米津玄師「Lemon」歌詞の意味考察 味覚と感情をつなぐレモン


目次
イントロダクション
語りの構造
歌詞のテーマ
レモンの意味
「わたし」と「あなた」の関係性
「あなた」とは誰か?
結論・まとめ

イントロダクション

 「Lemon」は、徳島県出身のシンガーソングライター、米津玄師の楽曲。2018年3月14日に、メジャー8枚目のシングルとしてリリース。作詞作曲は米津玄師。

 また、TBS系列テレビドラマ『アンナチュラル』の主題歌にもなっています。同作は不自然死(アンナチュラル・デス)を扱ったドラマで、主題歌となった「Lemon」も、死生観をテーマとした楽曲になっています。

 しかし、そのような予備情報が無かったとしても、感情を呼び起こす力を持っているのが、この楽曲。一聴すると、つかみどころが無く、抽象的な歌詞のようにも聞こえますが、人との別れをテーマにした、深い意味が刻まれています。

 僕は「音楽はそれ自体で成立する」という考えを持っているので、「Lemon」の歌詞を、そこに書かれた情報に沿って、読み解いてみたいと思います。

語りの構造

 内容に入る前に、まずは語りの構造を確認しましょう。誰の視点から語られるのか、歌詞の中には誰が出てくるのか。

 歌詞をざっと見渡すと、語り手が「わたし」であることに、すぐ気がつきます。さらに「わたし」以外の登場人物を探すと、「あなた」が出てくることも分かります。

 また、「あなた」という言葉は何度も繰り返し使われ、話題の中心であるように思われます。

 登場人物は「わたし」と「あなた」の2人。そして、この曲は「わたし」の視点から、「あなた」について語っている、という前提で、内容を読み解いていきます。

歌詞のテーマ

 最初に、この曲のテーマについて検討しましょう。一体この曲は、何を語ろうとしているのでしょうか。

 最初に僕の考えを明かしてしまうと、この曲は人と人との別れ、および別れに伴う苦しい感情について歌っています。歌詞に出てくる人物は2人。つまり、「わたし」と「あなた」の別れについて、歌っているということです。

 では、具体的にどのように別れが描写され、別れによってもたらされる、どのような感情が描かれているのか、歌詞に沿って確認してみましょう。1番のAメロ1連目の歌詞を引用します。

夢ならばどれほどよかったでしょう
未だにあなたのことを夢にみる
忘れた物を取りに帰るように
古びた思い出の埃を払う

 上記の引用部には「夢」という言葉が、2回出てきます。1行目の「夢ならばよかった」という表現から、「あなた」は既に会えない存在であることが示唆されます。

 2行目の「あなたのことを夢にみる」という一節は、さらに「あなた」の不在を強調する表現です。すなわち「あなた」は夢の中でしか会えない存在であることを意味しています。

 夢でしか会えない、ということは、「あなた」が亡くなってしまったことをも示唆しますが、ここの表現のみでは確定的なことは分かりません。

 3行目と4行目は、「わたし」が「あなた」のことを思い出し、感傷的な気分になっていることが表されているのでしょう。「古びた思い出」という言葉からは、「わたし」と「あなた」が長い付き合いであったことが示唆されます。

 歌詞の中では具体的に記述されていませんが、近しい家族あるいは長年連れ添った恋人のことを、歌っているのではないかと想像できます。

 Aメロの2連目では、さらに「あなた」の不在を強調する言葉が続きます。以下に引用します。

戻らない幸せがあることを
最後にあなたが教えてくれた
言えずに隠してた昏い過去も
あなたがいなきゃ永遠に昏いまま

 上記引用部の1行目と2行目は、やはり「あなた」が会えない存在になってしまったことを意味しているのでしょう。

 この2行からは「わたし」と「あなた」の関係性、そして「わたし」の豊かな感受性が垣間見えます。

 まず、ひとつめの2人の関係性。「戻らない幸せ」と言っているところから、「わたし」にとって「あなた」と共に過ごした時間が、幸せであったことが分かります。つまり、「あなた」は親しく大切な存在であったということ。

 続いて、ふたつめの豊かな感受性について。「わたし」は「あなた」と会えなくなったことを、引用部2行目の「最後にあなたが教えてくれた」という表現で表しています。不在を悲しいと言うのではなく、幸せを教えてくれたと表現する「わたし」は、優れた感受性の持ち主であると言えるでしょう。

 引用部の3行目と4行目では、「あなた」にはもう会えないということが、繰り返し強調されています。

 また、4行目では「あなたがいなきゃ永遠に昏いまま」と綴られています。言い換えれば、「あなた」に話すことができれば、昏い過去も明るくなり得たということ。この一節からも、「わたし」の「あなた」に対する信頼と愛情が感じられます。

