エレファントカシマシ『風』


エレファントカシマシ 『風』

アルバムレビュー
発売: 2004年9月29日
レーベル: フェイスレコーズ

 『風』は、2004年に発売されたエレファントカシマシ16枚目のアルバム。

 エレファントカシマシの魅力は、楽曲の良さもさることながら、パワー溢れる圧倒的なライブ・パフォーマンスにもあります。宮本さんのボーカリストとしての技量と、バンドとしての一体感あふれるアンサンブル。そんなライブ・バンドとしてのエレカシの魅力が、このアルバムには詰まっています。

 まず、サウンド・プロダクション。宮本さんのボーカルをはじめとして、まるでバンドが目の前で演奏しているかのような臨場感のある生々しい音でレコーディングされています。

 そして、曲順。曲順もまるでライブのセットリストのようになっていて、アルバム全体で起承転結が感じられ、メローな曲からアグレッシブな曲まで幅広く収録されているのに、散漫な印象は全くなく、作品としてまとまっています。

 スタジオ・アルバムであるのに、音質と曲順の両面で、まるでライブ・アルバムのような耳触りなのです。前述したようにエレカシの魅力のひとつはライブ・パフォーマンスにあるのですが、その雰囲気が少なからず感じられる作品です。そういう意味ではベスト・アルバムと並んで、意外とエレカシ入門用のアルバムとしても最適なのではないかと、個人的には思っています。

 1曲目の「平成理想主義」。曲を再生すると、まるでメンバーがステージに出てきて、音合わせをしているかのようなラフで自由な雰囲気でアルバムは始まります。メンバーの空気感まで伝わってくるような音。そのまま音出しがしばらく続き、おもむろにギターがリフを弾き始め、曲がスタート。この、さりげなさも非常にかっこよく、リアリティを感じます。

 「平成理想主義」はミドルテンポながら、リズムにタメがあり、各楽器が絡み合いながらグルーヴしていて、一聴しただけでかっこいいと思うロック・チューンです。そして、やはりライブ感あふれる宮本さんの声とボーカリゼーション。もう、この1曲目の時点で、アルバムの世界に引き込まれてしまいます。

 2曲目はイントロからビートがわかりやすく、やはり即効性のあるかっこよさの「達者であれよ」。サビでの宮本さんのエモーションを絞り出すようなボーカリゼーションは、とてもスタジオ録音とは思えない生々しさがあります。

 1曲目、2曲目とガツンとくる曲が続いた後での3曲目「友達がいるのさ」。ここまでの2曲から一変して、バンドもボーカルも抑え気味のじっくり聴かせるようなイントロ。この緩急のつけ方に、ライブのセットリストのような意図を感じます。イントロは抑え目に始まるものの、ダイナミズムが非常に広くドラマチックな1曲。ガツンとした1曲目と2曲目でリスナーをアルバムの世界に引き込んだうえで、3曲目にこのようなキラー・チューンを配置されてしまっては、ますますアルバムの世界観に引き込まれざるを得ません。

 4曲目「人間って何だ」。この曲もビートがはっきりしていて、各楽器のアレンジもシンプルながら緩やかにグルーヴしていて、ロック的な楽しみのある1曲。タイトルのとおり「人間って何だ?」と問いかけ、それに対する応答という、コールアンドレスポンスの構造をした歌詞も聞き取りやすく、心にスッと届きます。

 5曲目「夜と朝のあいだに…」、6曲目「DJ In My Life」とテンポを落としたメローな曲が続き、7曲目「定め」では、またロック的なビートが戻ってきます。緩急をつけながら、不自然ではないバランスでテンポと曲想の異なる曲が並び、本当にライブを観ているような気分にさせてくれる曲順。

 そしてラスト10曲目の「風」。アルバムのタイトルにもなっているこの曲。アコースティック・ギターを中心にした、ゆったりしたアンサンブルのなか、宮本さんの歌うメロディーと言葉が響き渡ります。

いつか通ったとおりを辿り来た気がする
「いいのかい?」なんてさ 「いいのかい?」なんてさ

 ここまでアルバム1枚を通して、様々なグルーヴやエモーションを届けてくれたエレカシ。この「風」に至るまでに、すっかりこちらの耳も心もこのアルバムにチューニングが合い、引用した上記の歌詞も、1曲単体で聴くよりも深く心に染み入ります。ライブでアンコールの最後の1曲を聴くような感覚があり、この曲を聴き終わると、まるでライブを1本見終えたような満足感が残ります。ぜひ、アルバム1枚を通して聴いていただきたい作品です。