欅坂46「ガラスを割れ!」歌詞の意味考察 「ガラス」の比喩はなぜ使われたのか?


目次
イントロダクション
語りの視点
「犬」の比喩
「ガラス」の比喩
曲のテーマ
結論・まとめ

イントロダクション

 「ガラスを割れ!」は、アイドルグループ欅坂46の6枚目のシングル。2018年3月7日にリリース。作詞は秋元康。

 「サイレントマジョリティー」でデビューして以来、楽曲のテーマにたびたび「反抗」が採用されている欅坂46。6thシングルとしてリリースされたこの曲も、反抗性を多分に持っています。

 「ガラスを割れ!」という命令形のタイトルが、まず挑発的。タイトルからも示唆されるように、抑圧からの脱却がテーマとなった楽曲です。

 では、実際にガラスを割ってまわる歌なのかというと、そうではありません。歌詞に「抑圧のガラスを割れ!」という一節も出てくるのですが、「ガラスを割る」という表現は、物理的な意味ではなく、比喩的に使われています。

 また、歌詞には犬を用いた比喩も出てくるのですが、なぜガラスを用いた比喩も織り交ぜ、なおかつタイトルにまで採用したのか。

 「ガラス」の比喩が用いられた理由はなにか、という視点に基づいて、この曲の歌詞の意味を、読み解いてみたいと思います。

語りの視点

 最初に、語りの視点を確認しておきましょう。歌詞をざっと見渡すと、「私」や「僕」といった一人称代名詞が出てこないことが分かります。

 「おまえ」という二人称代名詞は出てきますが、これも特定の誰かを指しているわけではありません。抑圧された状態のある人々に対する、呼びかけとして使われていると想定できます。

 つまり、この曲は特定の誰かの人間関係を描いているわけではありません。では、何が歌われているのかと言えば、「ガラスを割れ!」とい挑発的なタイトルが示唆するように、語り手が一方的にメッセージを発していきます。

 そのメッセージがどのような内容か、実際の歌詞に沿って、確認していきましょう。

「犬」の比喩

 まずは1番のAメロ前半の歌詞を、以下に引用します。

川面(かわも)に映る自分の姿に
吠えなくなってしまった犬は
餌もらうために尻尾振って
飼い慣らされたんだろう
(BOWWOW)

 上記の引用部は、実際の犬を描写しているのではなく、飼いならされた犬のように、従順な状態にある人を、「犬」を比喩に用いて描いている、と解釈すべきでしょう。

 つまり、上記の引用部で伝えたいことは、川のそばにいる犬の様子ではなく、飼い犬のように従順な状態にある人々のこと。

 1行目から2行目にかけて、「川面に映る自分の姿に 吠えなくなってしまった」とあります。これは、自分自身に吠えること、つまり自分自身を奮い立たせることなく、従順になった状態を、強調するための表現なのでしょう。

 犬の比喩は、後半にも続きます。Aメロ後半部の歌詞を、以下に引用します。

噛みつきたい気持ちを殺して
聞き分けいいふりをするなよ
上目遣いで媚びるために
生まれて来たのか?
(HOUND DOG)

 上記引用部でも、前半の内容が繰り返し確認されています。すなわち、飼い犬のように従順な状態にある人々が、犬に例えて描写されています。

 続いて、1番のBメロの歌詞を引用します。

今あるしあわせに どうしてしがみつくんだ?
閉じ込められた 見えない檻から抜け出せよ

 ここでも、犬の比喩が引き続き用いられています。飼い主に守られた、安全な状態。そのような状態を、なんとなくレールに乗り、刺激のない生活を送っている人々の状況に、照らし合わせているのでしょう。

 そう考えると、引用部1行目の「今あるしあわせ」と、2行目の「見えない檻」は、同じ状態を指しています。すなわち、レールに乗った刺激のない状態を好むなら「今あるしあわせ」、より刺激的な生活を望むなら「見えない檻」という表現になるということ。

 「しあわせ」と漢字ではなく、あえてひらがなで表記しているのは、語り手はそのような状態を、決して幸せとは考えていないから、ということでしょう。ひらがなにすることで、生ぬるい状況を強調したのではないかと思います。

 さて、ここまでずっと犬の比喩を用いた表現が続いてきました。しかし、サビに入ると「ガラスを割れ!」という言葉が使われ、比喩の質が変わります。

 犬の比喩を続けるならば、「リードを引きちぎれ!」や「檻から出ろ!」の方が適切ですが、なぜガラスを用いた比喩を用いたのか。サビの歌詞を見ながら、検討します。

「ガラス」の比喩

 サビに入ると、早速「ガラスを割れ!」という言葉が登場します。1番のサビの歌詞を、以下に引用します。

Rock you!
目の前のガラスを割れ!
握りしめた拳で Oh!Oh!
やりたいこと やってみせろよ
おまえはもっと自由でいい 騒げ!
(OH OH OH OH OH…)
邪魔するもの ぶち壊せ!
夢見るなら愚かになれ
傷つかなくちゃ本物じゃないよ

 前述したとおり、AメロとBメロで共通していた犬の比喩は、サビでは用いられていません。その代わりに、刺激のない生活を打破することを「ガラスを割れ!」という象徴的な一言で、表しています。

