乃木坂46「帰り道は遠回りしたくなる」歌詞の意味考察 好きだった「帰り道」から、新しい「知らない道」へ


目次
イントロダクション
タイトルの意味
「この場所」はどこか?
「帰り道」は何を意味する?
歌詞のなかでの時間経過
「帰り道」と「知らない道」
結論・まとめ
ミュージックビデオについて

イントロダクション

 「帰り道は遠回りしたくなる」は、女性アイドルグループ、乃木坂46の楽曲。2018年11月14日に、22作目のシングルとしてリリース。作詞は秋元康。

 2018年いっぱいでの卒業を発表している西野七瀬さんが参加する、最後のシングルとなります。(卒業コンサートは2019年に開催)

 そのため歌詞も、西野さんの卒業を連想させる内容。ただ、直接的に卒業や別れを語るのではなく、あくまで卒業ソングとしても解釈できる構造になっています。

 秋元康らしく、解釈がいくつも可能な歌詞とも言えるでしょう。

 このページでは、「帰り道は遠回りしたくなる」の歌詞を考察し、どのあたりが卒業を連想させるのか、明らかにしたいと思います。

タイトルの意味

 最初に「帰り道は遠回りしたくなる」という印象的なタイトルについて検討しましょう。

 まず気になるのは、タイトルが文章であること。いや、2000年代以降は、文章化したタイトルの作品が増えているので、もはや何も感じない人の方が、多いかもしれません。

 いくつか例をあげると、書籍『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』、ライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』、アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などなど。

 文章化したタイトルの長所は、端的に言ってしまえば、内容を想像しやすいところでしょう。では「帰り道は遠回りしたくなる」というタイトルは、どんな印象を与えるのか。

 まず「帰り道」は、どこかに行ったあとで、自分の家に帰る道ということ。なにかの終わりを感じさせます。その後に続く「遠回りしたくなる」には、まだ家には帰りたくない、という気持ちがあらわれています。

 つまり、出かけた場所が楽しかったので、この余韻を少しでも味わいたい、という心情なのでしょう。文字どおりの意味では「今日は楽しい1日だったので、帰るのが名残惜しく、だから遠回りしたくなる」となります。

 では、このタイトルを西野さんの状況にあてはめるとどうでしょうか。乃木坂46という場所から、離れるのが名残惜しい、ということになるでしょう。

 いずれにしても、終わりと始まりを思わせるタイトルであり、西野さんにあてはめると、乃木坂46への愛着を感じさせるタイトルです。

「この場所」はどこか?

 では、タイトルの意味を念頭におきながら、実際の歌詞を検討していきましょう。イントロ部分の歌詞を、以下に引用します。

好きだった… この場所…

 「この場所」とは、どこを意味するのか。結論から言うと、具体的には記述されません。

 しかし、その前に「好きだった」とあるとおり、語り手の「僕」にとって居心地がいい場所であるには確かです。

 続いて、1番のAメロの歌詞を、以下に引用します。

やめられない漫画を途中で閉じて
顔を上げて気づくように
居心地いい日向もいつの間にか
影になって黄昏(たそがれ)る

 上記の引用部をまとめると、なにかに夢中になっていたら、いつの間にか多くの時間が過ぎていた、ということでしょう。

 3行目〜4行目では、「日向」が「黄昏」になることで、時間の経過をあらわしています。昼間をあらわす「日向」から、夕暮れを意味する「黄昏」への移行は、なにかの終わりを示唆しているとも言えます。

 その後に続く、Bメロの歌詞を、以下に引用します。

君と会って
過ぎる時間忘れるくらい夢中で話した
僕の夢は
ここではないどこかへ

 1行目の「君」が誰で、「僕」とどんな関係にあるのか。ここでも、具体的な情報は提示されません。

 前半2行は、Aメロの内容とも共通しており、「君」との会話は時間を忘れるくらい夢中になるものだった、という内容。しかし後半2行では、一変して「僕」の夢についての記述となっています。

 ここまでの歌詞の内容は、いずれも抽象的。断片的なイメージは伝わってきますが、具体的な状況や人物描写が、ほとんどありません。

 「帰り道は遠回りしたくなる」というタイトルですが、具体的にどこへ出かけ、どこから帰ってくるのか。そのような情報が、歌詞では語られません。

 では、詳細が語られない理由はなぜか。具体的なエピソードを語るのではなく、抽象的にメッセージを伝えるため、というのが僕の仮説です。

 この曲では「帰り道」や「この場所」といった言葉が、それぞれ表面上の意味だけでなく、より広がりのあるシンボリックな意味をともなっています。

 イントロ部分の「この場所」を例にとれば、自分が慣れ親しんだ居心地のいい場所を指しており、リスナーによって様々な意味に響きます。

 西野さんの状況にあてはめると、言うまでもなく乃木坂46が、居心地のいい「この場所」だということです。

「帰り道」は何を意味する?

