miwa「結 -ゆい-」歌詞の意味考察 「僕たち」の共犯関係


目次
イントロダクション
語りの枠組み
「僕」と「あなた」の関係性
なぜ「僕たち」を使ったか?
タイトルの意味
結論・まとめ

イントロダクション

 「結 -ゆい-」は、2016年10月5日にリリースされた、miwaのメジャー通算21枚目のシングル。2017年リリースの5thアルバム『SPLASH☆WORLD』にも、収録されています。作詞作曲はmiwa。

 この曲はNHK『みんなのうた』に採用されていて、僕が初めて耳にしたのも、この番組でした。他のことをしながら、テレビ画面を見ずに聴いていて、「声もメロディーも、やたらmiwaに似てるなぁ」と思っていたら、miwa本人の曲だったという…。

 初めて聴いたときから、いい曲だなと思っていました。その理由は、いかにもNHKらしく教育的なのに、奥にはプロテスト・ソングに通ずる、メッセージが含まれているから。

 「教育的」なんて書くと、小難しい感じがしますけど、リスナーに人生を説いた曲だということです。別にNHKのことも、miwaさんのことも、ディスってるわけじゃありませんよ。

 「結 -ゆい-」というタイトルのとおり、曲のテーマを端的に言うと、仲間との絆。しかし、ただポジティヴな言葉を重ねるだけでなく、世界の厳しさを説くところもあり、理想論と現実感のバランスが絶妙な楽曲です。

 その厳しさを説く部分に、前述のプロテスト・ソングの香りが漂うんですよね。ただ「仲間との絆を胸に頑張ろう!」と連呼するだけではなくて、孤独や大人とのコミュニーケーションといった、現代的な悩みも楽曲に落とし込まれています。

 基本的には若者に向けられた曲なのですが、大人との対立を煽るわけでも、世間の常識にツバを吐くわけでもなく、おだやかに励ますような歌詞です。少し年上の先輩が、後輩を励ますような感じ、とでも言うんでしょうか。

 また語りの内容も、具体的なストーリーを語るのではなく、抽象的にメッセージが記述されていきます。語り手は出てくるのですが、代名詞は「私」や「僕」ではなく、つねに複数形の「僕たち」。

 この代名詞が複数形になっていることに注目し、歌詞の意味を考察してみたいと思います。

語りの枠組み

 最初に語りの枠組みを確認しましょう。語り手が誰で、ほかに登場人物は出てくるのか。

 前述したとおり、歌詞に出てくる一人称代名詞は「僕たち」のみ。しかし、語り手が複数いるわけではなく、あくまで語っているのは「僕」ひとりだと想定されます。では、なぜわざわざ複数形の「僕たち」を使ったのか、その理由を考えてみます。

 まずは、ほかの登場人物を確認しましょう。「僕たち」のほかに使われている代名詞を確認すると、「あなた」が登場。語り手である「僕」が、「あなた」に向かって語りかけている構造だとわかります。

「僕」と「あなた」の関係性

 次に、語り手である「僕」と、励まされる「あなた」がどんな関係であるのか検討します。

 歌詞は、具体的な人物描写やストーリーが乏しく、どちらかというと、やや抽象的なもの。そんななかで、歌い出しとなる1番のAメロに、唯一とも言える「あなた」のスペックをあらわす情報があります。

 1番Aメロの歌詞を、以下に引用します。

「大人のために生きてるわけじゃない」と
うつむいた瞳には映らないけれど
見上げればこんなに青空は広いのに

 1行目の「大人のために生きてるわけじゃない」という一節。わざわざカギカッコで区別しているのは、語り手の発言ではなく、「あなた」の発言を引用しているという意味でしょう。

 「大人のために生きてるわけじゃない」ということは、発言者の「あなた」は大人ではない、つまり10代の若者を想定していることが分かります。

 また発言内容と、2行目に続く「うつむいた瞳」という描写からは、大人との対立も示唆されます。3行目には、語り手の「僕」が「あなた」を慰めたいという感情が、述べられているのでしょう。

 上記引用部で得られた情報をまとめると、「あなた」は若者であり、少なからず大人と緊張関係にある。そして語り手である「僕」は、そんな「あなた」を慰めている、という状況です。

 では「あなた」と「僕」は、どんな関係性にあるのか。「あなた」と同じ立場に立っていることから、「僕」と同様に大人ではなく若者であると想定できますが、上記引用部からは確定的な情報は得られません。

 しかしサビに入ると、より2人の関係を浮かびあがらせる言葉が並びます。1番のサビの歌詞を、以下に引用します。

信じること
あなたの中に 眠ってる力に気づいて
あきらめないで
無駄なことなんて なにひとつないって思い出して
僕たちはなにより強い絆で結ばれている

 4行目までは「あなた」を励ます言葉が続いています。そして5行目には、先ほど指摘した「僕たち」という代名詞が登場。

 では、この「僕たち」は誰を指しているのでしょうか。普通に考えれば「語り手」である「僕」と「あなた」を指しているのでしょう。

 さらに、その後に続く「なにより強い絆で結ばれている」という一節。「僕たち」と一括りにできる点と、強い絆で結ばれているという点から、2人は対等な立場であることが窺えます。

 つまり、「僕」は「あなた」と同世代の友人であると考えるのが自然でしょう。

なぜ「僕たち」を使ったか?

