目次
・イントロダクション
・設定の確認
・電車が意味するもの
・電車の通過と時間の経過
・サヨナラの意味
・結論・まとめ
イントロダクション
「サヨナラの意味」は、女性アイドルグループ・乃木坂46の16作目のシングル。2016年11月9日にリリース。2017年リリースの3rdアルバム『生まれてから初めて見た夢』にも収録されています。作詞は秋元康。
センターポジションを務めるのは、2017年2月20日に乃木坂46を卒業した橋本奈々未さん。本作は、橋本さんが参加する最後のシングルでもあります。
「サヨナラの意味」というタイトルが示すとおり、別れがテーマとなったこの曲。歌詞の内容は、決して解釈が難しいものではありません。
でも、いかにも秋元康らしいと言うべきなのか、言葉と場面設定にテクニックを感じる歌詞でもあります。
僕が気になったのは、この曲における「電車」の使い方。先に結論を述べると、通り過ぎる電車が、時間の経過を強調しているように思われるのです。
そこで、電車が果たす機能に注目しながら、「サヨナラの意味」の歌詞を考察したいと思います。
設定の確認
まず、登場人物や場面設定などを、確認しておきましょう。
出てくるのは、語り手である「僕」と「君」。この2人の別れが、歌詞の中心となっています。
次に、場所や時間など。1番のAメロ1連目に、情報が提示されています。以下に引用します。
電車が近づく
気配が好きなんだ
高架線のその下で耳を澄ましてた
3行目に「高架線のその下」とあるとおり、場所は高架下。
歌詞の大まかな内容は、「僕」と「君」のお別れ。2人の具体的な関係や、別れの理由などは記述されません。
僕が気になったのは、なぜわざわざ場所を高架下に設定したのか。他の場所ではなく、高架下にする必要性があったのか、という点です。
そこでキーになるのは、1行目に出てくる「電車」。この曲では「電車」を利用することで、なにかを意味している、と仮説を立てました。
1行目に出てくるところも示唆的。作詞家からの「この電車には記号的な意味がありますよ」という、メッセージなのではないかと思います。
電車が意味するもの
では、電車がなにを意味するのか、検討していきましょう。
通過していく電車は、人の手では止めることができません。また、決まったレールの上を走る乗り物でもあります。
このような電車の特徴が、止めることのできない時間の流れをあらわしている、というのが僕の考えです。
当然のことながら、時間は止めることは不可能。時間は不可逆であり、一定のペースで流れていきます。時間の流れに、僕たちは従うしかありません。
「電車」を歌詞に登場させたのは、時間の不可逆性とコントロールできない特性をあらわすため。したがって、自動車や飛行機ではなく電車、場所も駅ではなく高架下に、限定する必要があったのです。
まとめると、過ぎ去る時間を強調するための装置として、電車を登場させたということです。
電車の通過と時間の経過
では、実際にどのような時間に関する表現が出てくるのか、確認していきましょう。
この曲には、時間の流れを感じさせる表現が、いくつも出てきます。1番のAメロ2連目の歌詞を、以下に引用します。
柱の落書き
数字とイニシャルは
誰が誰に何を残そうとしたのだろう
誰がいつ書いたのかも分からない、柱の落書き。先ほど引用した1連目では、高架線を走り去る電車によって、過ぎ行く時間をあらわしていましたが、今度は柱の落書きで、時間の経過をあらわしています。
上記の引用部は、時間が過ぎ去っても変わらないものがある、ということをシンボリックに描いたのだと思います。後述しますが、この曲のタイトルでもある「サヨナラの意味」にも繋がるメッセージです。
その後に続く1番のBメロでも、時間の流れが記述されています。以下に引用します。
歳月(とき)の流れは (歳月(とき)の流れは)
教えてくれる (教えてくれる)
過ぎ去った普通の日々が
かけがえのない足跡と…
上記引用部をまとめると、過去の普通の日々が、大切なものだったと、時間が経ってからわかる、ということ。先ほどの「柱の落書き」は、「かけがえのない足跡」を予感させる、前フリのような言葉だったとも言えます。
次に、ちょっと先へ進んで、2番のAメロ1連目の歌詞を引用します。
電車が通過する
轟音(ごうおん)と風の中
君の唇が動いたけど
聴こえない
冒頭部分に続き、再び「電車」が出てきました。先ほどと同じく、上記の「電車」も、止めることのできない時間の流れを象徴している、と考えます。
上記の引用部では、さらに「轟音」も相まって、時間の流れへ逆らうことのできない事実が、強調されています。
ここまでの歌詞で、注目すべきは過ぎ去るものと、残り続けるもののコントラスト。高架線を通過していく電車と、それを待つ「僕」。過ぎ去っていく時間と、残り続ける足跡。
両者の違いが、鮮明に描かれています。
サヨナラの意味
では、電車も時間も止められないものだとして、この曲が伝えたいものは何か。タイトルにもなっていますし、この曲においてサヨナラがなにを意味するのか、検討していきます。
2番のBメロの歌詞を、以下に引用します。
大切なもの (大切なもの)
遠ざかっても (遠ざかっても)
新しい出会いがまた
いつかはきっとやって来る
上記引用部では、大切なものと別れることが、電車や時間の経過と同じく、なかば仕方のないものとして描かれています。
その上で、別れがあれば新しい出会いもある、とポジティヴに別れの意味をとらえ直しています。
その後につづくサビでは、上記の思考がさらに強調されます。2番のサビの歌詞を、以下に引用します。
サヨナラを振り向くな
追いかけてもしょうがない
思い出は
今いる場所に置いて行こうよ
終わることためらって
人は皆立ち止まるけど
僕たちは抱き合ってた
腕を離して
もっと強くなる
大意は前述したBメロと、共通していると言えるでしょう。サヨナラは多かれ少なかれ訪れるものであり、悔やむよりも、サヨナラをきっかけに強くなろう、というメッセージが綴られています。
さらに、Cメロを挟んだ後のサビでは、歌詞のハイライトと思われる言葉が並びます。以下に引用します。
サヨナラは通過点
これからだって何度もある
後ろ手(で)でピースしながら
歩き出せるだろう
君らしく…
1行目の「サヨナラは通過点」が、この曲がもっとも伝えたいメッセージでしょう。走り去る電車や、流れていく時間と同様、人生においてサヨナラは必ず経験するもの。
だから、サヨナラを終わりと考えるのではなく、通過点と捉え、前を向いて歩き出そう。そう訴えています。
結論・まとめ
以上「電車」に注目しながら、「サヨナラの意味」の歌詞を読みといてきました。
この曲では冒頭から電車が登場しますが、それは通過する時間および別れを象徴するため。通過していく電車と同じく、サヨナラも過ぎ去っていくものであり、通過点。
だから、サヨナラをネガティヴに捉えず、残り続ける思い出を胸に前に進もう、というのが曲が伝えるメッセージです。
前述したとおり、この曲は橋本奈々未さんが参加した最後のシングル。そのため、グループを去っていく橋本さんと、残されたメンバー達の状況を、少なからず重ね合わせた歌詞であるのでしょう。
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