目次
・イントロダクション
・登場人物とテーマ
・「僕」の感情
・「未来」と「君」を待つ意味
・「プロミスザスター」の意味
・2番での展開
・結論・まとめ
イントロダクション
「プロミスザスター」は、2017年3月22日にリリースされた、BiSHの3枚目のシングル。2017年11月リリースの4thアルバム『THE GUERRiLLA BiSH』にも収録されています。
作詞は松隈ケンタとJxSxK。作曲は松隈ケンタ。
「楽器を持たないパンクバンド」を肩書きとして活動しているBiSH。なにがパンクで、なにがアイドルかを定義するのが目的ではないので深い入りはしませんが、「プロミスザスター」の歌詞も、いわゆるアイドル歌謡からは離れた、エモーショナルなもの。
具体的には、リスナーを言葉で応援するのではなく、自らの無様な姿を晒して、共感を得るような歌詞なんです。言葉で語るのではなくて、傷ついた姿を晒すことで、態度で語ると言い換えてもいいでしょう。
直接的にリスナーを応援するわけではないのですが、「悩んでるのは君だけじゃないよ」と、同じ立場に立って語りかけてくるような、共感性を持った歌詞です。
では、どのような内容が歌われ、リスナーの共感を得ているのか。この曲の歌詞を、読み解いてみたいと思います。
登場人物とテーマ
最初に、歌詞に出てくる登場人物を確認しましょう。歌詞を見渡すと、出てくるのは語り手である「僕」と「君」。「僕」が語る内容が、歌詞になっています。
それでは、歌詞のテーマは何か。「僕」と「君」が出てきますが、両者の具体的なストーリーを語った、いわゆるラブソングではないことが分かります。
この曲でフォーカスされるのは、人間関係やストーリーではなく、「僕」の感情。特に、悩みや痛みといった感情が、綴られていきます。
では、具体的にどのような感情が綴られていくのか。歌詞を順番に検討していきましょう。
「僕」の感情
まずは1番の歌詞から、「僕」の感情を確認していきます。Aメロの歌詞を、以下に引用します。
どのくらい歩いてきたんだろう
怯えて過ごす毎日だった
勘違い我儘一太刀
僕らを引き裂いてた
上記引用部からは、「僕」が何かしらの不安を抱えていることが分かります。
1行目の「どのくらい歩いてきたんだろう」からは、不安を抱え始めてから、時間が経っていること。2行目の「怯えて過ごす毎日」からは、不安な気持ちが深く、しかも持続していることも判明。
3行目から4行目の「勘違い我儘一太刀 僕らを引き裂いてた」からは、怯えて毎日を過ごす原因となったのが、「勘違い」と「我儘」であることが明らかにされます。
「僕ら」と複数形になっているのは、「僕」と「君」を引き裂いた、と解釈できます。ハッキリとは記述されませんが、「僕」が心に傷や不安を持っていることは、伝わる歌い出しと言えるでしょう。
続いてBメロの歌詞を、以下に引用します。
散々眺めた夢の続きが
そうさ
傷跡に塩を塗り込んでく
上記引用部からは、「僕」の傷の原因が、夢が叶わなかった事にあると示唆されます。
「散々眺めた夢の続き」が、「傷跡に塩を塗り込んでく」というのは、夢を思い出すことが「僕」にとっては苦行だということ。つまり、実現することのなかった夢を思い出すのは、辛いということです。
「夢の続き」とあるので、ある時点までは追いかけていましたが、その途中で諦めてしまった、とも考えられます。
Bメロでも、具体的に「夢」が何を意味するのかは記述されませんが、「僕」の傷を持った感情が伝わります。
「未来」と「君」を待つ意味
「僕」の傷ついた感情が記述されたAメロとBメロ。そして、サビでは以下の言葉が続きます。1番のサビの歌詞を、以下に引用します。
だから僕は待って待って
未来を待って立って
ずっと生きてるって感じてたかったから
だから君を待って待って
未来は待って待って
きっと巡り合った僕らは奇跡なんだ
どれだけ話せばわかってくれる?
