米津玄師「TEENAGE RIOT」歌詞の意味考察 10代の暴動的エモーション


目次
イントロダクション
10代らしい描写
語りの視点
自分へのメッセージ
過去をふり返る理由
言えなかった三文字
結論・まとめ

イントロダクション

 「TEENAGE RIOT」は、徳島県出身のシンガーソングライター、米津玄師の楽曲。2018年10月31日に、両A面シングル『Flamingo/TEENAGE RIOT』としてリリース。作詞作曲は米津玄師。

 タイトルの「TEENAGE RIOT」とは、直訳すれば「10代の暴動」。(「teenage」は13歳から19歳までなので、厳密には10代ではありませんが…)

 タイトルが示唆するとおり、歌詞にもリズムにも、10代を連想させる疾走感のある楽曲です。

 僕はこのタイトルを見て、まっ先にソニック・ユース(Sonic Youth)の同名曲「Teen Age Riot」が頭に浮かんだんですけど、この曲のタイトルを踏襲し、楽曲名ありきで制作された曲とのこと。

 いずれにしても「10代の暴動」というタイトルにふさわしく、10代の若者が抱く苛立ちや焦燥感が、閉じこめられた楽曲だと思います。

 僕がこの曲の歌詞で、興味深いなと思った点は、語りの視点。あくまで僕の解釈ですが、現在の視点から、少し昔をふりかえっているような構造になっているんです。

 年齢などは具体的には出てきませんけど、例えば20歳になった現在から、15歳の頃を思い出して語っているような。

 なぜそう思うのかというと、たびたび語尾が過去形になっているため。そして、サビに出てくる「バースデイソング」というワードです。

 本論では、語りの視点に注目しながら、「TEENAGE RIOT」の歌詞を読みといてみたいと思います。

10代らしい描写

 この曲には「僕」や「私」といった、一人称の代名詞は出てきません。出てくる代名詞は「君」と「あなた」の二つ。これについては後述します。

 一人称の代名詞は使わず、ひたすら語り手がマシンガンのように言葉を弾き出していきます。メロディーとアンサンブルも、小気味よく疾走感があるのですが、そこに乗る歌詞も同じく、疾走感をともなった言葉が並びます。

 1番Aメロの歌詞を、以下に引用します。

潮溜まりで野垂れ死ぬんだ 勇ましい背伸びの果てのメンソール
ワゴンで二足半額のコンバース トワイライト匂い出すメロディー

 一聴すると勢いに押されて、細かい意味は取れませんが、じっくり見ていくと、それぞれの言葉のイメージを利用しながら、多くの情報が盛り込まれています。

 まず、歌い出しの「潮溜まり」。海になじみがある人以外には、あまり聞きなれない言葉かもしれません。

 これは海岸で潮が引いたときに、岩のくぼみなどに、海水が取り残された状態のこと。タイドプール(tide pool)とも呼ばれます。

 大きな海ではなく、一時的な水たまり。つまり、海が大人の世界だとすると、まだ成熟していない10代を指しているのでしょう。

 「潮溜まりで野垂れ死ぬんだ」とは、無茶なことをやりがちな、10代の思考をあらわしているんだと思います。

 その後に続くのは、若さをシンボリックに描いた表現。人生の「潮溜まり」期がどのようなものか、後ろから説明しているということです。

 「勇ましい背伸びの果てのメンソール」とは、若者がタバコに憧れるけど、強いタバコは吸えず、メンソールを吸うこと。

 「ワゴンで二足半額のコンバース」とは、半額セールでコンバースのスニーカーを買い、結果としてみんな同じ靴を履いている状況。

 そして「トワイライト」とは、夕暮れ時のこと。中高生にとっての放課後の空気を、「メロディー」という言葉であらわしたのでしょう。

 こうして見ると、すべて若さを連想させる表現と言えます。

語りの視点

 Bメロの入っても、引き続き若さの描写が続きます。

 ただ、前述したように、このあたりから語りの視点が、単純ではなくなってくるんです。1番Bメロの歌詞を、以下に引用します。

今サイコロ振るように日々を生きて ニタニタ笑う意味はあるか
誰も興味がないそのGコードを 君はひどく愛していたんだ

 サイコロは、ゲームやギャンブルなどで使われる、乱数を発生させる道具。つまり「サイコロ振るように日々を生き」るとは、なにも決めずに、行き当たりばったりで毎日を過ごすという意味でしょう。

