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Mogwai『Happy Songs For Happy People』/ モグワイ『ハッピー・ソングス・フォー・ハッピー・ピープル』


モグワイ 『ハッピー・ソングス・フォー・ハッピー・ピープル』
Mogwai – Happy Songs For Happy People

発売: 2003年6月17日
レーベル: [PIAS] Recordings, Matador

 スコットランドのポストロックバンド、モグワイの4thアルバムです。

 1stアルバムで鮮烈なデビューを果たしたバンドが、そのあと実験と試行錯誤を重ねて音楽性を広げ、スケールアップして自分たちの原点に戻ってくる…僕はそういうタイミングのアルバムが好きなんですが、モグワイの『Happy Songs For Happy People』は、まさにそういう位置の作品です。

 轟音ギターと静寂のアンサンブル、静と動のコントラストが鮮やかな1st『Mogwai Young Team』、ギター中心のアンサンブルをさらに磨き上げた2nd『Come On Die Young』、ストリングスやホーンを導入し音楽性を野心的に広げた前作『Rock Action』。そして、4作目が今作『Happy Songs For Happy People』です。

 今作では、これまでの3作で培ってきた音楽的アイデアとアンサンブルをもとに、静と動のコントラストを演出する彼ら得意のギター・ミュージック色が戻り、バランスの良い仕上がりになっています。また、ヴォコーダーを導入しているのも、今作の注目点のひとつ。

 今までにも、ボーカルを入れた曲がたびたびあったモグワイ。今作では1曲目や4曲目などでヴォコーダーを使用し、声を完全にバンドのサウンドの一部に取り込んでいます。

 伴奏があり、その上にボーカルのメロディーが乗る、という構造ではなく、バンドのアンサンブルを追求するモグワイの態度が垣間見えるアプローチだと言えます。

 1曲目の「Hunted By A Freak」は、静と動というほどコントラストを強調した曲ではないものの、ゆったりとしたテンポから、徐々にアンサンブルが熱を上げていく展開は、これぞモグワイ!という1曲。これまでのモグワイの音楽性の総決算のようでもあり、アルバムのスタートにふさわしい曲と言えます。

 2曲目は「Moses? I Amn’t」という示唆的というべきか、不思議なタイトル。ギター・オリエンテッドなアンサンブルよりも、サウンドを前景化させた、アンビエントな1曲。

 3曲目「Kids Will Be Skeletons」は、ギターを中心にしながら、全ての楽器が緩やかに絡み合いグルーヴしていく、モグワイらしい1曲。

 4曲「Killing All The Flies」は、音数を絞ったイントロから、轟音へと至るコントラストが鮮烈。この曲でもヴォコーダーを使用。

 5曲目の「Boring Machines Disturbs Sleep」は、アンビエントで音響的な1曲。ボーカル入りですが、メロディーが前景化されるというより、むしろメロディーはバックのサウンドに溶け合い、言葉がサウンドの中で浮かび上がっているようなバランス。ここまで、収録楽曲のバランス、流れも良いと思います。

 6曲目の「Ratts Of The Capital」は、8分以上に渡ってバンドの緻密なアンサンブルが続く1曲。ヴァース→コーラスという明確な形式を持っているわけではありませんが、次々に展開があり、聴いていて次に何が起こるのかとワクワクします。

 8曲目は「I Know You Are But What Am I?」。イントロから、ピアノが時に不協和音も使いながらシンプルな旋律を弾き、奥から微かな電子音が聞こえてくる前半。

 そこから、徐々に音が増えていき、音楽がはっきりとしたポップ・ミュージック的なフォームを形成するか、しないか、と緊張感のある後半へ。わかりやすく展開があるわけではありませんが、音数を絞ることでスリルが生まれ、ずっと聴いていたくなるから不思議。

 ラスト9曲目の「Stop Coming To My House」は、唸るような轟音ギターが渦巻き、中盤からは音が洪水のように押し寄せる1曲。この曲もモグワイ節が炸裂しています。

 気になる曲の気になるポイントだけに触れるつもりが、7曲目の「Golden Porsche」以外すべての曲に触れてしまいました。

 前述したように、ここまで3作で音楽性とアンサンブルの幅を確実に広げてきたモグワイが、これまでの中間総決算という感じで仕上げた4作目が今作『Happy Songs For Happy People』。

