目次
・イントロダクション
・語りの視点と曲のテーマ
・「That’s the way」の意味
・「僕」の心情
・「風」が意味するもの
・結論・まとめ
イントロダクション
「風に吹かれても」は、2017年10月25日にリリースされた、欅坂46の5枚目のシングル。作詞は秋元康。
「風に吹かれても」という曲名のとおり、歌詞の中で「風」が大きな意味を持っているこの曲。具体的に言うと、ストーリーを駆動する機能を、「風」が担っています。
では、実際に「風」がどのような機能を持ち、歌詞が進行するのか。考察してみたいと思います。
語りの視点と曲のテーマ
まずは語りの視点と、登場人物を確認しましょう。先に結論を言ってしまうと、この曲には「僕」と「君」が出てきます。
しかし、一人称代名詞として使われるのは「僕」という単数形ではなく、「僕たち」という複数形。この曲では、語り手である「僕」の視点から、「僕」と「君」の関係について語られます。
次に、語られる内容について。これも先に結論を言ってしまうと、「僕」と「君」が恋愛関係に発展するのか、しないのか、微妙な関係性が描かれています。
歌詞をざっと見ると「友達」「恋愛の入り口」といった言葉が散りばめられ、「僕」の「君」に対する恋愛感情が、示唆されています。
しかし、ストレートに「君」への思いを記述するのではなく、なんともじれったいと言うか、掴みどころの無い内容。
では、実際に歌詞ではどのようなことが歌われているのか。先ほどの「風」がどのように機能しているのか、という視点を意識しながら、歌詞を読み解いていきましょう。
「That’s the way」の意味
再生を開始すると、シティポップ風の軽快なイントロに続いて、「That’s the way」というフレーズが続きます。
この「That’s the way」という言葉は、メインのメロディーが始まっても、随所で合いの手にように挿入されます。何度も繰り返し出てくるということは、曲の主要なメッセージであると考えるべきでしょう。
「That’s the way」とは、英語で「そういうものさ」程度の意味。「way」は、道筋や方法を意味しますから、さらに意訳すると「世界はこういうふうにできているものだ」といった感じでしょうか。
諦めとも、達観とも取れるこのフレーズ。前述のとおり、随所で挿入され、曲の主要なメッセージのひとつと言えます。
では、何に対して「That’s the way」と言っているのか、続きの歌詞を確認していきましょう。
「僕」の心情
1番のAメロとBメロでは、「僕」の心情が語られます。Aメロの歌詞を、以下に引用します。
枯葉がひらひら 空から舞い降りて
舗道に着地するまで 時間を持て余してた
思っていたより地球は ゆっくりと回っている
胸の奥に浮かぶ言葉を拾い集めよう
引用部1行目では、「風」という言葉は用いられていないものの、枯葉を舞い落とす風の存在が感じられます。
その後の2行目から4行目までは、枯葉がゆっくりと着地する様子を見ながら、時間もまたゆっくりと流れることを、「僕」が実感している内容。
その後に続く、Bメロの歌詞を以下に引用します。
ずっと前から知り合いだったのに
どうして友達なんだろう?
お互いがそんな目で
意識するなんてできなかった
3行目の「そんな目」とは、恋愛対象として相手を認識する、ということでしょう。Aメロでは、ゆっくりとした時間の流れを、噛みしめていた「僕」。上記のBメロでは、「君」と出会ったから多くの時間が流れているのに、関係には進展がないことを、明らかにしています。
2行目の「どうして友達なんだろう?」という一節からは、「僕」が「君」を恋愛対象として見ていることも分かります。以上、AメロとBメロの歌詞では、「僕」の「君」に対する感情が確認できました。
「風」が意味するもの
では、サビに入ると、どのような展開を見せるのか。1番のサビの歌詞を、以下に引用します。
風に吹かれても
何も始まらない
ただどこか運ばれるだけ
こんな関係も
時にはいいんじゃない?
愛だって 移りゆくものでしょ?
アレコレと考えても
なるようにしかならないし
キーワードとなる「風」という単語が出てきました。上記1行目と2行目に「風に吹かれても 何も始まらない」とあるとおり、特に行動を起こさず、流されていくことを「風に吹かれる」と表現しています。
「風」という単語のみにスポットを当てれば、Aメロの枯葉が着地する描写とも共通し、止めることのできない時間の流れを表しているということ。
4行目の「こんな関係」とは、「僕」と「君」が友達関係のまま、特に進展がない状態を指しているのでしょう。
2番に入ると、より具体的に「僕」の心情、および2人の関係性が綴られます。2番のAメロの歌詞を、以下に引用します。
あの枝で揺れている一枚の葉みたいに
未来の君の気持ちは予想がつかなかった
なぜ奇跡的なチャンスを見逃してしまうんだろう?