don’t you think every time
あの空を染めてけ
プロミスザスター
上記引用部は、「だから」という理由を表す接続詞から始まります。つまり、AメロとBメロで語られた内容を理由として、サビの歌詞に繋がっていくという事です。
そして、サビの歌詞は「僕」が「未来」と「君」を待つという内容。Bメロまでの歌詞の内容も振り返りながら、サビの歌詞を確認していきましょう。
まずAメロとBメロでは、「僕」が心に傷を持っていることが示唆されました。サビでは、その傷を理由として、「未来」と「君」を待つと綴られています。
以上を踏まえて、引用部1〜2行目の「だから僕は待って待って 未来を待って立って」を解釈すると、傷が癒えるのを待っているように思えます。
3行目には「ずっと生きてるって感じてたかったから」と、待っていた理由を示す言葉が続きます。引用部5行目までをまとめると、心に傷を持った「僕」は、生きてることを感じるために、「未来」と「君」を待った、ということ。
そして6行目には「きっと巡り合った僕らは奇跡なんだ」と続きます。この一節は、傷の理由が「僕」と「君」の関係性にあることを示唆します。
「僕」は「君」は以前は一緒に時間を過ごす関係であり、「僕」は今も一緒にいたい、出会ったことを奇跡だと思っている。しかし、今はすれ違った状態にあるということ。思い返すと、Aメロには「僕らを引き裂いてた」という一節が出てきました。
7行目の「どれだけ話せばわかってくれる?」は、「僕」が再び「君」と一緒にいることを願い、「君」に対してかけた言葉なのでしょう。
ここまでのサビの歌詞をまとめると、「僕」が「君」と「未来」を待つのは、再び「君」と一緒にいられる時間を望んでいる、ということです。
「プロミスザスター」の意味
では、引用部ラストに出てくる、タイトルにもなっている「プロミスザスター」は、どういう意味でしょうか。英語の「promise the star」だと仮定すると、「promise」は約束するという意味。
ただ「promise」の後には、文法的には約束する相手が入るべき。「promise」の後に「you」が省略されていると考えて、「君に星をあげると約束した」、あるいは星を人の見立てて、「星に約束をした」という意味でしょうか。しかし、後者の場合は、約束の内容が欠けてしまいます。
また、英語の熟語で「promise the moon」というと、実現の可能性がない約束をすることを意味します。歌詞の中で提示された情報だけでは、確定的な答えを出すことはできませんが、実現可能性の低い、夢のような約束を「プロミスザスター」という言葉に込めた可能性もあるでしょう。
個人的には、「プロミスザスター」とカタカナで表記されているので、そこまで英語の文法にこだわる必要はなく、「僕」の「君」を待ち続ける強い意志を、「星に約束しよう」程度の意味で使ったのではないかと思います。
2番での展開
1番の歌詞では、「僕」が心に傷を抱えていること、その理由が「君」との関係にあること、「僕」は「君」との再会を望んでいることが、記述されてきました。
2番に入っても、基本的には1番の内容を補強するかたちで、歌詞は進行します。1番の内容と重複する部分も多いので、重要と思われる部分のみピックアップし、考察していきます。
まずは、2番のAメロの歌詞を、以下に引用します。
どれくらい立ち止まっただろう
怯えて過ごす毎日だった
迷っては戻る過去たちが
僕らを追い越してく
1番では「どのくらい歩いてきたんだろう」となっていたのが、上記2番では「どれくらい立ち止まっただろう」に代わっています。
内容としては1番と同じく、時間の経過を表しているのでしょう。ただ、1番のサビで「未来を待って」と記述された後の言葉なので、1番からさらに時間が経った後の言葉とも考えられます。
上記引用部3〜4行目の「迷っては戻る過去たちが 僕らを追い越してく」は、「僕」は過去のことを振り返るけれど、以前のようには戻っていない、「君」との関係を語っているのだと思います。
続いて、2番のBメロの歌詞を、以下に引用します。
散々眺めた夢の続きが
そうさ
茜さす日々を照らしてく
3行目以外は、1番のBメロと共通。1番では「夢の続き」が「傷跡に塩を塗り込んでく」と、夢が苦しい思い出として扱われていました。
しかし上記2番では、日々を照らすものとして描かれています。この違いが意味するのは「僕」の心境の変化。1番では思い出すのが辛かった「夢」が、時間が経ち、良い思い出として、消化できるようになったということではないでしょうか。
つまり、1番と2番で「僕」と「君」と関係性には変化がないものの、「僕」の心境には変化があり、前向きになれている、ということです。
結論・まとめ
以上、BiSHの「プロミスザスター」の歌詞を考察してきました。最初にも書いたとおり、この曲の魅力は、無様な姿を晒しているところだと、僕は考えています。
ロマンチックなラブソングでも、リスナーを応援する内容でもなく、ただ「僕」の剥き出しの感情を記述していく。しかも、その感情は痛みを伴ったものです。
このように、本来はあまり人に見せたくない心の傷をテーマにし、ありのままに語るところが、BiSHのエモさの源泉のひとつだと思っています。
楽曲レビュー一覧へ移動