 アルバム全体を通しての流れ、サウンド・プロダクション、バンドのアンサンブル、と全てのバランスが良く、おすすめできる1枚です。

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Mogwai『Rock Action』/ モグワイ『ロック・アクション』


モグワイ 『ロック・アクション』
Mogwai – Rock Action

アルバムレビュー
発売: 2001年4月30日
レーベル: [PIAS] Recordings, Matador

 『Rock Action』は、スコットランド出身のポストロック・バンド、モグワイの2001年発売の3rdアルバム。前作『Come On Die Young』に引き続きプロデューサーは、デイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)。

 轟音ギターと静寂のコントラストが鮮烈な1stアルバム『Mogwai Young Team』と、音数を絞り緻密なアンサンブルを練り上げた2ndアルバム『Come On Die Young』。前2作ではギターを中心とした、アンサンブルを構築していったモグワイ。

 今作ではキーボードやストリングスやホーンなどを使用し、サウンドの色彩はより鮮やかに、同時にバンド・アンサンブルにおいてもさらなる実験を重ねています。

 「Sine Wave」と題された1曲目。前作の1曲目「Punk Rock:」に続いて、示唆的なタイトルです。アンビエントな雰囲気のイントロから、水面に波紋が広がっていくようなエフェクトのかかったギターが入り、徐々に楽器と音数が増加。サウンドはどれも生々しく、生楽器のサウンドをサンプラーで解体して再構築したような耳ざわりの1曲。

 2曲目の「Take Me Somewhere Nice」は、イントロからゆったりしたギターのフレーズとドラムが絡み合い、様々な風景が立ち現れるようなアンサンブル。そのイマジナティヴな演奏と音像は、実にモグワイらしいと言えます。しかし、ストリングスが導入されていたり、ボーカルが入っていたり(今までも一部の曲には入っていましたが)と、音楽的語彙を増やそうという野心の伝わる1曲。

 3曲目「O I Sleep」もボーカル入り。1分弱の曲ながら、ピアノの音が美しく、アルバムの中でインタールードのような1曲。

 4曲目の「Dial: Revenge」も、前2曲に続き、ボーカル入りの曲が続きます。イントロからアコースティック・ギターが使用され、今までのモグワイからすると意外性のあるサウンド・プロダクション。

 しかし、ボーカルのメロディーも、複数のギターと絡み合うように、有機的にバンドのアンサンブルに回収され、モグワイらしいゆったりしたグルーヴ感の堪能できる仕上がり。ボーカルのメロディーは間違いなく美しいのに、バンドと溶け合い、あえて前景化させないかのような絶妙なバランスになっています。

 5曲目「You Don’t Know Jesus」は、静寂のイントロから、徐々に盛り上がり、轟音ギターのクライマックスへ。しかし、轟音ギターの洪水のなかを、電子音が漂うようにメロディーを紡ぎ、確実に新しい方法論を取り入れていることがわかります。圧倒的な量感の轟音ギターに鼓膜を震わされる快感と、耽美なメロディーを耳で追う心地よさが、両立された1曲。

 7曲目「2 Rights Make 1 Wrong」は、クリーン・トーンのギターとドラムが絡み合う前半から、徐々に音が増えていく展開。どこかのタイミングで轟音ギターが炸裂するのではと期待していると、轟音ギターではなくホーン・セクションとシンセサイザーが加わり、壮大なサウンド・プロダクションへ。轟音ギターの代わりにホーンとシンセを用いたアレンジメント…というわけではないのでしょうが、当然ながら轟音ギターが押し寄せる展開とは耳ざわりが異なり、モグワイの音楽性の広がりを実感する1曲。

 ちなみに日本盤には8曲目「Secret Pint」のあとに、ボーナス・トラックが2曲収録されています。「Secret Pint」は3分40秒ほどの曲ですが、その後10分の無音部を挟み、9曲目「Untitled」、10曲目「Close Encounters」が収録。iPodなどに取り込んだとき、「Secret Pint」のあと10分ほど無音が続きますが、エンコードの失敗ではありません。僕はエンコードの際のエラーかと思い、確認してしまいましたが(笑)