 言い換えれば、それまでの「犬」の比喩に代わり、サビでは「ガラス」の比喩が使われている、ということ。では、なぜガラスを割ることが、現状を打破することを表すために、採用されたのか。

 その答えは、サビの歌詞の最後の行にあります。「傷つかなくちゃ本物じゃないよ」という一節。この意味を歌詞に込めるために、犬の比喩を続けるのではなく、ガラスの比喩を織り交ぜたのでしょう。

 もし、現状を打破することだけを伝えたいのなら、犬の比喩を続けて「リードを引きちぎれ!」という表現でも良かったはず。しかし、現状を打破して、自分らしく生きるのには、痛みを伴う。その痛みを表現するために、ガラスの比喩を用いた、というのが僕の仮説です。

 では、なぜ痛みを表現するためにガラスを用いたのかと言えば、その特性が理由でしょう。ガラスは割れると、バラバラの破片になり、なおかつその破片は尖っていて、非常に危険。また、割れる時には破片が飛び散り、視覚的にも想像しやすいです。

 つまり、「ガラスを割れ!」という一節からは、自らの拳でガラスを割れば痛みを伴う事と、視覚的にもセンセーショナルに割れる様子が、伝わってくるということ。

 このような鮮やかなイメージは、「リードを引きちぎれ!」という表現を用いていたら、伝わってきません。

曲のテーマ

 さて、ここまで確認してきた内容で、歌詞のテーマもハッキリしてきました。まとめると、自分らしく生きていない人を、飼い犬に例え、その状況を打破することを「ガラスを割れ!」という一言で推奨。

 自分らしく生きることを、扇動的にすすめるのが、この曲のテーマです。では、2番に入ると、歌詞はどのように展開するのか、順番に確認していきましょう。

他人(ひと)を見ても吠えないように
躾(しつ)けられた悲しい犬よ
鼻を鳴らしすり寄ったら
誰かに撫でられるか?
(BOWWOW)
リードで繋がれなくても
どこへも走り出そうとしない
日和見(ひよりみ)主義のその群れに
紛れていいのか?
(HOUND DOG)

 ここでは、再び犬の比喩が戻ってきました。1番のAメロと同様、自分を抑え、刺激のない生活を送る人を、犬に例えて描写していきます。

 引用部6行目からは、「リードで繋がれなくても どこへも走り出そうとしない」と記述され、無気力な状態をさらに強調しています。

 次に、2番のサビの前半部分を、以下に引用します。

抑圧のガラスを割れ!
怒り込めた拳で Oh!Oh!
風通しをよくしたいんだ
俺たちはもう犬じゃない 叫べ!
(OH OH OH OH OH…)

 「ガラスを割れ!」という表現は、物理的にガラスを割ることではなく、抑圧からの脱却を比喩的に示したものだと、最初に書きました。

 上記引用部の1行目では、「抑圧のガラスを割れ!」と、比喩であることがハッキリとわかる表現が使われています。同時に、この曲のテーマも、より鮮明になっていると言えるでしょう。

 ガラスが割れる鮮烈なイメージ。そのイメージを利用して、何が砕け散る様子を描きたいのか、その理由がこの一節から分かります。

 「抑圧のガラス」というのは、抑圧とガラスがイコールで結ばれ、抑圧の象徴としてガラスが用いられている、と解釈するのが自然でしょう。つまり、ガラスは抑圧を象徴し、そのガラスが砕け散るイメージは、抑圧からの脱却を表しているということ。

 歌詞の終盤には「想像のガラスを割れ!」という表現も登場。この表現は、ガラスが抑圧の象徴であるのと同時に、目に見えないものであることを表しています。

 すなわち、ガラスは抑圧を象徴し、その抑圧というのは肉体的な拘束ではなく、社会のルールであったり、暗黙の了解であったり、目に見えない精神的なものであるということ。

 そのような状態を脱却し、自分の頭で考え、自分で行動することを、この曲では「想像のガラスを割れ!」という一言に込めて、推奨しているのです。

 また、透明なガラスを目に見えない抑圧に例えている、という解釈も可能でしょう。

結論・まとめ

 以上、「ガラス」の比喩はなぜ使われたのか、という視点で歌詞を読み解いてきました。

 考察してきたことをまとめると、この曲では2種類の比喩が使われています。ひとつは犬の比喩。もうひとつは、ガラスの比喩。

 犬は従順さ、ガラスは抑圧を象徴していて、無意識にルールを受け入れて生きるのではなく、自分らしく生きることを推奨するのが、この曲のテーマです。

 そして、犬の比喩だけにとどまらず、ガラスの比喩を用いたのは、抑圧からの脱却には痛みを伴うことを、ガラスを拳で割るイメージで描き出すため。全体をまとめると、こんなところでしょうか。

 「ガラスを割れ!」というアグレッシヴな曲名が示唆するとおり、ガラスを拳で割るイメージを巧みに利用し、目に見えない抑圧という敵との戦いを描いています。

 2種類の比喩をブレンドしながら並行して用いているのが、この曲の特徴であり、優れた点である、というのが僕の結論です。

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