「カメレオン」は、赤い公園の楽曲。作詞作曲は津野米咲。2017年8月23日発売の4thアルバム『熱唱サマー』に収録されています。
アルバム『熱唱サマー』の1曲目に収録されている「カメレオン」。アルバムの1曲目にふさわしく、イントロから音楽的なフックと疾走感に溢れた、リスナーの耳を掴む1曲です。
Aメロからサビに至るまで、どのように盛り上がり、高揚感を得られるかが、ポップ・ミュージックの醍醐味のひとつですが、その点でも「カメレオン」は秀逸。Aメロで溜め込んだエネルギーが、サビで一気に解放される展開からは、カタルシスが得られることでしょう。
サビで一気に盛り上がり、高揚感が得られるという点では、この曲は間違いなくポップなのですが、アレンジメントには実験性も持ち合わせています。
いや、「実験性」と表現したのはちょっと不適切で、実験のための実験に陥るのではなく、あくまで楽曲を魅力的にするために試行錯誤を重ね、結果的に一般的でない音やアレンジメントが含まれているということ。
フランクな言葉で言い換えれば、なんか変な音がいっぱい入ってるけど聴くとめちゃくちゃ楽しい!ということです。
楽曲の構造
この曲の構造を書き出すと、以下のようになります。
イントロ→Aメロ→サビ→間奏→Aメロ→サビ→間奏→サビ
イントロはスネアの連打から始まり、その後に入ってくるギターとベース、そしてホーン・セクション。ロック・バンドがホーンやストリングスを導入する場合、折衷的になってしまい必ずしも導入の必然性が感じられないこともありますが、「カメレオン」におけるホーンは非常に有機的にバンドと融合しています。
まず、このイントロ部分では、複数のホーンが一斉に8分音符で同じ音を吹き始め、音の壁のような厚みのあるサウンドを構築しています。ここで感じるのは、ユニゾンの強さ。
多くの楽器が同じ旋律をプレイするのは、わかりやすくダイナミズムを感じ、聴いていて非常に気持ちがいいものです。特にこのイントロ部分では、フレーズ頭の2音を除いて、同じCの音を繰り返すだけ。同じ音を8分音符で刻むだけで、こんなにもかっこいい音楽になるのか、と新鮮な驚きがあります。
Aメロに入ると、ホーン隊が一旦抜け、バンドのみに。ここで特に活躍しているのがギターです。ホーンが抜ける分、イントロとの対比でバンドのサウンドが前景化され、各楽器の音に集中しやすくなります。
それまでより音数の少ないなかを、足がもつれることも気にせず勢いで突っ走るようなギターが、疾走感とスリルを生み出しています。サビ前には、ギター以外の楽器がブレイクしたところで、ギターがカウントを取るようなフレーズを弾いて、いよいよサビへ。
ここで、イントロに続いて再びホーン・セクションが入ります。しかも、ここで吹かれるのは、イントロ部と全く同じフレーズ。Aメロで助走をつけてサビで思いっきりジャンプするような、Aメロで溜め込んだエネルギーをサビで一気に爆発させるような高揚感がここにはあります。
クラシックでも展開部を終えて主題に戻ってきたとき、ジャズのビバップでも即興部分が終わりテーマのメロディーが戻ってきたときに、一種の高揚感と解決感が生まれますが、「カメレオン」の展開も同様の構造を持っています。
イントロで聴いたシンプルでかっこいいリフが、イントロ部にはなかったボーカルのメロディーも伴って戻ってくる。その爽快感は、まさに音楽によって得られるカタルシスです。
変奏的なアレンジメント
ここまででも十分に魅力的な楽曲なのですが、赤い公園はAメロとサビを同じアレンジメントで繰り返すことには飽き足らず、さらなる展開があります。
まず、2番のAメロには、1番とは違い途中からホーンが入ってくるのですが、ユニゾンで吹くのではなく、フレーズを自由に吹いているような印象。1番のAメロと比べても、躍動感と疾走感が増していて、変奏と言っていいアレンジメントです。
2番のサビは1番のサビとほぼアレンジが変わらないものの、間奏を挟んでからのサビではまたアレンジを変え、最後のサビとのブリッジのような役目を果たしています。
このように、Aメロとサビの単純なコントラストだけではなく、イントロのフレーズがサビで再び登場したり、ホーンを効果的に使ったりと、音楽的なフックが至るところに仕掛けられており、ジェット・コースターのような疾走感とスリルのある1曲です。
しかも、ただ勢いがあるだけではなく、音楽的な伏線を次々に回収していくような、緻密な面もあります。歌詞にも少しだけ言及させていただきますが、この曲のテーマは自分探しをしても本当の自分なんて相対的なものでしかない、というようなことだと思いますが、それを全く悲観的ではなく、ポジティヴに描き出しているところも魅力です。
赤い公園のメンバーが、どのような音楽的なバックボーンを持つのか、クラシックやジャズに造詣が深いのかは存じ上げませんが、音楽に対して非常に真摯で、才能溢れるミュージシャンの集まりであることは、この1曲からも垣間見えます。