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Boards Of Canada『Trans Canada Highway』/ ボーズ・オブ・カナダ『トランス・カナダ・ハイウェイ』


ボーズ・オブ・カナダ 『トランス・カナダ・ハイウェイ』
Boards Of Canada – Trans Canada Highway

ディスクレビュー
発売: 2006年5月29日
レーベル: Warp

 『Trans Canada Highway』は、スコットランドのエディンバラ出身のユニット、ボーズ・オブ・カナダの2006年発売のEP。

 ボーズ・オブ・カナダの音楽は、和声進行に基づいて、メロディーと歌詞が流れていくような、明確なフォームを持ちません。そのため、サウンド自体が前景化され、音楽に対する耳と意識が研ぎ澄まされる感覚を得られるのが、彼らの音楽の魅力。本作も、自由で美しい音楽に満たされた1枚です。

 1曲目「Dayvan Cowboy」は、わずかに毛羽立ったようなサウンドの電子音によるイントロから、高音の電子音とドラムのビートが加わり、じわじわと音楽が姿をあらわしてくる1曲。再生時間2:07あたりからは、バンド感のある肉体的なサウンドに切り替わり、エレクトロニカというよりポストロック・バンドのような耳ざわりへ。

 ボーズ・オブ・カナダの作品は、1曲目にアルバムの世界観への入口となるような、リスナーの耳をチューニングするような曲が配置されることが多く、「Dayvan Cowboy」を聴きながら、この作品に向かう心と耳の準備をしましょう。

 2曲目の「Left Side Drive」は、音数が絞り込まれ、電子音らしいサウンド・プロダクションの1曲。3曲目の「Heard from Telegraph Lines」も、やわらかな優しいサウンドの電子音が、ほどよい長さで持続していく、アンビエントな音像の1分ほどの曲。

 4曲目「Skyliner」は、ここまでの3曲に比べてリズムがはっきりとした1曲。ドラムのサウンドとリズムが立体的で、そのリズムに持続音がまとわりついたり、電子音のフレーズが絡みついたりと、独特のグルーヴ感があります。音色の美しさと、リズムの複雑さのバランスが秀逸。5曲目の「Under the Coke Sign」には、レコードを再生するときの針のノイズのような音が入っています。そのせいか、全体としても暖かみを感じる耳ざわり。

 ラスト6曲目は、1曲目に収録されている「Dayvan Cowboy」をアメリカ人DJオッド・ノズダム(Odd Nosdam)がリミックスしたもの。前半は、リミックスという情報が無かったら、別の曲かと思うぐらい雰囲気が異なります。しかし、3分過ぎあたりから、原曲を感じられる雰囲気へ。こちらのリミックス・バージョンの方が、1曲のなかでの音数と音量のコントラストが大きくなっています。

 6曲収録のEPということ、さらに6曲目にはリミックスも含んでいるため、アルバムのように流れを意識して聴くべきなのか微妙なところではありますが、全体としては美しい音像を持った良盤であると思います。ややミニマルでアンビエントな印象が強いですが、美しいサウンドの持続音の中を、多彩なリズムが横断し、メロディーとリズムが不可分に溶け合うボーズ・オブ・カナダらしい作品。

 余談ですが、ボーズ・オブ・カナダというグループ名に、本作のタイトルは「トランス・カナダ・ハイウェイ」となっていますが、彼らはカナダ出身ではなく、スコットランド出身。

 グループ名は、彼らが子供のころに親しんでいた教育番組を製作する「カナダ国立映画制作庁」(National Film Board of Canada)に由来するとのこと。「トランス・カナダ・ハイウェイ」のタイトルの由来は発見できなかったのですが、それほどカナダに強い思い入れがあるということでしょうか。

 





Boards Of Canada『Tomorrow’s Harvest』


ボーズ・オブ・カナダ 『トゥモローズ・ハーヴェスト』
Boards Of Canada – Tomorrow’s Harvest

アルバムレビュー
発売: 2013年6月5日
レーベル: Warp

 『Tomorrow’s Harvest』は、スコットランドのエディンバラ出身のユニット、ボーズ・オブ・カナダの2013年発売のアルバム。ワープ・レコーズ(Warp Records)からリリースされる彼らのアルバムは、本作で4枚目。

