ライド 『ノーホエア』
(Ride – Nowhere)
アルバムレビュー
発売: 1990年9月15日
レーベル: Creation
『ノーホエア』は、イギリスのロック・バンド、ライドの1990年発売の1stアルバム。オアシスやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインも在籍したクリエイション・レコーズより発売。
シューゲイザー・バンドと紹介されることも多いライド。シューゲイザーとかオルタナティヴ・ロックと呼ばれる音楽ジャンルの特徴のひとつは、ノイジーなギターと美しいメロディーの融合、言い換えれば相反すると思われる要素の融合であると言えます。ライドのデビューアルバム『ノーホエア』は、まさにそのように相反するはずの、轟音ギターとバンドのグルーヴ、そして美しいメロディーの溶け合った1枚です。
アルバム1曲目の「Seagull」は、グルーヴ感抜群のリズム隊に、キラキラしたクリーントーンのギターと、耳障りなフィードバックと轟音ギターの溶け合った1曲。バラバラで複雑なようで、絶妙にすべての楽器が絡み合うアンサンブルになっています。
アルバムの1曲目にふさわしく、激しい轟音と耽美なメロディーが同居する、音楽的なダイナミズムの大きい1曲です。「Seagull」以降もバラエティ豊かな曲が続く名盤ですが、個人的にはこの1曲目の「Seagull」に、このアルバムの魅力がすべて詰まっていると言っても、過言ではないと思っています。
2曲目「Kaleidoscope」でも、前のめりになって突っ走るバンドを、ドラムが最後方から煽り、加速させていくようなエキサイトメント溢れる1曲。そんな疾走感あるバンドのアンサンブルのなかを、ボーカルのメロディーが華麗に走り抜けていきます。ギターのサウンドも、歪んではいるのですが、空間系のエフェクターも同時に使い、清潔感とキラキラ感があります。
4曲目「Polar Bear」ではトレモロがかかり、次々に波のように押し寄せるギター。さらに波を大きくするように、たっぷりとタメを作って、大振りで叩きつけるようなドラミング。その波に絶妙にかぶさるように聞こえてくる、ボーカルのメロディー。轟音ギターだけでもなければ、直線的なリズムだけでもない、サウンド・プロダクションとアンサンブルへのこだわりが感じられる1曲です。
7曲目「Paralysed」では、イントロから2本のギターが、叙情性のあるアルペジオと、いわゆる「泣きのギター」と呼んでも良さそうなフレーズを弾いています。途中からリズムが加速するように感じる部分もあり、轟音要素は控えめながら、リズムの緩急によって、耳と体がつかまれていきます。
前述したように、楽曲単位でもアルバム単位でも、轟音ギターと美しいメロディーが融合した1枚だと言えます。しかも、轟音ギターの上に、メロディアスな歌がのっているというだけではなく、バンドのアンサンブルや生み出すグルーヴ感にもフックが無数にあり、ロック・バンドとしての完成度の高さを感じさせるアルバムであるとも思います。
ボーカルのメロディーを追うことの楽しさと並列して、アグレッシブな轟音ギターによるエキサイトメントも存在していたり、とにかく音楽の楽しさがいくつも含まれた作品であるということです。このアルバムも、なるべき大音量で聴いていただきたい1枚です。