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Mogwai『Hardcore Will Never Die, But You Will』/ モグワイ『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』


モグワイ 『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』
Mogwai – Hardcore Will Never Die, But You Will

発売: 2011年2月14日
レーベル: Rock Action, Sub Pop

 スコットランド出身のポストロック・バンド、モグワイの7作目のスタジオ・アルバム。その挑発的なタイトルから、初めて聴くまで、暴力的な轟音ギターが炸裂するアルバムだと思い込んでいた『Hardcore Will Never Die, But You Will』。

 実際の音はと言うと、轟音ギターも入っており、モグワイのハードな面が好きな方も気に入るアルバムだと思います。しかし、彼らのシグネチャーとも言うべき轟音ギターに加えて、実に多彩なギターのサウンドが聴けるアルバムでもあります。

 僕はモグワイのギター・オリエンテッドなアンサンブルが好きな質なので、このアルバムは彼らのアルバムの中でも特にお気に入りの1枚。

 ボーカルが入っている曲もありますが、バンドの伴奏に対してメロディーを乗せるというより、バンド・アンサンブルの一部に回収されていると言ってよい仕上がり。アルバム全体としても、アンサンブル志向の作品であると言えます。

 1曲目から「White Noise」という象徴的なタイトルですが、クリーン・トーンのギターが絡み合う、サウンドもアンサンブルも美しい1曲です。轟音に頼らず、徐々にシフトを上げるように、バンド全体がグルーヴしていく展開が秀逸。

 2曲目の「Mexican Grand Prix」は、画一的なビートのイントロから、徐々に加速していくようなアレンジメントが緊張感を生んでいます。ボーカルにはヴォコーダーがかけられ、完全にバンドの一部に取り込まれています。モグワイのボーカルを前景化しないアレンジが好きです。

 3曲目「Rano Pano」は、毛羽立ったような、ざらついた耳触りのギターが、次々に折り重なっていくイントロから、早々に耳と心を持っていかれます。もう、倍音に次ぐ倍音!という感じで、非常に心地いいです。人によってはノイズとしか思わないのかもしれませんが(笑) 途中から入ってくる高音のスペーシーなギターも良い。

 4曲目「Death Rays」。これはサウンドもアンサンブルも美しい1曲です。電子音と思われる音も、ストリングスも、ディストーション・ギターも、すべてが自然に溶け合い、ひとつの有機的なサウンドを構成しています。

 5曲目「San Pedro」は、イントロだけ聴くと、ボーカルが入ってきそうなロックな曲。しかし全編インストで、激しく歪んだ複数のギターが絡み合い、せめぎ合うようなアンサンブルが展開されます。

 6曲目の「Letters To The Metro」は、ピアノがフィーチャーされ、このアルバムの中では最もエレクトロニカ色の強い1曲。

 7曲目「George Square Thatcher Death Party」は、5曲目「San Pedro」に続いて、こちらもボーカルが入ってきそうな曲。と思って聴いていると、途中からボーカルが入ってきます。

 このボーカルにもヴォコーダーがかけられ、いわゆる歌ものではありません。イントロの雰囲気は、ちょっとソニック・ユース(Sonic Youth)っぽいと感じました。

 8曲目「How to Be a Werewolf」は、電子的な持続音が響くイントロから、徐々にメロディーとリズムが重なっていき、音楽が立ち上がってくるようなアンサンブルが心地いいです。

 再生時間1:04あたりから、ドラムがスネアとバスドラを叩き始めるところで、まずシフトが上がります。そこからベースが入るところでもう一段上がって…という進行感が、たまらなく良いです。こういう段階的な盛り上げ方の演出もモグワイらしい。

 9曲目「Too Raging to Cheers」は、イントロから電子的なサウンドのキーボードが、揺らぎながら広がっていく、アンビエントな音像。そこから、徐々に音が増え、生楽器とエレクトロニクスが有機的に絡み合っていきます。

 ラスト10曲目の「You’re Lionel Richie」は、今アルバム最長の8分を超える大曲。静と動のコントラストが鮮やかな、壮大な曲をアルバムの最後に配置することの多いモグワイ。

 今アルバム最後の「You’re Lionel Richie」も、轟音ギターあり、美しい旋律あり、盤石のアンサンブルありの1曲。堂々としたスローなテンポで、時空を歪めるように轟音ギターが唸り、そのギターを包み込むようにアンサンブルが構成されます。

