ボーズ・オブ・カナダ 『ザ・キャンプファイヤー・ヘッドフェイズ』
Boards Of Canada – The Campfire Headphase
アルバムレビュー
発売: 2005年10月17日
レーベル: Warp
『The Campfire Headphase』は、スコットランドのエディンバラ出身のユニット、ボーズ・オブ・カナダの2005年発売のアルバム。ワープ・レコーズ(Warp Records)から発売される、彼らの3枚目のアルバムになる。
前2作は電子音によるサウンドスケープといった趣の作品でしたが、今作『The Campfire Headphase』では、生楽器的なサウンドと電子音との融合が、今まで以上に試みられています。彼らの音楽性においては、そもそも生楽器的なサウンドも電子的なサウンドも音楽のパーツという意味で等価であり、「融合」という言葉を使うのも不適切であるかもしれません。
実際にこのアルバムを聴いてみると、まず気がつくのはギターらしき音色の積極的な使用です。2曲目「Chromakey Dreamcoat」では、早速エフェクトで揺れるようなサウンドのギターのフレーズが聞こえます。
続く3曲目の「Satellite Anthem Icarus」では、波の音とアコースティック・ギターの音が合わさり、カントリー・ミュージックの香りが漂うサウンド・プロダクション。波の音という自然音と、アコースティック・ギターの生楽器の音を、電子音とも絶妙なバランスで溶け合わせ、ボーズ・オブ・カナダらしいサウンドスケープに仕上げています。
4曲目の「Peacock Tail」も、引き続きギターの音色がフィーチャーされた暖かいサウンド・プロダクション。フレットを移動するときの指が弦をこする音が、エコーをかけられ、効果的に音楽のパーツになっています。すべての音を公平に扱うこのあたりのセンスも、実にボーズ・オブ・カナダらしいと言えるでしょう。
9曲目「Oscar See Through Red Eye」は、各楽器の音が分離しつつ、様々なサウンドが鳴らされるため、エレクトロニカというより5人組のポストロック・バンドのような音像。前作までのボーズ・オブ・カナダは、複数の音色が溶け合い、ひとつのサウンドを形成するような曲が多かったため、この曲は非常にフィジカルで新鮮に響きます。
11曲目の「Hey Saturday Sun」も、ギターとドラムに生演奏感があり、バンドで演奏しているかのような印象を受ける1曲。ただ、バックに流れる電子音にはどこか不協和な響きがあり、やはり普通のチューニングを施した演奏とは、一線を画した曲に仕上がっています。
15曲目アルバムラストの「Farewell Fire」は、ここまでの比較的ビートとメロディーのはっきりした楽曲群とは一変して、電子音のみで構成されたミニマルな1曲。音量も控えめで、聴覚が研ぎ澄まされ、音が耳の奥まで浸透していくような、文字通りミニマル・ミュージック的な曲です。再生時間は8分を超えるものの、アルバムの最後の曲が、このようなチルアウトになっているというのも、良い流れだと思います。
前2作の良い部分も引き継ぎつつ、ギターの音色の大幅な導入によって、カントリーやポスト・ロックの要素も感じられる今作。電子音が前面に出ていない分、エレクトロニカになじみのない方でも、聴きやすい1枚ではないかと思います。
また、日本盤のボーナストラックとして16曲目に収録されている「Macquarie Ridge」は、トレモロのようなエフェクトのかかった音が、拡散していくように広がっていくようなイメージの佳曲。気になる方は、こちらもチェックしてみてください。