the pillows「Funny Bunny」のマジックリアリズム的世界観


 「Funny Bunny」はthe pillows(ザ・ピロウズ)の楽曲。作詞作曲は山中さわお。

 1999年発売の8thアルバム『HAPPY BIVOUAC』、2001年発売のベストアルバム『Fool on the planet』に収録。また、2009年発売のベストアルバム『Rock stock & too smoking the pillows』には、再録バージョンが収録されています。

※ 日本語のなかにローマ字が多いと読みにくいため、これ以降はthe pillowsをピロウズと表記いたします。

 ピロウズの楽曲の魅力は、なかなか言葉にするのが難しいのですが、挙げればキリがありません。歌詞の面ではイマジネーションをかきたてる雰囲気のある言葉が並び、独特の世界観をつくるところ。そして、そのイマジナティブな歌詞のなかに、聴き手を勇気づけるようなメッセージのあるところ。音楽の面では、コード進行と楽曲構造は比較的シンプルなのに、ギターのフレーズやバンドのアンサンブルに、かっこいい瞬間がいくつもあるところ。僕はピロウズのこういうところが好きです。

 「Funny Bunny」は、ピロウズの代表曲でもあり、まさにピロウズの魅力が凝縮された1曲である言えます。ロマンティックとも言える言葉選びと、聴き手の背中を押すメッセージと、バンドの有機的なアンサンブル。ここでは、僕が感じるこの曲の魅力を、歌詞と音楽の両面からご紹介します。

「キミ」は誰か

 歌詞には「キミ」が出てきます。まず、歌い出しの部分。

王様の声に逆らって
ばれちゃった夜にキミは笑っていた

 引用部の「キミ」は、歌詞の世界の中の人物のようです。しかし、サビに出てくる「キミ」は、この曲を聴いている自分に対する呼びかけのように聞こえます。

キミの夢が叶うのは
誰かのおかげじゃないぜ
風の強い日を選んで
走ってきた

 なぜ、この部分の「キミ」は呼びかけのように聞こえるのか。理由のひとつは、その後に続く歌詞が「誰かのおかげじゃないぜ」と、呼びかけるような語尾になっているからでしょう。もうひとつの理由は、歌詞全体に「王様」「オーロラ」「道化師」など、非日常的な言葉が散りばめられ、具体的な人間関係を歌っていないからではないでしょうか。

 もし、もっと具体的に語り手と「キミ」の関係を歌う歌詞だったら、「キミ」の意味が固定され、よりラブソング色の強い曲になっていたはずです。そのような意味の固定化がされていないため、この曲はイマジネーションを刺激する世界観を持ちつつ、同時に聴き手の背中を押す応援歌のようにも響きます。

 引用した「キミの夢が叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ」。この部分は、夢が叶うのはキミが頑張ったからだよ、という優しい呼びかけにも、自分が頑張らないと夢は叶わないぞ、という叱咤激励にも聞こえます。

応援歌、メッセージ・ソングとしての一面

 この曲の魅力は、周囲になじめない者の視点から書かれているところにもあります。例えば、先ほど引用した「王様の声に逆らって」という部分からは、王様という言葉を使って非日常化をしながら、社会のルールになじめない様子、権力に対する怒り、といった感情を語り手が持っていることを示唆します。

 また、「道化師」という言葉が出てくる部分の歌詞も、様々な解釈の余地があります。

道化師は素顔を見せないで
冗談みたいにある日居なくなった

 道化師がなにを意味するのか、文字通りのピエロを意味する可能性もありますが、やはりここも比喩的な意味を含んでいて、本当のことを言わない人、素顔を見せない人のことを歌っているのではないでしょうか。また、「キミ」が語り手の元恋人で、今は会うことができなくなってしまった、という解釈も可能です。意味が多層性を帯びるところも、ピロウズの歌詞の魅力だと思います。

 そして、この曲の最後の部分の歌詞には、リスナーへの応援歌である、ということが凝縮されています。

飛べなくても不安じゃない
地面は続いているんだ
好きな場所へ行こう
キミなら それが出来る

 まわりになじめなくても、自分のペースで頑張っていこうという、ピロウズからのメッセージのように響きます。こういう曲を歌ってくれるところが、僕がピロウズというバンドが好きで、心から信頼している理由です。

歌詞全体の意味

 この曲には「王様」「オーロラ」「ビーズ」「道化師」と、印象的な言葉がいくつも出てきます。「王様」を権力の象徴と解釈するなら、マジックリアリズム的に社会を風刺した歌だとも言えるし、「キミ」を元恋人と解釈するなら、今は会えなくなってしまった人の幸せを祈る歌のようにも聞こえます。さらに、前述したようにリスナーに対する応援歌のように響く部分もあります。

 印象的な言葉選びと、「キレイだねって夜空にプレゼント」「冗談みたいにある日いなくなった」のような断片的だけど具体的な出来事の提示によって、リスナーがイマジネーションを使って、曲の世界観にひたることができる。この記事のタイトルにも「マジックリアリズム」という言葉を使いましたが、非現実と現実が溶け合い、表層的な意味と、その奥にあるメッセージを、リスナー自身が想像して楽しめるところが、この曲の魅力であり、特異な点だと思います。

コード進行とアレンジ

 最後に、この曲の音楽面について。歌詞の世界観もすばらしいのですが、サウンドとアレンジにも、いくつもフックがあって、幻想的な曲の世界観を形作っています。そして、なんといってもボーカルの山中さわおさんの声が良い。

 この曲のキーはニ長調(D major)。イントロとAメロは、シンプルに2コードで進行していきます。ここでは2本のギターが、8分音符を刻んでいきます。リズムはきっちりと揃い、音質も似ており、2本のギターが一体となってコードを構築しているようです。非常に一体感があるのですが、ところどころほどけるように音の動きがあって、その有機的な耳ざわりがかっこいい。ギターに対して、ベースとドラムのリズム隊は、休符を効果的に使って、曲にグルーヴ感をもたらしています。

 曲が進み「ほどけてバラバラになったビーズ」からのBメロでは、コードがG→F#m→Bm→Gと展開していき、歌詞と対応するようにそれまで一体感のあった2本のギターもほどけて、解放感が生まれます。さらにサビになると、コードの切り替えがますます増え、ベースとドラムも8ビートを刻み、バンドの一体感もクライマックスへ。こういうメリハリのついたアンサンブルが、ロックバンドの魅力のひとつです。

 リアリティーと幻想が入り混じる歌詞に、一聴するとシンプルなのに、バンドのかっこよさが凝縮されたようなサウンド。そして、歌詞にぴったりと寄り添った、優しくも力強い、さわおさんのボーカル。ピロウズ大好きです!