レモンの意味

 Bメロを経て、曲は1回目のサビに入ります。サビには曲名にもなっている「レモン」(Lemon)という言葉が出てきます。

 人との別れ、特に親しい人の死すら連想させる楽曲のタイトルとして、「レモン」というのは一見すると違和感があります。

 では、なぜ「レモン」がタイトルに採用され、なにを意味しているのか、サビの歌詞を読み解きながら、考察したいと思います。

 1番のサビの歌詞を、以下に引用します。

あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ
そのすべてを愛してた あなたとともに
胸に残り離れない 苦いレモンの匂い
雨が降り止むまでは帰れない
今でもあなたはわたしの光

 引用部1行目と2行目は、「わたし」にとって「あなた」が大きな存在であったことが記述されています。2行目は、悲しみや苦しみさえも、「あなた」と一緒だったら愛おしいものだった、という意味でしょう。

 そして、3行目で遂に「レモン」が登場。「苦いレモンの匂い」と出てくるところから、直前の歌詞の悲しみや苦しみに、繋がっているのだと解釈できます。

 苦しみや悲しみでさえ、「あなた」との思い出は愛おしいと感じる「わたし」。レモンの苦味は、その象徴として機能しているのでしょう。

 レモンは言うまでもなく、酸味が非常に強い食べ物。そして、「嬉しい」や「悲しい」といった感情は、目には目えない、実体のないもの。つまり、レモンが苦いという味覚を用いることで、「あなた」のいない悲しみを、現実感を伴って描いているということです。

 また、誰もが想像できるレモンの味を用いることで、抽象的な表現で伝える以上に、リスナーに対しても生々しく「わたし」の苦しみを、伝える効果を生んでいます。

 夢か現実か確かめるために、自分のほっぺたをつねる、というクリシェがあります。この曲におけるレモンも、現実感をもたらす装置として機能している、というのが僕の仮説です。

「わたし」と「あなた」の関係性

 1番の歌詞で、この曲の語らんとするメッセージが、だいぶ鮮明になってきました。続いて2番に入ると、「わたし」と「あなた」の関係性が、もう少し詳しく記述されます。ただ、やはり「あなた」が家族であるのか、恋人であるのか、といった確定的な情報は提供されません。

 では、2番では歌詞がどのように展開するのか、確認していきましょう。2番のAメロの歌詞を、以下に引用します。

暗闇であなたの背をなぞった
その輪郭を鮮明に覚えている
受け止めきれないものと出会うたび
溢れてやまないのは涙だけ

 背をなぞることで、誰であるかを認識できるということは、「あなた」は「わたし」の恋人だったと示唆されます。

 3行目の「受け止めきれないもの」は、圧倒的な悲しみや苦しみを表しているのでしょう。4行目の溢れる涙へと繋がります。

 続いて、2番のBメロの歌詞を引用します。

何をしていたの 何を見ていたの
わたしの知らない横顔で

 上記の引用部も、「あなた」が家族や友人ではなく、恋人だったのではと思わせる表現です。「知らない横顔」というのは、人には誰しも多面性があり、「わたし」の知らない「あなた」の一面があったということ。

 もちろん、家族同士でも知らない一面を持ち得ますが、一般的には他人同士の方が、知らない一面をお互いに持っているもの。

 さらに、上記1行目の「何をしていたの」という問いかけと解釈できる言葉が、2人が親密な関係であったこと、そして知らない一面があることに対して、感情が動いていることを思わせます。

 まとめると、親しい間柄でありながら、知らない一面があり、なおかつ知らない一面があることに、多かれ少なかれ「わたし」が、ショックを受けているということ。このように考えると、2人は恋人同士であったと想定することが可能でしょう。

 その関係性を裏付けるように、2番のサビでは以下の歌詞が続きます。

どこかであなたが今 わたしと同じ様な
涙にくれ 淋しさの中にいるなら
わたしのことなどどうか 忘れてください
そんなことを心から願うほどに
今でもあなたはわたしの光

 1番の歌詞は、「夢」や「永遠」といった言葉を使い、「あなた」が既に亡くなったことすら連想させる内容になっていました。しかし、上記の引用部では、1番と比較すると具体性が増し、2人の関係性がより鮮明に浮かび上がってきます。