 その後に続く歌詞も、文字どおりの意味をとるのは簡単ですが、いくつもの解釈が可能なかたちで記述されていきます。

 1番のサビの歌詞を、以下に引用します。

帰り道は 帰り道は
遠回りをしたくなるよ
どこを行けば どこに着くか?
過去の道なら迷うことがないから
弱虫(弱虫…)
新しい世界へ
今 行きたい 行きたい 行きたい
行きたい強くなりたい

 こちらの引用部の「帰り道」とは、なにを意味するのでしょうか。文字どおりの意味は、どこかに出かけ帰る途中の道。

 しかし引用部の「帰り道」には、それだけにはとどまらない意味が込められています。帰る途中の道とは、往路で一度は通った道だということ。

 引用部4行目の「過去の道なら迷うことがないから」という一節から、ここでの「帰り道」とは、帰路の意味だけでなく、過去に歩んできた道全般を指していることが分かります。

 つまり、もっとくだけた意訳をすると、帰路の意味だけでなく、すでに経験したできごと全般を指しているということです。

 そして、6行目の「新しい世界へ」には、新たな世界へ向かう意思がこめられています。帰り道に遠回りをしたくなる理由は、「この場所」を離れるのが名残惜しいばかりでなく、新しい道へ進む不安も、含まれているのでしょう。

 西野さんに置き換えると、乃木坂という馴れ親しんだ道を離れ、ソロ活動という新たな道へ進む、不安と決意を歌った曲と言えます。

 サビ後のブリッジ部分には、イントロ部分にあったメロディーと歌詞が、再び挿入されます。以下に引用します。

Oh!Oh!Oh! 好きだった… この場所…
Oh!Oh!Oh! 一歩目… 踏み出そう!

 上記の引用部には、1番の歌詞が伝えるメッセージが、凝縮されていると言えるでしょう。すなわち、馴れ親しんだ場所を離れ、知らない道、新しい道へと進むということです。

歌詞のなかでの時間経過

 2番に入っても、1番と同じく抽象的なかたちで、新しい道へ向かう心情が、綴られていきます。2番のAメロの歌詞を、以下に引用します。

街灯りが寂しくふと感じるのは
見慣れた景色と違うから
いつもの高架線が見えなくなって
どこにいるかわからない

 1番のAメロでは、「日向」から「黄昏」へと、時間の経過が描かれていました。上記2番では、1行目の「街灯り」から想定するに、さらに時間が進み、夜になっています。

 そして後半2行では、暗くなって景色が変わったために「どこにいるかわからない」、と記述されています。これは何を意味するのでしょうか。

 時間の経過は、別れが近づいていること。どこにいるかわからなくなったのは、新しい道へ進むことへの不安をあらわしている、というのが僕の考え。

 見慣れたはずの帰り道も、夜になって高架線が見えないことで、まったく違って見える。言い換えると、同じ場所にいても、環境が変わると全く違って見える、ということです。

 その後に続くBメロでは、語り手である「僕」の心情が綴られます。以下に引用します。

人は誰も
変わることに慣れていなくて昨日と同じように
今日も明日(あす)も
ここにいたくなるんだ

 説明する必要がないぐらい、単刀直入な内容です。注目すべきは時間の経過に比例して、語られる心情も変化しているところ。

 1番では「日向」と「黄昏」と共に、「君」との時間の大切さと、「僕の夢」がこの場所ではないどこかにあると、語られました。

 それに対して2番では、時間が夜まで進み、「僕」のより強い決意が書かれています。歌詞のなかでの時間の経過は、並行して「僕」の心情の変化もあらわしているのでしょう。

「帰り道」と「知らない道」

 2番のサビでも、「僕」の心情が記述されます。「弱虫」というワードと共に、不安な気持ちも含まれていた1番に対して、2番ではより強い決意が綴られます。

 2番のサビの歌詞を、以下に引用します。

知らない道 知らない道
あと何回 歩けるだろう
夢の方へ 愛の方へ
風は道を選んだりはしないよ
このまま(このまま…)
ONE WAYの標識
でも 行くんだ 行くんだ 行くんだ 行くんだ
戻れなくても…

