エレファントカシマシ『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』


エレファントカシマシ 『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』

アルバムレビュー
発売: 1988年11月21日
レーベル: EPIC/SONY

 『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』は、エレファントカシマシの1988年発売の2ndアルバム。

 1stアルバムで確固たるオリジナリティと音楽性を提示したバンドが、2ndアルバムをどのような作品に仕上げるべきなのか、というのは非常に難しい問題です。1stアルバムの方向性をつきつめていくべきなのか、あるいは新たな音楽性を目指すべきなのか。

 もちろん、このような二元論で割り切れるトピックではありませんが、2ndアルバムが1stアルバムとの比較で評価される側面を持つのは、事実と言わざるを得ないでしょう。

 1stアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』で、あふれ出るエモーションがそのまま音楽に具象化したような作品を作り上げたエレファントカシマシ。その1stアルバムの発売から、わずか8ヶ月後にリリースされたのが『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』です。では、そのわずか8ヶ月のインターバルで音楽はどのような進化を遂げたのか、あるいは遂げなかったのか。結論から言うと、前作のアグレッシブさは失わずに、表現力を格段に広げた1作であると思います。

 足がもつれながらも疾走していくように、ラフさとタイトさの共存した、ドライヴ感あふれるサウンドの「ファイティングマン」からスタートした前作。今作の1曲目「優しい川」は、テンポも抑え目に、ボーカルも感情を抑えたような気だるい雰囲気の歌い方で始まります。ギターの歪みも抑え目で、あきらかに前作とはサウンド・プロダクションの異なる1曲目です。

 しかし、再生時間0:35あたりから全体のリズムが切り替わり、ボーカルも「ファイティングマン」を彷彿とさせるエモーショナルな歌い方へ。各楽器とボーカルが、お互い遅れるような、前のめりになるような、直線的ではない不思議なリズムを形成します。このリズムとボーカリゼーションの切り替えは、Aメロからサビへの進行のように1曲をとおしておこなわれ、リズム的にも音量的にもレンジの広い1曲です。

 2曲目「おはよう こんにちは」は、テンポはやや抑え目なものの、前作でも聴くことのできた宮本さんのエモーショナルな歌唱が、歌い出しから堪能できます。歌い出しの歌詞は、タイトルと同じく「おはよう こんにちは さようなら」となっているのですが、これ以上にエモーショナルな「おはよう」も「こんにちは」も存在しないと言い切れるぐらいの、すさまじいパワーの込められた「おはよう」と「こんにちは」です。

 リズムがゆったりな分だけ、むしろアップテンポな曲よりも、宮本さんのボーカリゼーションの凄みが、ダイレクトに迫ってきます。また、この曲での宮本さんは、小節線を越えてしまうのではないか、バンドの演奏とズレが生じてしまうのではないかと心配になるぐらい、リズムにタメをたっぷりと取っており、バンドとボーカルの関係性も、音楽的なフックになっています。

 ささやくような静かな歌い方と、絞りだすシャウトのような歌い方が、交互に切り替わる、ドラムの冨永さん作詞作曲の4曲目「土手」、5拍子と3拍子を使った5曲目「太陽ギラギラ」など、新たな方法論に果敢にチャレンジしていく、バンドの志の高さが随所にうかがえます。しかし、この2曲を例にとっても、ただ単に今までやったことがないことをやってみる、言い換えれば実験のための実験になっているのではなく、バンドが表現できる感情の幅を拡大したい、という意思がはっきりとわかります。

 例えば「土手」の、「そばにいて 笑って」の部分で細かくボーカリゼーションを切り替える部分は、熱情を吐き出すように歌う激しさと、愛情をささやくように歌う繊細な表現の、中間点を目指しているように思えます。歌い方を変えることで、それまでは表現できなかった感情を表現する、感情表現の精度をさらに高めることを、目指したのではないでしょうか。

 アルバムのラストを飾る10曲目は「待つ男」。宮本さんは、イントロでは気だるい溜息のような声を出し、その後はエモーション全開。この圧倒的な声の支配力は1stアルバムでも確立されていたエレカシの長所のひとつですが、「待つ男」でのバンドのアンサンブルは、1stアルバムには無かった新たなグルーヴを探るかのように新鮮です。各楽器がリズムにタメを作ったり、曲の途中にバンド全体でリズムを変えたり、宮本さんも独特のタイム感で歌い、リズムが伸縮するような心地よさがある1曲です。

 『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』は、前作で磨きあげたエモーショナルな感情表現とバンドのアンサンブルを、さらに広げた1枚です。すなわち、熱量の高いボーカリゼーションとバンド・アンサンブルは捨てることなく、熱量のコントロールがより自在になった1枚。

 最高温度は前作と変わらず、温度の幅が広がった1枚と言えるのではないかと思います。アグレッシブさは無くさず、感情表現の幅を確実に広げた『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』は、理想的な2ndアルバムだと言っていいでしょう。