 1行目に「どこか」という言葉が出てきますが、上記の引用部に書かれている内容から想像すると、「あなた」は亡くなったわけではなく、会えない状態にあるようです。

 ただ、天国も含めて「どこか」と表現し、亡くなった相手に対しての強い喪失感をあらわした表現である、という可能性も残ります。

 その根拠となるのが、引用部の4行目と5行目。この2行は、「わたし」にとって「あなた」の存在があまりにも大きいため、どこかで自分と同じようにあることを願ってしまう、言い換えれば「あなた」は亡くなっているが、今もどこかで生きていると想像する、とも解釈できます。特に「願う」という言葉が使われている点が、この仮説を想起させました。

 2番のサビの後に挿入されるCメロでは、「あなた」が恋人であったことを思わせる言葉が並びます。以下に引用します。

自分が思うより
恋をしていたあなたに
あれから思うように
息ができない
あんなに側にいたのに
まるで嘘みたい
とても忘れられない
それだけが確か

 2行目に「恋をしていた」という言葉が出てくるため、2人が恋愛関係にあったのは決定的なように思われます。上記の引用部では、そのほかの部分も、2人の親密性を感じさせる言葉が続いています。

「あなた」とは誰か?

 では、結局「あなた」とは誰なのか。家族なのか恋人なのか。そして、生きているのか、亡くなっているのか。

 結論から言うと、歌詞の中には確定的な情報はありません。しかし、僕は「あなた」は恋人であったと考えています。理由はふたつ。

 まず一つ目は、「私」という漢字ではなく、一貫して「わたし」とひらがなで表記されている点です。「わたし」と「あなた」。両者をひらがな3文字に揃えることで、2人が対等な関係性であることを表している、というのが僕の考えです。

 もちろん、家族同士でも対等な関係性であることはあり得ますし、あくまで一つの仮説。しかし、親や兄弟が対象だと、年齢差や家族の中での立場の違いが自ずと生じますし、恋人同士の方が、より対等であると言えるのではないでしょうか。

 二つ目の理由は、歌詞のラストから2行目に出てくる「切り分けた果実の片方の様に」という表現。一つ目の理由とほぼ重なるのですが、この上記の表現もやはり2人の対等性を表しているのではないかと思います。

 果実を切り分けるということで、血肉を分けた家族とも考えられそうですが、仮に親を想定しているとして、真っ二つに対等な関係で分けられる、というのは少し違和感があります。どうしても両者には年齢差があり、親の後に子が生まれるという不可逆性もあります。

 以上、ふたつの理由で、個人的には2人は恋人同士であったと考えるのが、最も自然ではないかという結論に至りました。しかし、前述したように、これはあくまで僕の仮説。

 家族や友人であると想定してもいいですし、そのような解釈も十分可能かと思います。また、いささかトリッキーではありますが、例えば、1番の歌詞の「あなた」は祖父、2番の歌詞の「あなた」は元恋人というように、1番と2番でそれぞれ「あなた」が違う、という解釈も可能でしょう。

結論・まとめ

 「あなた」は誰か、という議論をしばらく続けてきましたが、ここで全体の結論に入ります。

 「Lemon」は「別れの悲しみをテーマにした曲である」というのが、僕の結論です。なんだか、サッパリしていて、肩透かしを食らったような気分でしょうか?

 何を言いたいのかご説明します。先ほど、この曲に出てくる「あなた」は、恋人なのか家族なのか確定できない、と書きました。

 作者が意図的なのかどうかは分かりませんが、それは人間関係のストーリーではなく、別れの悲しみにフォーカスするため、あえて具体的な情報を避けている、というのが僕の考えです。

 つまり、大好きだった祖父の思い出を詳しく記述したり、恋愛関係にある2人を描いたり、といった具体性を帯びると、少なからずリスナーはそのストーリーに共感してしまいます。そうした個別のストーリーではなく、大切な人との別れによってもたらされる悲しみ自体に、この曲はフォーカスしているということ。

 そのため、「あなた」とは誰か、亡くなっているのか生きているのか、といった情報は、あえて曖昧性を伴ったままにされています。

 僕がこの結論に至った最大の理由は、タイトルが「Lemon」であること。先述したとおり、レモンとは非常に酸味の強い果物であり、そのままかじったら記憶に残るほど、苦く酸っぱいもの。

 そんな「レモン」を曲名に据えることで、強い痛みや悲しみをテーマにした曲であることを、あらわしているのだと思います。

 「レモン」が持つ強い苦味が、大切な人を失った痛みと結びつき、現実感を伴って響くのがこの曲です。

 本来は聴覚で楽しむ音楽に、誰もが想像できるレモンの味覚を持ち込み、さらにそのレモンの苦味を感情の苦しみに結びつける。

 米津玄師さんの「Leomon」は、聴覚と味覚と感情をつなぐ、巧みな構造を持った楽曲だと言えるでしょう。

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