BiSH「GiANT KiLLERS」


『GiANT KiLLERS』は、2017年6月28日に発売されたBiSHのミニアルバム。全5曲収録で、うち4曲はメンバーが作詞を担当しています。トラックリストは下記のとおり。

BiSH 『GiANT KiLLERS』
01. GiANT KiLLERS
02. Marionette
03. Nothing.
04. 社会のルール
05. VOMiT SONG

以下、楽曲毎のレビューです。

01. GiANT KiLLERS
作詞は「竜宮寺育」とクレジットされていて、この曲以外の4曲はBiSHのメンバーが作詞をしています。アルバムの表題曲になっているこの曲ですが、綴りがBiSHに合わせて「GiANT KiLLERS」と、iだけ小文字にしています。今回知りましたが、BiSHの楽曲は、全てこの表記方法で統一されているんですね。

「楽器を持たないパンクバンド」として活動しているBiSHですが、1曲目の「GiANT KiLLERS」は、イントロからストリングスが入っており、またギターも様式美を感じるメロディアスなフレーズを弾いていて、パンクというよりはゴシックな印象の曲。この曲に関しては、パンクバンドよりは、ビジュアル系バンドがやりそうな雰囲気の曲ですね。しかし、サビでは男声の「Wowowowo〜(ウォオォオォオォ〜)」というコーラスが入っており、ライブでは青春パンクのようにシング・アロングできそうです。疾走感もあり、1曲目らしい曲。

歌のメロディーとしては「皆さま 良しなに」からのA、「気だる 無視で」からのB、「EVERY MORNING」からのC、「次の決戦はmaybe 金曜さ」からのD、という4つのブロックから構成されています。無理やり感のある転調もなく、程よくリズムの緩急もあり、一聴してメロディーもアレンジも非常に丁寧に組み上げられた曲だと感じました。

例えば、前述のBの部分「気だる 無視で」からの前半と、「できることから やっておきます」からの後半は、メロディーの音運びも少し違うのですが、リズムの刻み方が変わることで、前半と後半が対比的に、後半部分で加速しているように感じます。ドラムのスネアを聞いていると分かりやすくて、前半は4ビートで2拍目と4拍目に打っていて、後半は8ビートで裏打ちで4回打っています。あとは、バスドラをどの位置で踏んでいるか、何回踏んでいるか、を追って聴いても、曲のギアが上がっていく様子がわかって面白いです。

スポーツで、前評判の低いチームが強豪チームを破ることをgiant killing(ジャイアント・キリング)、またそれを達成したチームをgiant killerと呼びますが、この曲でもBiSHが、野心の深さを高らかに歌っている、と思いながら聞くと、ますますエモく響いてきます。

02. Marionette
操り人形を意味するMarionetteと題されたこの曲。作詞はモモコグミカンパニー。アイドル(と呼ぶとBiSHには不本意なのかもしれない)が、この曲を歌うというのは、自作自演のシンガーソングライターやバンドが歌うのとは違った意味の広がりが出てきますし、もうこれはBiSHが歌うからこその曲ですね。かなりの確信犯。

「おにんぎょう」という歌詞が印象的に響きますが、漢字は「お人形」と「お人業」という2種類の表記があてられていて、もうこれだけで曲のテーマと意図を全て説明してくれています。かわいい人のことを「お人形さんのようにかわいい」と形容することがあります(いや実際、僕は使ったことが無いし、最近は日常的には使わない表現かもしれません)が、「お人形」という従順でかわいい存在が、「お人業」という人を演じる仕事をするということですね。

「冷凍保存」「見世物ショー」「ガラス張りの部屋」「誰のフリ?」など、聴いていて耳に引っかかる、歌詞を見ても目がとまる、印象的な言葉が並びます。この歌詞の言葉選びもあって、1曲目「GiANT KiLLERS」同様、ゴシック風味というかビジュアル系バンドにありそうな曲だと感じました。

03. Nothing.
作詞はMarionetteに引き続きモモコグミカンパニー。タイトルは「Nothing.」と最後にドットが付いています。ピリオドを打つことで、なにかを終わりにしたい、新しく一歩を踏み出したい、という意味を込めているのでしょうか。そう思って聞くと、歌詞の世界にもまた奥行きが出てきそうです。

1曲目、2曲目とアップテンポの曲が続いたので、このあたりでチルアウトになるようなミドルテンポの曲が来るかな、と予想しつつ聴いてみると、3曲目もアップテンポな曲でした。しかし、1、2曲目のシリアスな雰囲気に比べると、垢抜けて、爽快感のある曲です。特にピアノがアレンジの肝になっています。