 「ニタニタ笑う意味はあるか」とは、おそらく反語的表現。そんな「笑う意味はあるか?」という問いかけではありますが、その奥には「笑う意味はない」という思いが隠れています。

 また、笑うかどうかが重要というよりも、その前に出てきた「サイコロ振るよう」な日々を、よしとするのか否かが重要なのでしょう。

 つまり引用部1行目をまとめると、行き当たりばったりで毎日を過ごすことに、意味はないということ。

 2行目は、特に解釈に迷うところはありません。しかし、気になるのは、突如として出てきた「君」。これが誰を指すのか、という点です。

 ここまでは、語り手が自分の感情を、勢いよく吐き出すような歌詞でした。でも、ここで「君」が出てきたことによって、語りの視点がどうなっているのか、設定が揺らぎ始めます。

自分へのメッセージ

 先ほども述べましたが、語り手が過去の自分にたいして「君」と語りかけている、というのが僕の仮説。

 その考えに至るヒントが、サビに出てきます。1番サビの歌詞を、以下に引用します。

煩わしい心すら いつかは全て灰になるのなら
その花びらを瓶に詰め込んで火を放て 今ここで
誰より強く願えば そのまま遠く雷鳴に飛び込んで
歌えるさ カスみたいな だけど確かな バースデイソング

 1行目の「煩わしい心」というのは、これまでに記述されてきたような、10代特有の感情ということでしょう。

 それが「いつかは全て灰になる」ということは、10代の頃のめんどくさい感情も、年を重ねればいずれ消える、という意味。

 2行目から3行目は、そんな感情は今すぐに捨ててしまえ、ということ。

 そして、4行目。「バースデイソング」とは、誕生日に歌う曲というわけではなく、大人に近づくことを意味しているのでしょう。

 つまり、上記引用部をまとめると、10代特有のめんどくさい感情なんて、いずれ消えるもの。だったら、そんなものは今すぐに捨てれば、大人に近づけるよ、ということです。

 ただ、面白いのは「カスみたいな」という一言が挟まれ、大人になることがいい事だよ、とは必ずしも言っていない点。

 上記引用部には、4行目に「歌えるさ」と語りかけるような語尾があり、誰かへのメッセージのように聞こえます。

 Bメロの最後には「君はひどく愛していたんだ」と、過去形の語尾が出てきていました。つまり、語り手は「君」の過去を知っているということ。

 その後に上記のサビが繋がり、今度は語りかけるような口調へと変わります。

 以上の2点から、「君」は過去の語り手であり、自分自身に問いかけている、と仮定しました。

過去をふり返る理由

 では、なぜ過去をふり返るのか、考えてみましょう。

 だいたい人が特定の過去をふり返るのは、なにかをやり直したい時。映画や漫画などでタイムリープするときも、過去を変えるためだと相場が決まっています。

 語り手も、過去のある時点をやり直したいと考えている。そう仮定して、2番の歌詞を検討していきます。まずは2番Aメロの歌詞を、以下に引用します。

しみったれたツラが似合うダークホース 不貞腐れて開けた壁の穴
あの時言えなかった三文字 ブラスバンド鳴らし出すメロディー

 「ダークホース」とは、競馬で番狂わせを起こす馬のこと。言い換えれば、人気がある馬ではないとも言えます。

 「しみったれたツラが似合うダークホース」とは、クラスで中心的なキャラクターではなかった自分自身のことを、指しているのでしょう。

 「不貞腐れて開けた壁の穴」というのは、壁を殴って穴を開けたということ。

 2行目の「あの時言えなかった三文字」という一節が、この先の歌詞を読みとくキーになりそうです。具体的には分かりませんが、言いたかったのに、言えなかった言葉がある。語り手の後悔が伝わる一節です。