 エレクトロニカの代表的なグループと目されるボーズ・オブ・カナダ。単純化が過ぎることを承知で言えば、ダンスを目的とした電子音楽がテクノだとすると、ダンスを目的としない電子音楽がエレクトロニカである、ということになるでしょう。

 使用する機材やサウンド・プロダクションは、テクノに近い部分もあるものの、ボーズ・オブ・カナダが『Tomorrow’s Harvest』までの3作で作り上げてきた音楽は、いずれも音楽の快楽が断片的に散りばめられた、全く新しいポップ・ミュージックでした。

 もう少し具体的に言うと、歌のメロディー・ラインを追う、定型的なリズムに乗って体を揺らす、といった音楽から得られる楽しみが一度解体され、断片となった美しいメロディーやかっこいいドラムのパターンが、再構築された音楽。

 だから、ロックやポップスを楽しむ感覚で彼らの音楽に触れると、最初は戸惑いを覚えるものの、徐々に彼らの音楽のなかにもポップな要素が含まれていることに気づき、いつのまにか音楽に没頭することになります。また、音楽を解体することによりサウンドが前景化され、音そのものを楽しむ音楽でもあります。

 『Tomorrow’s Harvest』までの3作で、多種多様な音楽のパーツを用いて、独自のサウンドスケープを作り上げたボーズ・オブ・カナダ。それでは、本作ではどのような音楽が鳴らされているのか、数曲を例に挙げながらご紹介したいと思います。

 1曲目は「Gemini」。ファンファーレのような電子音に続いて、清廉なストリングスの音が、開放的に広がっていきます。このままミニマル・ミュージックのように時間が流れるのかと思いきや、途中からストリングスの音を上書きするように電子音が折り重なっていきます。そこから、徐々にメロディーやリズムのようなものが生まれてきて、音楽が躍動し始めるような展開。リスナーの注意をサウンドに向けさせたうえで、音楽の情報量を増やす、あるいは質を変える手法は、実にボーズ・オブ・カナダらしいと言えます。

 3曲目「White Cyclosa」は、バックに流れるドローンのような電子音に、音色の異なる複数の電子音が乗っていく1曲。前作『The Campfire Headphase』で聴かれたギターなどの生楽器感のあるサウンドとは、全く異なるサウンド・プロダクションになっています。前作はアコースティック・ギターの音色を用いたこともあり、カントリーなどルーツ・ミュージックを感じさせる要素がありましたが、本作では電子音らしい電子音をメインに使い、透明感のあるサウンドを作り上げています。

 6曲目「Cold Earth」は、電子音の美しさと、跳ねるようなリズムが耳に残る、壮大でイマジナティヴな曲。8曲目の「Sick Times」は、タイトルからダウナーな雰囲気を想像しましたが、リズムとメロディーが絡み合うような躍動感に溢れています。

 ラスト17曲目の「Semena Mertvykh」は、不穏な空気が漂うドローン音の上を、やはりダークで不協和な電子音が漂う1曲。前作も最後はチルアウト的な曲でしめられていましたが、『Tomorrow’s Harvest』も同様の流れ。考えてみれば、1曲目にイントロダクション的な曲を配置し、最後にアウトロを意識した曲を配置するのは、ボーズ・オブ・カナダのような個性を持った音楽には、好ましい展開と言えます。

 電子音らしい電子音を駆使して、ときには美しい、ときには不穏な空気を演出し、様々な風景を喚起させる1枚です。サウンド的には、ここまでの4枚のアルバムの中で最も電子音らしい、エレクトロニカ然としたサウンドを持ったアルバムだと思います。

 





Boards Of Canada『The Campfire Headphase』


ボーズ・オブ・カナダ 『ザ・キャンプファイヤー・ヘッドフェイズ』
Boards Of Canada – The Campfire Headphase

アルバムレビュー
発売: 2005年10月17日
レーベル: Warp

 『The Campfire Headphase』は、スコットランドのエディンバラ出身のユニット、ボーズ・オブ・カナダの2005年発売のアルバム。ワープ・レコーズ(Warp Records)から発売される、彼らの3枚目のアルバムになる。