時が過ぎて振り返ったらため息ばかりさ
引用部の1行目では、再び風の存在を思わせる「枝で揺れている」という表現が出てきました。
サビでは風に吹かれることが、なすがままに流されることの象徴として用いられていました。上記引用部でも、「風」という単語を用いず、風を感じさせる表現が使われています。
では、上記の引用部では、風がなにを表すものとして、機能しているでしょうか。2行目以降の内容を考慮すると、「予想がつかないこと」を表していると解釈できます。
なぜなら、言うまでもなく風はコントロールできるものではありません。上記の引用部では、未来の感情を予測するのは不可能だということを、人間にはコントロール不可能な風に照らし合わせて、表現しています。
歌詞の内容に当てはめると、葉がどのようなタイミングで揺れるのか予想できないように、未来の気持ちも予想できない、ということ。
上記2行目以降をまとめると、「僕」は「君」を当初は友達と見ていた。しばらくすると「君」が「僕」を、恋愛対象として見始めた。しかし、当時は友達としてしか見られなかった。そして現在、今度は「僕」の方が「君」を、恋愛対象として見始めた、ということでしょう。
Bメロでは、2人の現状がより詳細に記述されます。以下に引用します。
ふいにそういうアプローチをすると
やっぱり気まずくなるのかな
恋愛の入り口に
気づかない方が僕たちらしい
上記引用部では「恋愛」という具体的なワードが使われ、2人が友達として出会い、恋愛関係には発展していない現状が確認されます。
その後に続く2番のサビでは、再び「風」が登場。以下に引用します。
風が止んだって
ハッピーでいられるよ
そばにいるだけでいいんだ
そんな生き方も
悪くはないんじゃない?
愛しさがずっと続くだろう
ハグでもキスでもない
曖昧なままで so cool!
1番のサビでは、止めることのできない時間の流れを「風」に例え、なんとなく流れていく「僕」と「君」の関係が綴られていました。
対して上記2番のサビでは、「風が止んだ」というフレーズからスタート。「風に吹かれても」というフレーズから始まる1番とは、対照的です。
では「風が止んだ」とは、なにを意味するでしょうか。時間が止まることはありませんから、これは「僕」と「君」の関係が発展せず、現状維持のまま進んでいくことを表しているのでしょう。
1番と2番では「風」の機能が異なっています。1番では、何も進展がないまま流れていく時間を、「風に吹かれても」と表現。そして2番では、進展がない2人の関係性を「風が止んだ」と表現。前者は時間の流れ、後者は人間関係の進展を表しています。
上記の引用部をまとめると、2人は恋愛関係には発展せず、曖昧な友人関係を続けていく、ということです。
結論・まとめ
以上、「風」がどのような効果を持つのか、という視点に基づいて、歌詞を読み解いてきました。
この曲は「僕」と「君」の移りゆく関係性を描写しており、時間の経過と、2人の関係性を示す言葉として、「風」が用いられています。
この曲のテーマを端的に表したパートとして、2番のサビ後に入るCメロの歌詞を、以下に引用します。
成り行きに流されたらどこへ行くの?
あんなに眩しい太陽の日々よ
翳(かげ)り行く思い出が消えるまで
僕たちは空中を舞っていよう
人生は (人生は)
風まかせ (風まかせ)
さよならまで楽しまなきゃ
この曲は「僕」と「君」の関係にフォーカスしておきながら、大きな出来事や変化は起こりません。
もっとラブソング要素を強めるならば、「僕」が具体的なアクションを起こす、あるいは2人のストーリーを詳細に記述するべき。しかし、この曲では風に吹かれるばかりで、2人のドラマチックなエピソードが語られることはありません。
その理由はなにか。それは、この曲のテーマが2人の関係を語ることではなく、人生のあり様を伝えることにあるからです。上記引用部の「人生は 風まかせ」という一節が、そのテーマを端的に表しています。
まとめると、この曲は「僕」と「君」の関係性を歌ってはいますが、テーマは2人の関係を語ることではなく、止まることのない時間に流され、時には思い通りにいかない人生を描写すること。
随所に差し込まれる「That’s the way」というフレーズも、このテーマを象徴したフレーズと言えるでしょう。
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