乃木坂46「インフルエンサー」歌詞の意味考察 宇宙規模の比喩と「君」というインフルエンサー


目次
イントロダクション
歌詞の登場人物
2人の関係性
インフルエンサーの意味
2番の歌詞
結論・まとめ

イントロダクション

 「インフルエンサー」は、女性アイドルグループ・乃木坂46の17作目のシングルとして、2017年3月22日にリリースされた楽曲。作詞は秋元康。

 この曲を初めて聴いたとき、歌詞に独特の違和感と、「なるほどな」という納得感が、混じり合った感想を持ったんですよね。それはなぜかと言うと「インフルエンサー」という言葉が、一般的な意味とは違った意味で使われていたため。

 この単語は、通常はSNSでのフォロワーが多く、一定の影響力を持った人物のことを指します。でもこの曲では、本来の意味で解釈すると、違和感が生じます。本来の意味とは、ズラして言葉を使うのは、近年の秋元康の詞にたびたび用いられる手法。

 「インフルエンサー」も、まさにそのような手法を用いて書かれた歌詞で、インフルエンサー本来の意味を離れ、表現に取り込まれています。好きか嫌いかは別にして、構造的によくできた歌詞だなぁ、と感心してしまいます。

 では「インフルエンサー」という言葉が、どのように機能しているのか。この曲は、どのような構造を持っているのか。歌詞の意味を考察・分析し、僕なりの解釈を提示したいと思います。

歌詞の登場人物

 まずはじめに、歌詞に出てくる人物を確認しましょう。一見したところ、歌詞に出てくるのは「僕」と「君」の2人。この曲は「僕」の視点から、「君」について語っていることが分かります。イントロに続く、 Aメロの歌い出しの歌詞を引用します。

いつだって 知らないうちに
僕は見まわしている (何度も)
君がどこで何をしているか
気になってしまうんだ (落ち着かなくなる)

 上記の引用部では、「僕」は「君」が気になっている、ということが提示されます。この後の歌詞には「恋はいつも余所余所しい」という一節も出てくるのですが、どうやら「僕」は「君」に片思いをしている、というシチュエーションのようです。

 まず、冒頭部分で「僕」が「君」を気にしている、言い換えれば、恋をしているという関係性が明かされ、その後の歌詞は、この関係性を前提に進んでいきます。

 それでは、その前提に立って、歌詞を読み進めていきましょう。

2人の関係性

 先ほどの引用部からは、「僕」が「君」に憧れている、ということが確認できました。その後に続く歌詞では、徐々に2人の距離感が、明らかになっていきます。Aメロの2連目の歌詞を、引用します。

声くらい掛ければいい
誰もが思うだろう (できない)
君がいる場所がわかったら
僕には地図になるんだ

 上記の引用部から、「僕」と「君」の関係性が希薄だということが示唆されます。1行目と2行目では、声も掛けられないことが明かされ、続く3行目と4行目では、「君」に対する強い憧れの気持ちが表れています。

 さらに、その後に続くAメロの歌詞でも、「僕」と「君」の距離感が遠い、ということが繰り返し記述されます。サビに入ると、より具体的な比喩表現で、二人の関係性が示されます。サビの1連目の歌詞を引用します。

地球と太陽みたいに
光と影が生まれて
君を探してばかり
距離は縮まらない (hey! hey! hey!)

 上記の引用部では、二人の関係が「地球と太陽」に例えられています。この比喩では、「僕」が地球、「君」が太陽にあたるのでしょう。

 地球は、太陽系の惑星。一定の距離をとって、太陽の周囲を回る存在です。つまり「僕」は「君」に一方的に影響を受けているけど、距離は決して縮まることがない、現在の関係性をあらわしています。

 ほぼ望みのない片思いを歌っているのでしょうけど、宇宙規模の話になってしまいました。でも、「僕」の焦燥感や絶望感を描き出すという意味では、直接的な表現にならず、コミカルな要素も含んでいて、とても機能的。

 ただただ「僕」の焦る気持ちを記述されても、リアクションに困る、暗い歌になってしまいますもんね。

インフルエンサーの意味

 サビの2連目に入ると、曲のタイトルにもなっている「インフルエンサー」という言葉が、遂に登場。それではここで、インフルエンサーとは何を意味しているのか、考察していきましょう。

 サビの2連目の歌詞を、以下に引用します。

重力 引力 惹かれて
1から10まで君次第
存在するだけで
影響 与えてる
インフルエンサー

 「重力 引力」という言葉が用いられ、引き続き宇宙規模の比喩が続いています。ここまでの歌詞で「僕」と「君」の距離感が遠いこと、「僕」が「君」に片思いしていることが確認できましたが、影響を与える人という意味の「インフルエンサー」という言葉も、二人の関係性へと繋がります。

 すなわち、「僕」は「君」から影響を受けるだけの、一方的な関係性であるということです。先述したとおり、「インフルエンサー」とは本来ネット上で影響力を持つ人を指します。

 ネットを通して情報を発信するインフルエンサーと、それを受け取る人の関係は、基本的には一方通行です。コメントなどで、やりとりが可能なケースもありますが、あくまでネット上での関係。決してリアルに近づくことはできません。

 この曲の歌詞に出てくる「インフルエンサー」という言葉は、「君」のことを指しています。しかし、もちろん「君」が著名なインスタグラマーだ、と言っているのではありません。「僕」と「君」には、確かな距離があること。そして、「僕」は「君」を強く思うあまり、その一挙手一投足に影響されてしまうことが、表現されているのでしょう。

2番の歌詞

 2番に入ると、より具体的な状況が語られます。しかし、それらは1番の歌詞で語られた内容を、補強・確認するもの。2番のAメロの歌詞を引用します。

ミュージックやファッションとか
映画や小説とか (何でも)
お気に入りのもの 手にすれば
時間を共有できるんだ

 1番の歌詞に、声も掛けることができない旨が書かれていました。上記の引用部では、せめて「君」の好きなものに触れれば、時間が共有できる、と記述されています。

 会話ができなくても、時間を共有できると考える「僕」。ますます「僕」の一方的な片思いの様相が、明らかになってきました。2番の歌詞では、これ以降も「君」の影響力の大きさが、繰り返し語られていきます。

結論・まとめ

 それでは、結論に入りましょう。この曲では「僕」の「君」に対する片思いが、歌われています。しかも、その関係性は非常に希薄で、「気配以上 会話未満」のコミュニケーションしか取れない状況。

 そんな状況下で「僕」は、かなう可能性が低い、しかしどうしようもなく強い「君」への思いを、宇宙規模の比喩を用いて語っていきます。そして、「君」の影響力の大きさを、端的にあらわしたのが「インフルエンサー」という言葉。

 他人にとっては取るに足らない関係性が、当人にとっては大問題である、ということを、太陽や地球を用いた、壮大なメタファーで描いているのでしょう。

 「インフルエンサー」という横文字の新しい言葉を使ったのは、当人にとっては大ごとであるけど、それは日常的なありふれたテーマであることを、浮き彫りにするためではないでしょうか。

 思春期的なありふれた片思いを、宇宙規模にまで飛躍させ、それを日常にゆり戻すために「インフルエンサー」という言葉を用いた、というのが僕の結論です。

 「君」と「僕」の関係性を、アイドルとヲタクの関係に変換して解釈する向きもあるようですが、当たらずといえども遠からずと言うべきか、示唆的ではあると思います。

 いずれにしても、学生時代にありそうな片思いを、宇宙にまで飛躍して描いていくのは、ちょっと笑ってしまうし、シリアスになり過ぎず、良いですね。

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