 前2作は電子音によるサウンドスケープといった趣の作品でしたが、今作『The Campfire Headphase』では、生楽器的なサウンドと電子音との融合が、今まで以上に試みられています。彼らの音楽性においては、そもそも生楽器的なサウンドも電子的なサウンドも音楽のパーツという意味で等価であり、「融合」という言葉を使うのも不適切であるかもしれません。

 実際にこのアルバムを聴いてみると、まず気がつくのはギターらしき音色の積極的な使用です。2曲目「Chromakey Dreamcoat」では、早速エフェクトで揺れるようなサウンドのギターのフレーズが聞こえます。

 続く3曲目の「Satellite Anthem Icarus」では、波の音とアコースティック・ギターの音が合わさり、カントリー・ミュージックの香りが漂うサウンド・プロダクション。波の音という自然音と、アコースティック・ギターの生楽器の音を、電子音とも絶妙なバランスで溶け合わせ、ボーズ・オブ・カナダらしいサウンドスケープに仕上げています。

 4曲目の「Peacock Tail」も、引き続きギターの音色がフィーチャーされた暖かいサウンド・プロダクション。フレットを移動するときの指が弦をこする音が、エコーをかけられ、効果的に音楽のパーツになっています。すべての音を公平に扱うこのあたりのセンスも、実にボーズ・オブ・カナダらしいと言えるでしょう。

 9曲目「Oscar See Through Red Eye」は、各楽器の音が分離しつつ、様々なサウンドが鳴らされるため、エレクトロニカというより5人組のポストロック・バンドのような音像。前作までのボーズ・オブ・カナダは、複数の音色が溶け合い、ひとつのサウンドを形成するような曲が多かったため、この曲は非常にフィジカルで新鮮に響きます。

 11曲目の「Hey Saturday Sun」も、ギターとドラムに生演奏感があり、バンドで演奏しているかのような印象を受ける1曲。ただ、バックに流れる電子音にはどこか不協和な響きがあり、やはり普通のチューニングを施した演奏とは、一線を画した曲に仕上がっています。

 15曲目アルバムラストの「Farewell Fire」は、ここまでの比較的ビートとメロディーのはっきりした楽曲群とは一変して、電子音のみで構成されたミニマルな1曲。音量も控えめで、聴覚が研ぎ澄まされ、音が耳の奥まで浸透していくような、文字通りミニマル・ミュージック的な曲です。再生時間は8分を超えるものの、アルバムの最後の曲が、このようなチルアウトになっているというのも、良い流れだと思います。

 前2作の良い部分も引き継ぎつつ、ギターの音色の大幅な導入によって、カントリーやポスト・ロックの要素も感じられる今作。電子音が前面に出ていない分、エレクトロニカになじみのない方でも、聴きやすい1枚ではないかと思います。

 また、日本盤のボーナストラックとして16曲目に収録されている「Macquarie Ridge」は、トレモロのようなエフェクトのかかった音が、拡散していくように広がっていくようなイメージの佳曲。気になる方は、こちらもチェックしてみてください。

 





Boards Of Canada『Geogaddi』/ ボーズ・オブ・カナダ 『ジオガディ』


ボーズ・オブ・カナダ 『ジオガディ』
Boards Of Canada – Geogaddi

アルバムレビュー
発売: 2002年2月13日
レーベル: Warp

 『Geogaddi』は、スコットランドのエディンバラ出身のユニット、ボーズ・オブ・カナダの2002年発売のアルバム。ワープ・レコーズ(Warp Records)と契約後、2枚目のアルバムになる。

 エレクトロニカというジャンルを代表するグループ、ボーズ・オブ・カナダ。彼らの音楽の特徴は、美しいメロディー、体が自然と動いてしまうリズム、耳に心地よいサウンド、といった音楽から得られる享楽を構成する要素が解体され、再構築されているところ。