 前述したとおり、僕はギターを中心にした肉体的なアンサンブルが好きなのですが、このアルバムは轟音ギターのみに頼らず、多彩なサウンドが響く1作です。

 轟音ギターとクリーン・トーンのギター、生楽器と電子的な耳触りのサウンドの融合も秀逸で、サウンド的にも聴きやすいアルバムであると思います。

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Mogwai『Happy Songs For Happy People』/ モグワイ『ハッピー・ソングス・フォー・ハッピー・ピープル』


モグワイ 『ハッピー・ソングス・フォー・ハッピー・ピープル』
Mogwai – Happy Songs For Happy People

発売: 2003年6月17日
レーベル: [PIAS] Recordings, Matador

 スコットランドのポストロックバンド、モグワイの4thアルバムです。

 1stアルバムで鮮烈なデビューを果たしたバンドが、そのあと実験と試行錯誤を重ねて音楽性を広げ、スケールアップして自分たちの原点に戻ってくる…僕はそういうタイミングのアルバムが好きなんですが、モグワイの『Happy Songs For Happy People』は、まさにそういう位置の作品です。

 轟音ギターと静寂のアンサンブル、静と動のコントラストが鮮やかな1st『Mogwai Young Team』、ギター中心のアンサンブルをさらに磨き上げた2nd『Come On Die Young』、ストリングスやホーンを導入し音楽性を野心的に広げた前作『Rock Action』。そして、4作目が今作『Happy Songs For Happy People』です。

 今作では、これまでの3作で培ってきた音楽的アイデアとアンサンブルをもとに、静と動のコントラストを演出する彼ら得意のギター・ミュージック色が戻り、バランスの良い仕上がりになっています。また、ヴォコーダーを導入しているのも、今作の注目点のひとつ。

 今までにも、ボーカルを入れた曲がたびたびあったモグワイ。今作では1曲目や4曲目などでヴォコーダーを使用し、声を完全にバンドのサウンドの一部に取り込んでいます。

 伴奏があり、その上にボーカルのメロディーが乗る、という構造ではなく、バンドのアンサンブルを追求するモグワイの態度が垣間見えるアプローチだと言えます。

 1曲目の「Hunted By A Freak」は、静と動というほどコントラストを強調した曲ではないものの、ゆったりとしたテンポから、徐々にアンサンブルが熱を上げていく展開は、これぞモグワイ!という1曲。これまでのモグワイの音楽性の総決算のようでもあり、アルバムのスタートにふさわしい曲と言えます。

 2曲目は「Moses? I Amn’t」という示唆的というべきか、不思議なタイトル。ギター・オリエンテッドなアンサンブルよりも、サウンドを前景化させた、アンビエントな1曲。

 3曲目「Kids Will Be Skeletons」は、ギターを中心にしながら、全ての楽器が緩やかに絡み合いグルーヴしていく、モグワイらしい1曲。

 4曲「Killing All The Flies」は、音数を絞ったイントロから、轟音へと至るコントラストが鮮烈。この曲でもヴォコーダーを使用。

 5曲目の「Boring Machines Disturbs Sleep」は、アンビエントで音響的な1曲。ボーカル入りですが、メロディーが前景化されるというより、むしろメロディーはバックのサウンドに溶け合い、言葉がサウンドの中で浮かび上がっているようなバランス。ここまで、収録楽曲のバランス、流れも良いと思います。

 6曲目の「Ratts Of The Capital」は、8分以上に渡ってバンドの緻密なアンサンブルが続く1曲。ヴァース→コーラスという明確な形式を持っているわけではありませんが、次々に展開があり、聴いていて次に何が起こるのかとワクワクします。

 8曲目は「I Know You Are But What Am I?」。イントロから、ピアノが時に不協和音も使いながらシンプルな旋律を弾き、奥から微かな電子音が聞こえてくる前半。

 そこから、徐々に音が増えていき、音楽がはっきりとしたポップ・ミュージック的なフォームを形成するか、しないか、と緊張感のある後半へ。わかりやすく展開があるわけではありませんが、音数を絞ることでスリルが生まれ、ずっと聴いていたくなるから不思議。

 ラスト9曲目の「Stop Coming To My House」は、唸るような轟音ギターが渦巻き、中盤からは音が洪水のように押し寄せる1曲。この曲もモグワイ節が炸裂しています。

 気になる曲の気になるポイントだけに触れるつもりが、7曲目の「Golden Porsche」以外すべての曲に触れてしまいました。

 前述したように、ここまで3作で音楽性とアンサンブルの幅を確実に広げてきたモグワイが、これまでの中間総決算という感じで仕上げた4作目が今作『Happy Songs For Happy People』。

