして「雲」は青空を隠す存在ではあるのですが、空全体を覆いつくすわけではありません。

 青空にも少なからず雲がかかるわけで、グラデーションのように、割り切れない関係であるとも言えます。

 つまり「空」と「雲」は、対立するものではなく、両者によって描写される感情もまた、対立するものではない、ということ。

 まとめると、この曲において「空」と「雲」は天気だけでなく、語り手の感情や状況をあらわしています。

 そして両者があらわす感情は、白と黒、良い時期と悪い時期、といった具合に、割り切れるものではありません。

恋の安定期

 では自然現象で、感情や状況をあらわすとして、この曲はどんな感情を描いているのか。

 先ほど、この曲が描くのが過去の恋であるのか、現在進行形の恋であるのか、曖昧だと書きました。

 結論から言うと、僕は現在進行形の恋であると考えます。過去の終わった恋をふり返っているわけではなく、現在の視点から、恋が始まった時期を思い出し、そして進行中の現在へと、視点を戻しているのです。

 すべてが楽しい時期の恋もありますが、ある程度の時間が経てば、恋は何もかもが、楽しいわけではありません。

 この曲の前半では、付き合い始めと思われる、すべてが楽しい時期の恋を回想。そして、2番に入ってからは、視点を現在に戻し、落ちついた時期の恋を、描いているのだと考えます。

 言い換えれば、楽しいことばかりでなく、楽しさと切なさ、幸せと不満が共存する、安定期とも呼べる時期の恋を描いているということ。

 そして、このような恋の繊細な面を描き出すために、先述の「空」と「雲」を使った、というのが僕の立てた仮説です。

 2番のAメロには、語り手のアンビバレントな感情が記述されています。以下に引用します。

本当の気持ち全部
吐き出せるほど強くはない
でも不思議なくらいに
絶望は見えない

 1行目と2行目は、語り手が「君」に不満を抱きつつも、それを言い出せないことを意味しているのでしょう。

 そして、続く3行目と4行目が描写するのは、不満はありつつも「君」のことが好きだという、語り手の心情です。

 お互いに言いたいことはあるけれども、とても好き。落ちついた恋の幸福感が、じんわりと伝わる表現です。

 サビに入っても、2人の状況と感情をあらわす言葉が続きます。2番のサビ1連目の歌詞を、以下に引用します。

柔らかな肌を寄せあい
少し冷たい空気を2人
かみしめて歩く今日という日に
何と名前をつけようかなんて話して

 3行目の「かみしめて」という言葉が象徴的。お互いゆるやかに、しかし深く想い合う感情が、あらわれた言葉だと言えるでしょう。

 また、1番のサビでは季節は夏でしたが、2行目に「冷たい空気」とあるとおり、上記2番では秋あるいは冬。1番の夏から数ヶ月後なのか、数年後の冬なのかは不明ですが、時間が経過していることが分かります。

 続いて、2番のサビ2連目の歌詞を、以下に引用します。

ああ アイラブユーの言葉じゃ
足りないからとキスして
雲がまだ2人の影を残すから
いつまでも いつまでも このまま

 1連目と同じく、お互いの深い愛情が感じられます。

 注目すべきは3行目の「雲」。1番のサビにも出てきた言葉です。1番で、優しさをあらわす言葉として使われていたのは、先ほど考察したとおり。

 上記2番でも、優しさや穏やかさを象徴する言葉として「雲」を解釈すれば、意味が通じます。3行目の「雲がまだ2人の影を残すから」とは、空に部分的に雲がかかっているが、影ができるだけの明るさは残っているということでしょう。

 さらに、2番のサビ後に挿入される大サビでは、この曲が描くのは、現在進行形の恋だと思わせる内容が歌われます。以下に引用します。

遥か遠い場所にいても
繋がっていたいなあ
2人の想いが
同じでありますように

 1行目に「遥か遠い場所にいても」をあるために、すでに2人は別れてしまったあとで、過去の恋の回想だと、解釈する方もいらっしゃるかもしれませんが、僕はそうは思いません。

 前半2行は、2人は同じ場所にいるけれど、一緒にいられない時も相手を思い続けたい、という意味でしょう。

 なぜなら、直前まで一緒にいる記述がなされ、さらに上記3行目から「2人の想いが 同じでありますように」と記述されているため。

 語り手は、一緒にいられない時間も「君」を思い、相手にも同じ気持ちでいてほしい、と願っているということです。「君」を想う気持ちの強さが、あらわれた一節と言えるでしょう。

 もし、1行目がすでに2人は別れたという意味なら、前後の整合性が取れないのではないでしょうか。

 もちろん、あくまで僕個人の解釈であり、これが正解!と主張したいわけではありません。解釈は複数あっていいんです。

雲の拡大と感情の変化

 ここまで「マリーゴールド」における自然現象、特に「空」と「雲」がなにを意味し、どのように機能するのかに注目しながら、歌詞を読みといてきました。

 そして考察によって「空」が楽しさ、「雲」が優しさを象徴し、この曲が現在進行形の恋を描いていることを確認しました。

 1番では付き合い始めの楽しい時期をふりかえり、2番以降は視点を現在に戻し、恋の安定期とも言える時期を、描写しています。

 この曲の中での時間の経過、および恋の質の変化を、「空」と「雲」はあらわしているのではないかと思うのです。

 1番のサビ1連目までは、空に雲はなく、楽しさしかない時期の恋愛を描写。その後1番のサビ2連目では、語り手は「雲のような優しさ」で、「泣きそうな目で見つめる君」を抱きしめています。

 これは、雲ひとつない青空のような楽しい時期が過ぎ去り、おだやかに深く想い合う時期への移行を、あらわしているのではないでしょうか。

 そして、2番のサビでは「雲がまだ2人の影を残すから」という表現から想像するに、雲が大きく広がり、時間の経過と2人の恋の安定を描写しています。

 つまり、雲の広がりと比例して、2人の時間と関係も進んでいるということです。

結論・まとめ

 以上、「マリーゴールド」は自然現象の言葉を用いることで、時間の経過と、2人の関係性をあらわしている、というのが僕の出した結論です。

 あいみょんは、微妙な感情を描き出すのが、本当にうまい人だと思います。この曲を例にとっても、具体的なストーリーが提示されるわけじゃないのに、感情や風景がリアルに浮かび上がってきます。

 いや、むしろ具体的に書き過ぎないために、リスナーのイマジネーションを刺激し、共感を生むのかもしれませんね。

 2番の大サビに出てきた「遥か遠い場所にいても 繋がっていたいなあ」という言葉を、このままずっと一緒にいて、無くなった後も想い続けていたい、と解釈するのは、あまりにもロマンチック過ぎるでしょうか?

 いずれにしても、多くの解釈を許容し、聴く人によって、様々な印象を抱く楽曲だと思います。

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