 もう少し詳しく説明すると、一般的なポップ・ミュージックが持つ定型的なリズムや、和声とメロディーによる進行感は希薄なものの、あらゆる面において、音楽の気持ちのよいポイントが含まれているということです。そのため、Aメロが終わったらサビが来るな、というような聴き方は通用せず、常に一寸先は闇のような緊張感とワクワク感があります。

 1曲目「Ready Lets Go」から、メロディーでもリズムでもなく、サウンド自体が前景化されたような心地よい電子音が、耳に浸透してきます。「Ready Lets Go」というタイトルが示すとおり、アルバムの世界観への入口となる1曲。

 1分ほどしかないイントロダクション的な1曲目に続いて、2曲目「Music Is Math」ではサウンドもメロディー(らしきもの)もよりはっきりした形をあらわします。ドラムの音も無機質で電子的な響きを持っているのに、不思議と冷たい感触はなく、サウンドの一部に溶け込んでいます。こちらのタイトルは「音楽は数学」となっておりますが、数学的な法則に基づいた音楽という印象は、少なくとも僕は持ちませんでした。むしろ、暖かみのあるサウンドが、自由に広がっていくようなイメージの1曲。

 4曲目「Gyroscope」は、叩きつけるようなドラムのビートが、リズム的にもサウンドの耳ざわりも気持ちよく、ダンス・ミュージックのように機能する要素があります。もちろん、四つ打ちのビートのようにわかりやすいものでもなく、一種の違和感のようなものもしっかりと感じられ、それが音楽のフックになっています。

 5曲目は「Dandelion」。「dandelion」とはタンポポを意味する英語。歌詞がない音楽ではありますが、タイトルとサウンドのイメージを結びつけて聴いてみると、あらたなイメージが広がることがあります。個人的には、この曲のサウンドは淡い赤のような暖色系のイメージだったので、黄色いタンポポを思い浮かべながら聴くことで、音の印象も変わりました。もちろん、言葉のイメージに引っ張られすぎるのも、不適切ではありますが。

 6曲目「Sunshine Recorder」は、不穏な空気感を持ったイントロから、その後に入ってくるぶっきらぼうなドラム、どこか不協和なメロディーとベースのような音が、シリアスで不安な雰囲気を醸し出します。しかし、7曲目の「In the Annexe」は、前曲とは打って変わって、水が滲んでいくようなサウンドを持ったキーボードのメロディーが、優しく心地よい1曲。

 10曲目「1969」は、比較的はっきりしたビートの上に、エフェクトのかかったボイスや、ソフトなサウンドの電子音が乗っかる、ロック色を感じる1曲。「1969」という記号的なタイトルも、ヒッピー文化や政治の季節をイメージしているのか、そうした文化的背景も含めた当時のロック・ミュージックを意識しているのか、なかなか示唆的です。

 19曲目の「Dawn Chorus」は、音が空間に広がっていくようなサウンド・プロダクション。空間と時間をサウンドが満たしていく感覚が、シューゲイザーのようでもあります。直訳すれば「夜明けの合唱」というタイトルも、サウンドとマッチしていて素敵。音楽家・シンセサイザー奏者の冨田勲さんの作品に『ドーン・コーラス』というものがありますが、繋がりがあるのかどうかは分かりません。

 20曲目「Diving Station」では、スペーシーな音空間のなかを、ピアノの音が軽やかに響きます。シンプルなピアノの音色が選択されていることに、少し安心するのと同時に、ここまでアルバムの世界観にひたってきたせいか、若干の異物感を感じるのも面白いところ。いずれにしても、宇宙を漂うような電子音とピアノの音色の相性が良く、ピアノが綴るメロディーも親しみやすいもので、非常に美しい1曲です。

 『Geogaddi』のような作品を言語化するのは非常に難しい、というよりそもそも言語化する意味があるのか、とも思えますが、イマジナティヴな美しい音楽が鳴っていることは事実です。前述したように、はっきりしたメロディーや構成が無いということで、難解な音楽かのような印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、逆に言えばリスナーそれぞれが、楽しみ方を探求できる作品だということ。ぜひ、先入観を持たずに自由な気持ちと耳を持って、聴いてみてください。