 過去2作のギター・ミュージックを追求しようという姿勢から、さらに1歩を踏み出し、ストリングスやホーンが導入され、サウンドの色彩は遥かに鮮やかになっています。個人的には、ギターを中心としたアンサンブルを追求していたモグワイが好きですが、『Rock Action』もサウンドと音楽性の幅を広げた、クオリティの高い1作であると思います。

 





Mogwai『Come On Die Young』/ モグワイ『カム・オン・ダイ・ヤング』


モグワイ 『カム・オン・ダイ・ヤング』
Mogwai – Come On Die Young

アルバムレビュー
発売: 1999年3月29日
レーベル: Chemikal Underground, Matador

 『Come On Die Young』は、スコットランド出身のポストロック・バンド、モグワイの1999年発売の2ndアルバム。プロデューサーは、マーキュリー・レヴ(Mercury Rev)のメンバーでもあるデイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)。アメリカでは、ニューヨークの名門インディペンデント・レーベル、マタドール(Matador)より発売。

 モグワイというバンドを説明するときに、「静と動」「轟音」「ノイズ」といったキーワードが用いられることがあります。確かにエモーションを爆発させたような轟音ギターは、モグワイの魅力のひとつ。しかし今作では、1stアルバム『Mogwai Young Team』で聴かれた轟音は控えめに、音数は絞り込まれ、隙間さえも音楽の内部に取りこんだような、緊張感に溢れたアンサンブルを構築しています。

 シンプルなサウンドのギターとベースに、ソリッドな硬い音質のドラム。各楽器のリズムとサウンドが、ゆったりとしたテンポのなかで溶け合い、美しくも厳しい、荒涼な大地や冬の海が目に浮かぶようなサウンドスケープ。アルバム終盤には、前作で聴かれた轟音ギターも登場し、エモーションと知性が同居するギター・オリエンテッドなアルバムです。

 1曲目は「Punk Rock:」。そのタイトルから、轟音ギターが圧倒的音圧で押し寄せる曲を期待する人も多いでしょう。しかし、聴こえてくるのは、爪弾くようなギターと淡々としたスポークン・ワード。ただ、大きい音で速い曲をやるのがパンクなのではなく、新しい音楽に向かい続ける姿勢こそがパンクなんだ!というモグワイのエモーションの表出でしょうか。

 タイトルに付されたコロン(:)も示唆的。コロンは、その後に説明や言い換えを続ける記号ですから、このアルバムは2曲目以降も僕たちなりのパンク・ロックですよ、という意思表示にも思えます。

 2曲目「CODY」は、複数のギターとリズム・セクションが、絡み合いそうな、ほどけていきそうな、絶妙なバランスのアンサンブルを作り上げるスローテンポの1曲。音数は少なめに、隙間のあるアレンジメントですが、この曲から伝わるのは緊張感やスリルではなく、非常にゆったりとしたリラックスした雰囲気。

 3曲目「Helps Both Ways」は、ドラムのサウンドが生々しくレコーディングされ、音量も大きく、前景化されています。2曲目とは打って変わって、音数を絞り込むことでスリルを演出し、緊張感のあるアンサンブル。

 4曲目「Year 2000 Non-Compliant Cardia」は、ゆったりと大きくリズムを刻むリズム・セクションと、ノイジーなギターと電子音による持続音、さらに複数のギターのリズムが溶け合い、音響の深さを感じる1曲。

 7曲目は「May Nothing But Happiness Come Through Your Door」。硬質なサウンドのドラムがリズムをキープするなか、シンプルなギターのフレーズと、奥で流れる電子音が、レイヤーのように重なり、徐々に溶け合っていく前半。それに対して、ギターが波のように定期的に押し寄せては引いていく後半と、コントラストのある1曲。

 11曲目の「Christmas Steps」は、10分を超える圧巻の大曲。1stで展開された静寂と轟音のコントラストが、さらに音数を絞り込み、よりタイトなかたちで再現されています。不穏な雰囲気のイントロから、しばらくミニマルなアンサンブルが続き、再生時間3:48あたりから突如としてベースがスイッチを入れるように登場。

 そこから徐々に、テンポ、リズム、音量が上がり、堰を切ったかのように轟音ギターとエモーションが溢れ出す後半へ。1曲のなかでのダイナミズムが非常に大きく、なおかつ1stからの焼き直しというわけでもなく、モグワイのパンク精神が炸裂した1曲です。

