けやき坂46「イマニミテイロ」歌詞の意味考察 感情をあらわす「色」の機能


目次
イントロダクション
なぜカタカナ?
登場人物の対立構造
「色」があらわすもの
結論・まとめ

イントロダクション

 「イマニミテイロ」は女性アイドルグループ、けやき坂46の楽曲。作詞は秋元康。

 2018年6月20日リリースの1stアルバム『走り出す瞬間』、2018年3月7日リリースの欅坂46の6thシングル『ガラスを割れ!』Type-Bに収録されています。

 カタカナで表記されたタイトルが目を引くこの曲。僕はこういう、作者の意図を感じる表現を見ると、あれこれ考察したくなってしまいます。

 そんなわけで、今日は「イマニミテイロ」の歌詞を、読みといてみたいと思います。

なぜカタカナ?

 まず、タイトルがなぜカタカナで表記されているのか、考えてみます。

 普通に表記するならば、おそらく「今に見てろよ」。歌詞をざっと見ても、予想以上の結果を出すから今に見てろよ!という反骨心が、テーマになっているようです。

 では、なぜわざわざカタカナにしたのか。曲名や歌詞を目にしたときに、リスナーの注意を引き、強調したい意図があるのは確かでしょう。

 カタカナは多くの場合、外来語の名詞にたいして使います。言うまでもなく「今に見てろよ」は外来語ではありませんし、名詞でもありません。

 ということは、本来はカタカナ表記しない言葉を、あえてカタカナで表記することで名詞化している、という仮説が立ちます。

 結論から言ってしまうと、僕は「イマニミテイロ」とカタカナ表記にしたのは、名詞化するためであり、具体的には色をあらわす名詞へと転化している、と考えています。

 黄色とか紫色のように「イマニミテ色」ということですね。では、色をあらわすとは、具体的にどういう意味なのか、検討していきましょう。

登場人物の対立構造

 色の考察の前に、登場人物と関係性を確認します。

 出てくるのは、語り手となる「僕たち」と「大人たち」。「大人たち」の言葉に「僕たち」は反発し、反骨心をあらわにしていくのが、歌詞の大まかな内容です。

 歌い出しとなる、1番のAメロ1連目の歌詞を、以下に引用します。

ある日 突然 大人たちから
「やってみないか?」って言われて
どうするつもりだ?臆病者よ

今の僕たちじゃ無理だってもちろん
みんなわかってるよ (HA-)

 具体的に何をどうするのかは記述されないのですが、大人たちの提案から歌詞は始まります。

 上記引用部での「僕たち」のリアクションを見ると、ただ大人たちに反発するだけではなく、様々な感情が入り混じっていることがわかります。

 例えば、3行では自分たちを「臆病者」と呼び、4行目では「今の僕たちじゃ無理」とも言っています。「僕たち」は、大人を見返したいという反骨心だけでなく、現状に対する不安も抱えているということです。

 Aメロ2連目では、さらに複雑な感情が綴られます。以下に引用します。

だけど なぜか すぐその場で
喧嘩を買うように頷く
やるしかなかった 正直者よ

きっと試されてるのだろう
無理難題 押し付ければ絶対
ギブアップするって…

 2行目の「喧嘩を買うように頷く」からは大人への反骨心があらわになっていますし、1行目の「なぜか すぐその場で」からは不安な気持ちがにじみ出ています。

 ここまでの考察で、「僕たち」と「大人たち」の対立構造が基本となってはいるものの、決して大人たちへの反骨心だけを、描いた曲ではないことがわかります。

「色」があらわすもの

 歌詞は一貫して「僕たち」の複雑な感情を描いていきます。

 サビでは、タイトルになっている「イマニミテイロ」という言葉が出てきますが、文脈のなかで何を意味するのか。1番のサビを、以下に引用します。

イマニミテイロ どういう色だ?
唇噛み締めながら頑張って来た色
心の奥で何度も呟(つぶや)いた
言葉は何色? いつの日にかミテイロ

 1行目は「イマニミテイロ」とはどういう色なのか、という疑問文。そして2行目が、その疑問に対する答えとなっています。

 つまり「イマニミテイロ」とは、「唇噛み締めながら頑張って来た色」であるということです。

 「イマニミテイロ」とカタカナで表記することで、色をあらわす名詞化している、という仮説が正しかったと言えるでしょう。

 ただ、色と言っても、赤とか青とか視覚的な意味での色を、あらわしているわけではありません。この曲の中では、心情をあらわす手段として、色が利用されているのです。

 「イマニミテイロ」は、一般的な表記にすれば「今に見ていろ」。誰かを見返したい、反骨心をあらわす言葉です。

 上記引用部では、その反骨的な感情を「唇噛み締めながら頑張って来た色」と描写。一言ではあらわすことのできない複雑な感情を、説明的な文章とくっつけて色にまとめています。

 引用部の3行目と4行目も、それまで何度も「今に見ていろ」と誓ったときの感情を、「いつの日にかミテイロ」と色でまとめているのでしょう。

 2番のサビでも、同様の手法が使われています。2番サビの歌詞を、以下に引用します。

イマニミテイロ どういう色だ?
苦しい時に何度も 夢に見て来た色
願ったことは必ず叶えるよ
気持ちは何色? 言ってみたいザマアミロ

 後半2行はちょっと異なりますが、上記2番のサビも、基本構造は1番と共通。

 複雑な感情を言葉で説明したうえで、ひとつの色にまとめています。

結論・まとめ

 以上「イマニミテイロ」の歌詞を、カタカナ表記にすることで名詞化をおこなっている、という仮説に基づいて考察してみました。

 「僕たち」の持つ感情を、「イマニミテイロ」という言葉にまとめたというのは前述したとおりですが、この表現が面白いのは、辞書のように説明してしまうところ。

 一言であらわせない複雑な感情を、実際に一言であらわさず、「苦しい時に何度も 夢に見て来た色」というように、長めに説明文をつけてしまって、最後に「色」で閉じる。力技とも言うべき、表現技法ではないでしょうか。

 いずれにしても、秋元康らしいというか、テクニックを駆使した、興味深い歌詞であると思います。

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