エレファントカシマシ『生活』


エレファントカシマシ 『生活』

アルバムレビュー
発売: 1990年9月1日
レーベル: EPIC/SONY

 『生活』は、エレファントカシマシの1990年発売の4thアルバム。

 荒々しいロックンロールを響かせた1stアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』から、2ndアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』、3rdアルバム『浮世の夢』と、サウンド的にはメローな要素を強めていったエレファントカシマシ。4枚目の『生活』は、過去3作で培ってきたハードな面とメローな面が、バランスよく融合した1枚であると言えます。同時に、歌詞には内省的な表現が増しています。

 1曲目「男は行く」から、激しく歪んだギターがラフな感じにリフを弾き始め、ボーカルもそれに応えるように絞り出すような声。さらにベースとドラムのリズム・セクションも、アンサンブルを支えつつも、絡み合うようにグルーヴを生んで生きます。

 直線的に突っ走るのではなく、ボーカルも含めて全ての楽器が対等にアンサンブルに関与し、バンドが生き物のように躍動する曲です。エモーショナルな歌唱に、タイトに絞り込まれたバンドのアンサンブル。これまで3作を経たバンドの進化が実感できる、非常に完成度の高い1曲からアルバムが始まります。

 2曲目の「凡人 -散歩き-」では、ギターがカウントをとるようなフレーズから、縦のぴったり揃ったイントロ。その後すぐに、各楽器がほどけていくようにグルーヴする、メリハリの効いた1曲。この曲は1曲を通して、タイトに合わせる部分とラフにグルーヴする部分が共存し、バンドのアンサンブルの精度が向上していることが自ずと伝わってきます。ギターの金属的な響きも、バンド・サウンドを引き締めています。

 3曲目「too fine life」は、ほどよく歪んだ音のギターの流れるようなイントロから、ペース・メーカーのようにリズムを刻むベースとドラム。言葉と共に流れるような自然なボーカルのメロディー・ラインと併せて、ロックな要素とメローな要素が溶け合った1曲。

 4曲目「偶成」は、アコースティック・ギターを中心にした、ゆったりしたテンポの1曲。ボーカルと歌詞が前景化し、耳と心に染み渡ります。ラブソングなど人との関係性を歌う曲が圧倒的に多い日本の音楽シーンにおいて、この曲のように自分自身と向かい合い、内省的な名曲をいくつも生み出していることも、エレカシの特異なところ。激しく歪んだディストーション・ギターは最後まで出てこないものの、リズムのメリハリとボーカリゼーションによってクライマックスを演出していて、バンドとしての成熟と進化を感じさせます。

 5曲目「遁生」は、12分にも及ぶ大曲です。4曲目と同じくアコースティック・ギターの弾き語りのような始まりから、極力音量の変化に頼らずにダイナミズムを表現しています。

 6曲目は「月の夜」。アコースティック・ギターを使用した曲が続きます。ロックバンドとしての多彩なアンサンブルを聴かせる1曲目から3曲目までと、テンポを抑えながらエモーションを表現する4曲目から6曲目。アルバムの流れとしても、良いバランスだと思います。美しいファルセットと、エモーションを絞り出すような歌唱が混じり合う、宮本さんのボーカルが聴きどころ。

 アルバムラストの7曲目は「晩秋の一夜」。5曲目「遁生」に続いて、こちらも10分を超える大曲。アコースティック・ギターを中心にしながら、歪んだギターのサウンドも効果的に導入し、1曲のなかでコントラストの感じられるアンサンブル。再生時間0:41あたりから聞こえるピアノのような音、1:43あたりから聞こえるギターの音など、音数を絞り込みながら丁寧に組み上げた様子がうかがえます。無駄な音と言葉が、一切ありません。

 アルバム作品にしては少ない7曲の収録ながら、収録時間は50分。前述したように10分を超える曲を2曲含み、1曲が持つコントラストとダイナミズムの幅の広がりを感じる1枚です。

 音楽を語るときに「なにかに似ている」と言うのは単純化が過ぎるのは承知していますが、このアルバムの前半は、アレンジメントとサウンド・プロダクションにレッド・ツェッペリンに近いものを感じます。もちろん、ただの借り物ではなく、エレカシらしく日本的なオリジナリティを獲得した上で、ということです。