 前述したように、1stに比べると轟音の要素は抑えられた作品と言えますが、その代わりに音数を絞って、緊張感やコントラストを作り出しています。バンドの表現力と音楽的語彙をさらに増した1枚であると言えるでしょう。

 





Boards Of Canada『Music Has The Right To Children』


ボーズ・オブ・カナダ 『Music Has The Right To Children』
Boards Of Canada – Music Has The Right To Children

アルバムレビュー
発売: 1998年4月20日
レーベル: Warp, Matador

 『Music Has The Right To Children』は、スコットランドのエディンバラ出身のユニット、ボーズ・オブ・カナダの1998年発売のアルバム。イギリスではワープ・レコーズ(Warp)、アメリカではニューヨークのインディーズ・レーベル、マタドール(Matador)より発売。ワープ・レコーズから発売された1枚目のアルバムであるが、これ以前にも自身のレーベルであるMusic70と、イギリスのインディーズ・レーベルSkam Recordsより、作品をリリースしている。

 エレクトロニカを代表する2人組ユニット、ボーズ・オブ・カナダ。エレクトロニカというジャンル、および彼らの音楽性を一言であらわすなら「ダンス要素のないテクノ」と言ったところでしょうか。もちろん、このようなジャンル分けや説明は単純化が過ぎますが、彼らの音楽性を言語化するうえで、遠くはない表現です。

 ボーズ・オブ・カナダの音楽には、一般的なポップソングが持つような形でのメロディー、リズム、和声進行がありません。というと非常に実験的で、取っつきにくい音楽のような印象を与えるかもしれませんが、むしろ確固とした形式を持つ曲よりも、サウンド自体が前景化され、各人が自由に楽しめる音楽という一面もあると思います。

 ただひたすらサウンドが持つ心地よさに身を委ねたり、ダンスとは違った意識でリズムを追ってみたり、目を閉じて音楽からイメージされる風景を想像したり、と自由に楽しめる余地があるということです。

 1曲目「Wildlife Analysis」から、柔らかなサウンドのなかを、羽が漂うようにメロディーらしきものが聞こえてくる、不思議なオーラとサウンド・プロダクションを持ったアルバムです。電子音であるはずなのに、なぜだか暖かみと懐かしさを感じる音色。シームレスに繋がる2曲目の「An Eagle in Your Mind」では、ビートも入ってきますが、いわゆる四つ打ちとは真逆で、定型的なリズム・フィギュアを持ちません。

 6曲目「Sixtyten」も、比較的はっきりしたドラムのリズムに絡み合うように、様々なサウンドが気まぐれに鳴り、時には広がるような不思議な音空間。人によっては、怖いと感じたり、かわいいと感じたりするかもしれない、サウンド・プロダクションの1曲です。1分にも満たない8曲目「Kaini Industries」では、メロディーのような、音階のような音の動きが心地よく響きます。9曲目「Bocuma」は、暖かみのあるメロディーとサウンドが、広い空間に広がっていくような1曲で、心がほっと落ち着きます。

 ここまで書いてきたのは、あくまで僕が聴いたうえでの感想です。このアルバムの魅力は、一般的なポップ・ミュージックのフォームを採用しないことで、リズム、メロディー、サウンドといった音楽を構成する要素を相対化し、リスナーに楽しみ方の自由を与えてくれているところにあります。

 音楽の各要素がメロディーやリズムのように分離することなく、すべてが溶け合い、公平に音楽を作っているとも言えます。また、曲にはそれぞれイマジナティヴなタイトルが付けられていますので、タイトルのイメージと実際の音を結びつけながら聴いても、楽しみ方が広がると思います。

 このアルバムには、音楽の聴き方を自分で探すような楽しみもあります。メロディーと歌詞を追う、8ビートのリズムに乗る、というような楽しみ方ではなく、サウンドに身を委ねながら、今までに気づくことのなかったリズムやサウンドの魅力に出会えることがあります。

 ぼーっと聴き流すこともできますし、サウンドに没頭しすぎてトリップするような感覚に陥ることもあります。少なくとも僕は、この作品およびボーズ・オブ・カナダに出会い、音楽の聴き方が確実に更新されました。興味を持った方はぜひ聴いてみてください。