 アルバム全体を通しての流れ、サウンド・プロダクション、バンドのアンサンブル、と全てのバランスが良く、おすすめできる1枚です。

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Mogwai『Rock Action』/ モグワイ『ロック・アクション』


モグワイ 『ロック・アクション』
Mogwai – Rock Action

アルバムレビュー
発売: 2001年4月30日
レーベル: [PIAS] Recordings, Matador

 『Rock Action』は、スコットランド出身のポストロック・バンド、モグワイの2001年発売の3rdアルバム。前作『Come On Die Young』に引き続きプロデューサーは、デイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)。

 轟音ギターと静寂のコントラストが鮮烈な1stアルバム『Mogwai Young Team』と、音数を絞り緻密なアンサンブルを練り上げた2ndアルバム『Come On Die Young』。前2作ではギターを中心とした、アンサンブルを構築していったモグワイ。

 今作ではキーボードやストリングスやホーンなどを使用し、サウンドの色彩はより鮮やかに、同時にバンド・アンサンブルにおいてもさらなる実験を重ねています。

 「Sine Wave」と題された1曲目。前作の1曲目「Punk Rock:」に続いて、示唆的なタイトルです。アンビエントな雰囲気のイントロから、水面に波紋が広がっていくようなエフェクトのかかったギターが入り、徐々に楽器と音数が増加。サウンドはどれも生々しく、生楽器のサウンドをサンプラーで解体して再構築したような耳ざわりの1曲。

 2曲目の「Take Me Somewhere Nice」は、イントロからゆったりしたギターのフレーズとドラムが絡み合い、様々な風景が立ち現れるようなアンサンブル。そのイマジナティヴな演奏と音像は、実にモグワイらしいと言えます。しかし、ストリングスが導入されていたり、ボーカルが入っていたり(今までも一部の曲には入っていましたが)と、音楽的語彙を増やそうという野心の伝わる1曲。

 3曲目「O I Sleep」もボーカル入り。1分弱の曲ながら、ピアノの音が美しく、アルバムの中でインタールードのような1曲。

 4曲目の「Dial: Revenge」も、前2曲に続き、ボーカル入りの曲が続きます。イントロからアコースティック・ギターが使用され、今までのモグワイからすると意外性のあるサウンド・プロダクション。

 しかし、ボーカルのメロディーも、複数のギターと絡み合うように、有機的にバンドのアンサンブルに回収され、モグワイらしいゆったりしたグルーヴ感の堪能できる仕上がり。ボーカルのメロディーは間違いなく美しいのに、バンドと溶け合い、あえて前景化させないかのような絶妙なバランスになっています。

 5曲目「You Don’t Know Jesus」は、静寂のイントロから、徐々に盛り上がり、轟音ギターのクライマックスへ。しかし、轟音ギターの洪水のなかを、電子音が漂うようにメロディーを紡ぎ、確実に新しい方法論を取り入れていることがわかります。圧倒的な量感の轟音ギターに鼓膜を震わされる快感と、耽美なメロディーを耳で追う心地よさが、両立された1曲。

 7曲目「2 Rights Make 1 Wrong」は、クリーン・トーンのギターとドラムが絡み合う前半から、徐々に音が増えていく展開。どこかのタイミングで轟音ギターが炸裂するのではと期待していると、轟音ギターではなくホーン・セクションとシンセサイザーが加わり、壮大なサウンド・プロダクションへ。轟音ギターの代わりにホーンとシンセを用いたアレンジメント…というわけではないのでしょうが、当然ながら轟音ギターが押し寄せる展開とは耳ざわりが異なり、モグワイの音楽性の広がりを実感する1曲。

 ちなみに日本盤には8曲目「Secret Pint」のあとに、ボーナス・トラックが2曲収録されています。「Secret Pint」は3分40秒ほどの曲ですが、その後10分の無音部を挟み、9曲目「Untitled」、10曲目「Close Encounters」が収録。iPodなどに取り込んだとき、「Secret Pint」のあと10分ほど無音が続きますが、エンコードの失敗ではありません。僕はエンコードの際のエラーかと思い、確認してしまいましたが(笑)

 過去2作のギター・ミュージックを追求しようという姿勢から、さらに1歩を踏み出し、ストリングスやホーンが導入され、サウンドの色彩は遥かに鮮やかになっています。個人的には、ギターを中心としたアンサンブルを追求していたモグワイが好きですが、『Rock Action』もサウンドと音楽性の幅を広げた、クオリティの高い1作であると思います。