 





Boards Of Canada『Music Has The Right To Children』


ボーズ・オブ・カナダ 『Music Has The Right To Children』
Boards Of Canada – Music Has The Right To Children

アルバムレビュー
発売: 1998年4月20日
レーベル: Warp, Matador

 『Music Has The Right To Children』は、スコットランドのエディンバラ出身のユニット、ボーズ・オブ・カナダの1998年発売のアルバム。イギリスではワープ・レコーズ(Warp)、アメリカではニューヨークのインディーズ・レーベル、マタドール(Matador)より発売。ワープ・レコーズから発売された1枚目のアルバムであるが、これ以前にも自身のレーベルであるMusic70と、イギリスのインディーズ・レーベルSkam Recordsより、作品をリリースしている。

 エレクトロニカを代表する2人組ユニット、ボーズ・オブ・カナダ。エレクトロニカというジャンル、および彼らの音楽性を一言であらわすなら「ダンス要素のないテクノ」と言ったところでしょうか。もちろん、このようなジャンル分けや説明は単純化が過ぎますが、彼らの音楽性を言語化するうえで、遠くはない表現です。

 ボーズ・オブ・カナダの音楽には、一般的なポップソングが持つような形でのメロディー、リズム、和声進行がありません。というと非常に実験的で、取っつきにくい音楽のような印象を与えるかもしれませんが、むしろ確固とした形式を持つ曲よりも、サウンド自体が前景化され、各人が自由に楽しめる音楽という一面もあると思います。

 ただひたすらサウンドが持つ心地よさに身を委ねたり、ダンスとは違った意識でリズムを追ってみたり、目を閉じて音楽からイメージされる風景を想像したり、と自由に楽しめる余地があるということです。

 1曲目「Wildlife Analysis」から、柔らかなサウンドのなかを、羽が漂うようにメロディーらしきものが聞こえてくる、不思議なオーラとサウンド・プロダクションを持ったアルバムです。電子音であるはずなのに、なぜだか暖かみと懐かしさを感じる音色。シームレスに繋がる2曲目の「An Eagle in Your Mind」では、ビートも入ってきますが、いわゆる四つ打ちとは真逆で、定型的なリズム・フィギュアを持ちません。

 6曲目「Sixtyten」も、比較的はっきりしたドラムのリズムに絡み合うように、様々なサウンドが気まぐれに鳴り、時には広がるような不思議な音空間。人によっては、怖いと感じたり、かわいいと感じたりするかもしれない、サウンド・プロダクションの1曲です。1分にも満たない8曲目「Kaini Industries」では、メロディーのような、音階のような音の動きが心地よく響きます。9曲目「Bocuma」は、暖かみのあるメロディーとサウンドが、広い空間に広がっていくような1曲で、心がほっと落ち着きます。

 ここまで書いてきたのは、あくまで僕が聴いたうえでの感想です。このアルバムの魅力は、一般的なポップ・ミュージックのフォームを採用しないことで、リズム、メロディー、サウンドといった音楽を構成する要素を相対化し、リスナーに楽しみ方の自由を与えてくれているところにあります。

 音楽の各要素がメロディーやリズムのように分離することなく、すべてが溶け合い、公平に音楽を作っているとも言えます。また、曲にはそれぞれイマジナティヴなタイトルが付けられていますので、タイトルのイメージと実際の音を結びつけながら聴いても、楽しみ方が広がると思います。

 このアルバムには、音楽の聴き方を自分で探すような楽しみもあります。メロディーと歌詞を追う、8ビートのリズムに乗る、というような楽しみ方ではなく、サウンドに身を委ねながら、今までに気づくことのなかったリズムやサウンドの魅力に出会えることがあります。

 ぼーっと聴き流すこともできますし、サウンドに没頭しすぎてトリップするような感覚に陥ることもあります。少なくとも僕は、この作品およびボーズ・オブ・カナダに出会い、音楽の聴き方が確実に更新されました。興味を持った方はぜひ聴いてみてください。