 上記の引用部も、表面上の意味をとるのは、それほど難しくありません。しかし、ここまでの歌詞と同じく、深読みを許容する表現が並んでいます。

 キーとなるのは「ONE WAYの標識」。「ONE WAY」とは、一方通行の意味。すなわち、その方向へ進んでしまったら、二度と引き返せないということ。歌詞でも「行くんだ 戻れなくても…」と綴られています。

 西野さんの状況に置き換えると、乃木坂に帰るのではなく、卒業してソロへと転向すること。そして、二度と乃木坂には戻らないことを意味します。

 上記引用部で、もうひとつ重要なのは、1行目の「知らない道」という表現です。1番の歌詞では、同じ位置に「帰り道は」が入っていました。

 入れ替わりで使用されているのも示唆的ですが、この曲では「帰り道」に対立する概念として「知らない道」という言葉が使われています。

 一貫して具体的なストーリーではなく、抽象的にメッセージを綴っていくこの曲。「帰り道」と「知らない道」も、文字どおり以上の意味をともなっています。

 先ほども触れたとおり「帰り道」は、帰る途中の道。すでに知っていること、慣れ親しんだ場所の象徴として、「帰り道」という言葉が使われているのでしょう。

 「知らない道」は、その逆の概念。つまり、まだ知らないこと、新しい場所を象徴した言葉なのだと考えられます。

 そして、語り手である「僕」は、知らない道へ進むことを選んだのです。

結論・まとめ

 考察してきたことを、まとめましょう。

 「帰り道は遠回りしたくなる」は、具体的なストーリーではなく、メッセージが前景化した歌詞を持っています。

 登場人物は、語り手である「僕」と「君」。「僕」が、慣れ親しんだ場所である「帰り道」から離れ、新しい世界を象徴する「知らない道」へ、踏み出すまでの心境が語られています。

 また、この曲をラストに乃木坂46を卒業する、西野七瀬さんを連想させる内容にもなっています。

 歌詞における「僕」が西野さん。「帰り道」が乃木坂46で、「君」が乃木坂のメンバー、「知らない道」が卒業にあたります。

 好きだった場所が名残惜しく、新しい世界への不安もあり、遠回りをしながらも、最後には「知らない道」へと踏みだしていく。それが歌詞の内容です。

 ここからは、自分の感情も含めて、書いていきたいと思います。若干の文の乱れは、ご容赦ください。西野さんのことも、以降は「なぁちゃん」と記載させていただきます。

 「帰り道は遠回りしたくなる」というタイトルが発表されたとき、学校あたりを舞台にした架空のストーリーを語り、なんとなく卒業も感じさせる曲なのではないかと想像していました。

 でも実際の曲は、想定を超えて卒業ソングでしたね。歌詞は思ったより抽象的だし、後半はもうなぁちゃんの卒業のことを歌っているとしか思えない内容です。

 なぁちゃんのおっとりしているけど、ときに芯の強さを見せる性格に、「帰り道は遠回りしたくなる」という言い回しはぴったりだと思います。

 本論では触れませんでしたが、「弱虫」という言葉が使われていながら、やがて新しい世界へ踏みだしていくところも、彼女の成長をあらわしているようで泣けます。

ミュージックビデオについて

 さて、結論のあとになりますが、ミュージック・ビデオについても、触れておきます。

 動画を観ていただければ、特に説明の必要もないぐらい、わかりやすい内容です。主役は、センターを務めるなぁちゃん。

 メガネをかけたなぁちゃんが、発車しそうなバスに向かって、走るシーンから始まります。描かれるのは、ふたつの並行世界。

 一方はバスに間に合い、そのまま学生を続ける世界。もう一方は、メガネを落としてしまいバスに間に合わず、たまたま道を歩いていたスカウトに出会い、アイドルになる世界。

 歌詞にも「帰り道」「知らない道」と何度も道が出てきますけど、人生には無数に道があるんだよ、という内容になっています。

 もちろん、なぁちゃん以外の乃木坂メンバーも出てくるのですが、歌詞の内容とも相まって、なんだか泣けてきます。

 僕は秋元真夏さん推しなのですけど、やっぱり推しでなくともメンバーの卒業は寂しい。本当に寂しいです。

 思い入れがある方はもちろん、そうでなくとも間口の広い歌詞であり、楽曲であると思います。ぜひ聴いてみてください!

 




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