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SHISHAMO「明日も」は転調と歌詞の一体感がすばらしい!


 「明日も」は、神奈川県川崎市で結成されたロックバンド、SHISHAMOの楽曲。作詞作曲は宮崎朝子。2017年2月22日発売の4thアルバム『SHISHAMO 4』に収録されています。

 2017年の紅白歌合戦でも演奏されたこの曲。一聴して気がつくのは、曲の途中に挟まれる転調。風景がガラッと変わるような、耳に残りやすい印象的な転調です。

 心地よさと違和感のバランスが秀逸で、リスナーはすぐに「あ、雰囲気が変わった!」と気づくでしょう。しかし、この転調は音楽的にはかなり珍しい転調となっています。

 そんな転調を違和感なく曲のなかにおさめ、なおかつフックとして効果的に機能させているセンスは素晴らしいとしか言えません。また、曲調の変化が、歌詞の流れともリンクしていて、作詞と作曲の一体感という部分でも、非常に優れた1曲であると思います。

 それではこれから、この楽曲の転調の巧みさと、それに対応する歌詞について考察していきます。

歌詞と調性の対応

 前述したように、この曲には途中で転調があり、ふたつのキーの間を行き来します。1番の歌詞でいうと「良いことばかりじゃないからさ」の部分で転調があり、曲調が一変します。同時に歌詞においても、この部分で歌われる内容の切り替えがおこなわれています。

 「月火水木金 働いた」から始まるAメロで歌われるのは、平日の憂鬱や不安。そうしたネガティヴな感情が、サビではヒーローに会いに行くことによって、緩和されます。転調のタイミングに合わせて、歌詞の内容も変わる。この一体感が、この曲の魅力のひとつと言えるでしょう。

 転調がリスナーの耳をひきつける音楽的なフックとなり、同時に歌詞もそれまでの不安を一気に解消することで、音楽と歌詞が不可分にサビでハイライトを迎えています。

歌詞の内容

 次に歌詞の内容を、見ていきましょう。1番と2番では、まずAメロで平日の憂鬱について歌われ、サビでは週末にヒーローに会いにいくことで、その憂鬱が緩和される、という点では共通しています。

 しかし、1番の歌詞では語り手が「僕」、2番では語り手が「私」となっていて、語り手が変わっていることがわかります。この語り手の切り替えは、どのような効果を持っているでしょうか。ひとつには、特定の語り手に意味を固定化しないことで、より普遍性のある応援ソングになっていると思います。

 歌詞の中の語り手を「僕」だけに固定し、その「僕」の感情とストーリーを掘り下げるのではなく、無数の「僕」と「私」それぞれが抱える悩みを並列させることで、より多くの人が共感し、背中を押される曲になっているのではないでしょうか。

 1番では「僕」が不慣れな仕事に不安を抱えていることが歌われ、2番では「私」が学校でまわりになじめない悩みが吐露されます。そして、サビではそれぞれのヒーローに会いに行き、勇気をもらっています。

 ヒーローとは誰なのかも、はっきりとは記述されていませんが、憧れのバンドなのか、応援しているスポーツ選手なのか、あるいは推しているアイドルなのか、様々な可能性が想定されます。

 「明日も」を聴いているリスナーにとっては、SHISHAMOというバンドがヒーローになっている可能性もあり、まさにこの曲を聴きながらヒーローに自分を重ねているかもしれません。そのような奥行きが生まれているのも、この歌詞が持つ秀逸さであると思います。

転調

 最後に転調について、ご説明させていただきます。転調というのを簡単に説明すると、使用するドレミファソラシドの音が変わる、ということです。

 まずイントロ部分からAメロ、Bメロのキーは、変ニ長調(D♭major)。1番の歌詞でいうと「良いことばかりじゃないからさ」の部分からのサビでは、ト長調(G major)に転調します。前述したように、この転調がかなり珍しく、特徴的です。

 なぜ珍しいのかと言うと、D♭からGというのは半音6つ分上がる転調なのですが、この2種類のドレミファソラシドの間には共通する音がひとつ(Cの音)しかなく、したがって使用するコードも全く異なるため、違和感なく転調するのが非常に難しいためです。

 また、1オクターヴには12個の音がありますので、半音6個分上がるというのはちょうど半分で、最も遠い音の転調でもあります。

 しかし、「明日も」における転調では、無理な転調をしたような違和感はありません。多くのリスナーは転調した部分で、音楽理論を知らなくとも曲調が変わったということに気づくでしょう。

 違和感なく、しかし曲調が一変したことは誰の耳にもあきらか。いや、心地よい違和感と言い換えてもいいかもしれません。このような特異な転調を曲の魅力に昇華しポップに仕上げられるのは、才能やセンスとしか言いようがありません。

 「良いことばかりじゃないからさ」からサビだと書きましたが、初めてこの曲を聴いたときには、この部分のメロディーがサビだと思いました。しかし、そのあとの「痛いけど走った」から、さらにメロディーが展開します。転調で曲のイメージが変わったところで、シフトをもう一段上げるようにメロディーを発展させていくところも、この曲の魅力的なところです。

 そして、サビ後の間奏のあとに、再び6つ分上がる転調をし、ト長調から変ニ長調へと戻ります。前述したように、半音6個というのは1オクターヴの半分なので、6つ上がる転調を2回繰り返すと、元のキーに戻るということです。そして、間奏あとの転調でも、やはり心地よい違和感を耳に残しながら、曲が進行します。

SHISHAMOのセンスは凄い!

 特異な転調を使いながら、それを違和感ではなく、曲のフックとしている。さらに、歌詞と転調が完全に一致したかたちで、言葉とメロディーが不可分のように響く。

 ご本人たちは努力を重ねているのだと思いますが、このような曲を書きあげられるのは、本当にすごいセンスだと思います。SHISHAMOの世界観に身を委ねながら、この曲を聴いてみてください。