Aメロ部分、歌詞でいうと「書き出したノートにぽつりと」から始まる部分のピアノは、伴奏然としたアレンジで、まわりの楽器に溶け込んでいますが、1回目サビが終わって「頼りない物語だけど」からの部分では、先のAメロよりも高音を使って、リズムも細かく刻んでいて、全体の印象がだいぶ変わります。

僕は、一聴してこのパートは誰が歌っていると分かるほどは、BiSHに詳しくないのですが、ボーカルの歌い出しの声のかすれ具合もいいですね。感情的。

04. 社会のルール
作詞はハシヤスメ・アツコ。4曲目もこれまたアップテンポ。5曲入りのミニアルバムなので、勢いで突っ走る!ということでしょうか。しかし、テンポは同じぐらいの曲が続くのに、飽きたとかワンパターンという感想は、持ちませんでした。アレンジや調性で、曲の雰囲気を変えているからでしょう。

タイトルが「社会のルール」なので、社会のルールにツバを吐きまくる、ゴリゴリの毒のある曲を予想していましたが、実際に聴いてみると、アレンジも歌い方もコミカルで、社会のルールを軽やかに飛び越えていくような曲でした。おそらく生楽器ではなく、打ち込み音源だと思いますが、Aメロ部分のバックではいろいろな音が鳴っていて、現代の特盛カラフルなアイドルソングっぽく聞こえる部分もあります。

05. VOMiT SONG
作詞はリンリン。 「vomit」は、動詞では「吐き出す、嘔吐する」、名詞では「嘔吐物」という意味を持ちますから、タイトルは「ゲロの歌」といった過激な意味をこめて付けたのでしょうか。曲を聴く前にタイトルだけを見て、そのように思った次第ですが、聴いてみると、なかなかどうして、めちゃくちゃいい歌詞でした。

具体的なストーリーを持った歌詞ではないのですが、「青春」という病気と向き合い、悩んでいる心情がひしひしと伝わってきます。歌い出しの「飽きた」から始まる連は、友達と一緒にいるけど馴染めない、なんだか違和感があるなんとも言えない感情を描いているし、3つめの連では「桜」「遊具」「新学期」という言葉から、具体的な記述はないのに学生時代、青春時代のひりひりしたイメージが広がります。

「ゲロ」という言葉も1回だけ出てきます。「戻りそうで戻らないゲロが 新学期のにおいの悪天候」という部分。ゲロを吐くことを「戻す」とも言いますが、この歌詞の中での使い方だと、文字通りゲロを吐きそうな気分とも取れるし、心情を比喩的に表現しているとも取れるし、ここまで「ゲロ」という言葉を文学的に昇華した歌詞はなかなか無いんじゃないでしょうか。

1~4曲目までアップテンポな曲で突っ走ってきましたが、最後の5曲目で遂に、ややBPMを落とした曲が配置されています。サウンド的には、ベースの音がイントロからハリのある音を出していて、耳につきます。ベースはシンプルに8ビートを刻んで、その上に複数のギターが乗る、という王道のアレンジですが、ボーカルの声や言葉、各楽器の音質自体に魅力がある曲なので、飽きずに聴けます。なんといってもギターの音がいい。

2:28あたりから、右チャンネルと左チャンネルで、ギターが交互に同じフレーズを弾いていくところの音もいいし、2:43あたりから始まるギターソロの音質も、雑味たっぷり、不純物たっぷりの歪んだディストーションサウンドで、このぐちゃっとした音が、詩の世界観にも合っていると思います。

作品全体のまとめ
予想以上、と言っては失礼かもしれませんが、音楽もさることながら歌詞が非常に素晴らしい作品です。文学やロックの機能のひとつは、「青春」とか「若さ」という誰もが一度は侵される病気に向き合い、それを表現する、そしてそれが結果として誰かにとっての癒しになることだと思っています。そういう意味で、太宰治を読んで涙する昭和の若者と、BiSHのライブで涙する現代のヲタクというのは、それほど遠くなく、この『GiANT KiLLERS』という作品もそのように機能しているんじゃないかと思います。

ちなみに本作品は、基本的にはミニアルバムですが、全4形態での発売となっています。初回限定盤は、「iNTRODUCiNG BiSH」と題されたその名のとおりBiSH入門用のベスト盤的なアルバムと、Blu-ray、写真集からなる豪華セット。これを買えば良かったかな、とちょっと後悔しています。

 




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