 





Mogwai『Come On Die Young』/ モグワイ『カム・オン・ダイ・ヤング』


モグワイ 『カム・オン・ダイ・ヤング』
Mogwai – Come On Die Young

アルバムレビュー
発売: 1999年3月29日
レーベル: Chemikal Underground, Matador

 『Come On Die Young』は、スコットランド出身のポストロック・バンド、モグワイの1999年発売の2ndアルバム。プロデューサーは、マーキュリー・レヴ(Mercury Rev)のメンバーでもあるデイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)。アメリカでは、ニューヨークの名門インディペンデント・レーベル、マタドール(Matador)より発売。

 モグワイというバンドを説明するときに、「静と動」「轟音」「ノイズ」といったキーワードが用いられることがあります。確かにエモーションを爆発させたような轟音ギターは、モグワイの魅力のひとつ。しかし今作では、1stアルバム『Mogwai Young Team』で聴かれた轟音は控えめに、音数は絞り込まれ、隙間さえも音楽の内部に取りこんだような、緊張感に溢れたアンサンブルを構築しています。

 シンプルなサウンドのギターとベースに、ソリッドな硬い音質のドラム。各楽器のリズムとサウンドが、ゆったりとしたテンポのなかで溶け合い、美しくも厳しい、荒涼な大地や冬の海が目に浮かぶようなサウンドスケープ。アルバム終盤には、前作で聴かれた轟音ギターも登場し、エモーションと知性が同居するギター・オリエンテッドなアルバムです。

 1曲目は「Punk Rock:」。そのタイトルから、轟音ギターが圧倒的音圧で押し寄せる曲を期待する人も多いでしょう。しかし、聴こえてくるのは、爪弾くようなギターと淡々としたスポークン・ワード。ただ、大きい音で速い曲をやるのがパンクなのではなく、新しい音楽に向かい続ける姿勢こそがパンクなんだ!というモグワイのエモーションの表出でしょうか。

 タイトルに付されたコロン(:)も示唆的。コロンは、その後に説明や言い換えを続ける記号ですから、このアルバムは2曲目以降も僕たちなりのパンク・ロックですよ、という意思表示にも思えます。

 2曲目「CODY」は、複数のギターとリズム・セクションが、絡み合いそうな、ほどけていきそうな、絶妙なバランスのアンサンブルを作り上げるスローテンポの1曲。音数は少なめに、隙間のあるアレンジメントですが、この曲から伝わるのは緊張感やスリルではなく、非常にゆったりとしたリラックスした雰囲気。

 3曲目「Helps Both Ways」は、ドラムのサウンドが生々しくレコーディングされ、音量も大きく、前景化されています。2曲目とは打って変わって、音数を絞り込むことでスリルを演出し、緊張感のあるアンサンブル。

 4曲目「Year 2000 Non-Compliant Cardia」は、ゆったりと大きくリズムを刻むリズム・セクションと、ノイジーなギターと電子音による持続音、さらに複数のギターのリズムが溶け合い、音響の深さを感じる1曲。

 7曲目は「May Nothing But Happiness Come Through Your Door」。硬質なサウンドのドラムがリズムをキープするなか、シンプルなギターのフレーズと、奥で流れる電子音が、レイヤーのように重なり、徐々に溶け合っていく前半。それに対して、ギターが波のように定期的に押し寄せては引いていく後半と、コントラストのある1曲。

 11曲目の「Christmas Steps」は、10分を超える圧巻の大曲。1stで展開された静寂と轟音のコントラストが、さらに音数を絞り込み、よりタイトなかたちで再現されています。不穏な雰囲気のイントロから、しばらくミニマルなアンサンブルが続き、再生時間3:48あたりから突如としてベースがスイッチを入れるように登場。

 そこから徐々に、テンポ、リズム、音量が上がり、堰を切ったかのように轟音ギターとエモーションが溢れ出す後半へ。1曲のなかでのダイナミズムが非常に大きく、なおかつ1stからの焼き直しというわけでもなく、モグワイのパンク精神が炸裂した1曲です。

 前述したように、1stに比べると轟音の要素は抑えられた作品と言えますが、その代わりに音数を絞って、緊張感やコントラストを作り出しています。バンドの表現力と音楽的語彙をさらに増した1枚であると言えるでしょう。

 





Mogwai『Mogwai Young Team』 / モグワイ『モグワイ・ヤング・チーム』


モグワイ 『モグワイ・ヤング・チーム』
(Mogwai – Mogwai Young Team)

