My Bloody Valentine『This Is Your Bloody Valentine』


マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『ディス・イズ・ユア・ブラッディ・ヴァレンタイン』
My Bloody Valentine – This Is Your Bloody Valentine

アルバムレビュー
発売: 1985年1月
レーベル: Tycoon

 『This Is Your Bloody Valentine』は、アイルランド出身のバンド、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの1985年発売のミニアルバム。ドイツのTycoon Recordsというレーベルからの発売で、1984年に当時の西ベルリンにあるスタジオでレコーディングされた。

 後に『Isn’t Anything』と『Loveless』の2枚で、「マイブラというジャンル」と言うべき独自の音楽性を作り上げ、シューゲイザーの代表バンドのひとつと見なされ、幾多のフォロワー・バンドを生み続けるマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。そんな、マイブラが1985年に発売したミニアルバムが本作です。

 現在のメンバーのうち、ギターのケヴィン・シールズ(Kevin Shields)と、ドラムのコルム・オコーサク(Colm Ó Cíosóig)は在籍しているものの、ボーカルは後に作家となるデイヴ・コンウェイ(David Conway)が担当。ボーカルが違うということだけが理由ではなく、音楽性は後のマイブラとは大きく異なります。

 このアルバムで聴かれるのは、いわゆるポストパンク的なサウンド。やや演劇じみた歌唱法と、どこまで狙っているのかわからないチープなサウンド・プロダクションを持ったアルバムで、『Isn’t Anything』の不協和音をも魅力に転化したバンドのアンサンブルや、『Loveless』のすべてを圧倒するような音の洪水を期待して聴くと、肩透かしをくらうことになるでしょう。

 とはいえ、その後のマイブラにつながる要素が全く無いかというと、もちろんそんなことはなく、ギターの音色やアレンジメントには、随所にその後のマイブラの破片が感じられます。では、アルバムの中から何曲かを、その後のマイブラが感じられる、という視点でご紹介します。

 1曲目「Forever and Again」の浮遊感のあるコーラス・ワークは、『Loveless』でのバンドと溶け合うようなコーラスを感じさせます。

 2曲目「Homelovin’ Guy」では、イントロから毛羽立ったような、ざらついた質感のディストーション・ギターが聴けます。こちらは『Isn’t Anything』のギター・サウンドを思わせるかも。

 3曲目「Don’t Cramp My Style」のイントロのギターは、マイブラというよりソニック・ユースのような耳ざわり。

 5曲目「The Love Gang」は、イントロから前のめりなギターとドラムが曲を引っ張っていきます。このリズム構造は『Isn’t Anything』に入っていてもおかしくなさそうな1曲。しかし、未来のマイブラとして聴こうとすればするほど、ボーカリゼーションの差違が耳につきます。

 7曲目「The Last Supper」の歪んだギターとチープなキーボードが絡み合うアンサンブルは、『Loveless』のすべての楽器と音楽要素が有機的に絡み合うアンサンブルを、わずかに感じさせます。

 前述したとおり、ギターという楽器の可能性を押し広げるような圧倒的なサウンドは、このアルバムにはありません。駄作とは言わないまでも、「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが最初にリリースした記念すべきミニアルバム」という歴史的価値以上には、なかなかおすすめしにくいアルバムだというのが正直なところです。

 ただ、今回聴き直してみて、思ったよりもギターのサウンドとアレンジには後のマイブラの要素が聴こえるな、とも感じました。

 入手するのも少し難しそうですし、諸手を上げておすすめしたい1枚!とは言いがたいのですが、マイブラにはまって、若き日のケヴィンのクリエイティヴィティを感じたい、という方はチェックしてみてください。