 では、なぜわざわざ「僕たち」と複数形を用いたのか、考えてみます。

 前述のとおり「僕」と「あなた」が、対等であると示す効果もあるでしょう。しかし、複数形の「僕たち」を使わなくとも、2人が対等であると示すことは可能です。

 この曲で「僕たち」を用いたのは、「僕」と「あなた」をイコールで結び、価値観の共有を強調するため。さらには、歌詞のなかの「あなた」のみならず、リスナーをも巻き込む機能を持っている、というのが僕の立てた仮説です。

 「僕たち」という表現に、「僕」と「あなた」が含まれるのは、先ほど考察したとおり。しかし、この言葉の範囲はそれだけにとどまりません。

 複数形であるために、「僕」と「あなた」以外にも、同じ価値観を持つ、多くの人をとりこむことが可能。例えば、この曲を聴いているリスナーさえも、当事者として曲の世界にひきこむことが可能となります。

 これは、もしも複数形の「僕たち」を使わずに、単数形の「僕」が「あなた」に問いかける構造であったならば、不可能だったこと。

 「僕」が「あなた」へダイレクトに問いかける方が、メッセージ性は際立つ歌詞になっていたかもしれません。しかし、あくまでメッセージが前景化し、リスナーを楽曲の世界に参加させることはできないでしょう。

 「僕」と「あなた」以外の人をも含むことができるのが「僕たち」という複数形。つまり、この曲のメッセージに共感する人なら、誰でも「僕たち」の一部になれるということです。

 言い換えれば、曲の語り手は「あなた」に語りかけるのと並んで、リスナーにも語りかける構造が成り立っています。

 「僕たち」という言葉には、リスナーと共犯関係を結び、楽曲の世界にひきこむ効果があるということです。もちろん複数形を用いずとも、曲のなかの「あなた」に自分を照らし合わせて、共感する人もいるでしょう。

 この曲では、わざわざそのような変換作業をしなくとも、おのずから聴き手を曲のなかに引き込み、ますます共感性が高まっているということです。

タイトルの意味

 では、「僕たち」がリスナーをも巻き込む言葉だと確認したうえで、この曲がなにを訴えているのか、検討してみましょう。

 「結 -ゆい-」というタイトルにも集約されていますが、人と人との繋がりをテーマにした曲であるのは明らかです。

 歌詞には「結」という言葉そのものは出てきませんが、その代わりに「絆」という言葉が何回か出てきます。2番のサビの歌詞を、以下に引用します。

遠ざかる雲
手を伸ばしても 届かないものもあるんだから
いちばん手に
入れたいものって 簡単じゃないでもあきらめない
僕たちはなにより強い絆で結ばれている

 4行目までは、手が届きそうにない夢でも諦めずに追いかけよう、というメッセージが、やや抽象的なかたちで記述されています。

 しかし、最後の5行目は一変して「僕たち」の絆についての記述。一見すると、前後の繋がりが無いように思われますが、逆にいくつもの解釈が可能なところでもあります。

 1番のサビでは、「僕」が「あなた」を励ます言葉が並んでいました。つまり、発言者と対象者がハッキリしていたということ。

 対して上記2番のサビでは、主語が曖昧なままになっています。特に4行目の「簡単じゃないでもあきらめない」。

 その前までは、1番と同じく「僕」が「あなた」にかけた言葉だと解釈できますが、4行目の「でもあきらめない」は、「僕」自身の決意のように響きます。

 もし「あなた」に対してかける言葉なら、「あきらめないで」とした方が自然でしょう。しかし「あきらめない」と言いきることで、主語と目的語が曖昧になっています。

 発言者と対象者が、一体となっているとも言えるでしょう。「結」というタイトルからも示唆させるように、人間同士の繋がり、とくに仲間がいるから頑張れる、という感情を描写しているということです。

 そのため、あえて「僕」と「あなた」の境界を曖昧にし、絆が前景化するようにしたのではないかと思います。

結論・まとめ

 ここまでの考察をまとめましょう。「結 -ゆい-」というタイトルを持つこの曲は、その曲名が示唆するとおり、仲間との繋がりがテーマとなっています。

 そのため、語り手が用いるのは単数形ではなく、複数形の「僕たち」。「僕」と「あなた」の境界をあえて曖昧にし、さらにはリスナーをも楽曲の世界に巻きこみ、人との繋がりの大切さを訴えていきます。

 メッセージをただ記述するだけでなく、語りの構造がメッセージの一部となっているのが、この曲の特異な点と言えるでしょう。

 直接的ではないけど、若者の立場から大人との対立を描いた曲でもあります。THE BLUE HEARTSや尾崎豊をカバーしたこともあるmiwa。

 あまり表には出さないけれど、思った以上に物申したいことがある人なのかなと想像します。

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