アルバムレビュー
発売: 1997年10月27日
レーベル: Chemikal Underground

 『モグワイ・ヤング・チーム』は、スコットランドのグラスゴー出身のポストロック・バンド、モグワイの1997年発売の1stアルバム。

 ポストロックとは何か?というと、ロックのポスト、すなわちロック後のロックということです。それじゃあロックって何か?というと、ひとまず理論的な厳密さは脇に置いて、パブリックイメージとしては、歪んだギターがフィーチャーされ、8ビートのノリやすいリズムがあり、歌詞にはメッセージ性がある、といったところでしょうか。そして本題のモグワイ。彼らはポストロックの代表的なバンドと目されており、『ヤングチーム』はそんな彼らの1stアルバムです。

 それでは実際に聴いてみると、どんな音が鳴っているのか。1曲目「Yes! I Am a Long Way from Home」は複数のクリーントーンのギターを中心に、各楽器が絡み合う美しいアンサンブル。そして、ボーカルが入っていません。まるで風景を眺めているかのようなイマジナティヴな音楽をサウンドスケープと呼ぶことがありますが、この曲などはまさにサウンドスケープと呼べそうです。

 そのままギターを使った静かな美しいインスト・ミュージックが続くかと思いきや、再生時間3分過ぎから徐々に盛り上がり、3:40あたりからはディストーション・ギターが押し寄せてきます。AメロからBメロを経てサビというクライマックスに至る、という一般的なポップ・ミュージックのフォーマットは採用していないにも関わらず、このあたりの盛り上がりは単純にかっこよく、そうした意味では非常にポップと言えます。

 このような構造はアルバム全体を通して続き、2曲目「Like Herod」でも1曲目以上に激しい轟音ギターが、途中からなだれ込んできます。あんまり詳細を書くとネタバレのようになってしまいますが、7曲目「With Portfolio」の後半部分のすさまじい音像、10曲目「Mogwai Fear Satan」のリズムとサウンド・プロダクションが混然一体となった演奏など、聴きどころを挙げていけば、きりがありません。

 ロックという音楽が人々をエキサイトさせる要素を書きだしていくと、単位のはっきりとしたノリのよいビート、聴感的に激しく響く歪んだギターのサウンド、Aメロからサビに至るまでの進行感とサビでのクライマックス、リスナーをアジテートするような歌詞、などが挙げられるでしょう。では、ポストロック・バンドと呼ばれるモグワイの場合はどうか。

 まず、ドラムによるリズムはもちろん存在し、『モグワイ・ヤング・チーム』の一部の曲では、ロック的にノレる部分もありますが、それほど体を揺らすためのビートが前景化された作品というわけではありません。激しく歪んだギターは、ロックにおけるリフのようなかたちでは出てきませんが、アルバム中に十分に含まれています。

 Aメロからサビへの進行感というのも、ロックのような構造を持った音楽と比べれば希薄ですが、音量とサウンドにおける静寂と轟音のコントラストは、Aメロとサビの関係に近いとも言えます。歌詞については、モグワイの曲には基本的には歌が入っていません。

 以上、ロックとの比較で浮かび上がるのは、いわゆるロックのフォーマットをそのまま踏襲してはいないものの、ロックがリスナーに与える興奮を『モグワイ・ヤング・チーム』は持っているということです。言い換えれば、ロックの魅力を部分的には引き継ぎ、部分的には更新しているということ。

 例えば、Aメロとサビとの対比にも似た、静寂と轟音の対比。Aメロからサビという画一的な進行を持たないからこそ生まれる、そろそろ来るかな、来ないかな?という緊張感と期待感。歌詞を持たないものの、リスナーをアジテートするような挑発的で自由なギターのフレーズとサウンド。

 『モグワイ・ヤング・チーム』は、ロックを解体し、再構築しているという意味において、まさにポストロックと言えるでしょう。歌が無い、サビが無い音楽はとっつきにくいと考えている方にこそ、このアルバムの興奮とスリルを味わっていただきたいです。いろいろ小難しいことも書いてきましたが、とにかくサウンド自体がかっこよく、曲が予想しない方向に展開したり、あるいは展開しないで留まったり、何も考えずに聴いて楽しめる作品なので!

 ちなみにジャケットには、今は亡き「富士銀行」の看板が写っております。撮影場所は、当時の富士銀行恵比寿支店。しかし権利の関係なのか、日本盤では黒塗りになっているので、気になる方は輸入盤をチェックしましょう。