 「言えなかった」と過去形になっていることからも、上記引用部は昔をふり返っているのだと解釈すべきでしょう。

 つづいて、2番Bメロの歌詞を、以下に引用します。

真面目でもないのに賢しい顔で ニヒリスト気取ってグルーミー
誰 も聴いちゃいないそのDコードを それでもただ信じていたんだ

 こちらも「信じていたんだ」と過去形で閉じられていることから、過去の回想。

 1行目は、なんとなく難しい顔をして、憂鬱な気分でいるのがかっこいいと思っていた、ということでしょう。いかにも10代の若者らしく、厨二病的とも、太宰治的とも言える行動です。

 2行目の「誰も聴いちゃいない」も、1行目の内容から繋がり、誰とも交わらずニヒルな態度でいたことを、強調しているのだと考えます。

言えなかった三文字

 2番Aメロに「あの時言えなかった三文字」と出てきて、過去の後悔を示唆するものの、その後は具体的な記述はなされていません。

 しかし、2番サビ後に挿入されるCメロの歌詞に、「三文字」のヒントになるのでは、と思われる言葉が出てきます。

 まずは、その前の2番サビの歌詞を引用します。

よーいどんで鳴る銃の音を いつの間にか聞き逃していた
地獄の奥底にタッチして走り出せ 今すぐに
誰より独りでいるなら 誰より誰かに届く歌を
歌えるさ 間の抜けた だけど確かな バースデイソング

 1行目の「よーいどんで鳴る銃の音」というのは、運動会などでスタートの合図を鳴らすイメージでしょう。

 2行目の「地獄の奥底」というのも抽象的ですが、ここまでの歌詞は一貫して、語り手が過去の自分を、客観的に見つめている内容です。

 そのため「地獄の奥底にタッチして走り出せ」とは、若さ特有のニヒリスティックな態度を今すぐ捨てろ、みたいな意味なんじゃないかと思います。

 3行目以降も、2行目と同じく、1人でニヒリストを気取った態度を指摘。「誰より独りでいるなら 誰より誰かに届く歌を
歌えるさ」と、エールを送っています。

 上記2番サビで注目すべきは、「独り」でいることが強調されている点。それを踏まえて、そのあとに続くCメロのサビを、確認してみましょう。

持て余して放り出した叫び声は 取るに足らない言葉ばかりが並ぶ蚤の市にまた並んで行く
茶化されて汚されて恥辱の果て辿り着いた場所はどこだ
何度だって歌ってしまうよ どこにも行けないんだと だからこそあなたに会いたいんだと

 冒頭の「持て余して放り出した叫び声」とは、若さに任せた叫びといったところでしょうか。

 その後には「取るに足らない言葉ばかりが並ぶ蚤の市にまた並んで行く」と続きます。そういう叫びも、若気の至りみたいなもので、特に珍しいものではない、ということでしょう。

 「何度だって歌ってしまうよ どこにも行けないんだと」とは、叫んだところで何も変わらないということ。やはりここでも、10代特有のエモーションを、冷静な目で見つめています。

 そして、引用部の後半に出てくる「あなた」。ここが重要だと思うポイントです。

 これまでは「君」という代名詞が使われていて、これは語り手自身をあらわしているというのが、僕の仮説。

 しかしここでは、同じ二人称代名詞ではありますが「あなた」に変わっています。これは誰を指すのか。

 具体的に誰を指すのかは不明ですが、「君」とは別の人を指すと僕は考えています。すなわち「あなた」は語り手自身ではなく、他者だということ。

 ここからは僕の想像ですが、「あなた」とは片思いの相手を指すのではないかと思います。

 「10代の暴動」というタイトルを持ったこの曲。その曲名どおり、10代らしい感情や態度が、綴られています。

 10代特有の感情といえば、この曲であつかわれるように、斜に構えた態度や、意味のない反抗心。そして、もうひとつ。不器用な恋愛も挙げられるのではないかと思います。

 この曲の語り手は、過去のある時期をふり返っていると、仮説を立てました。

 語り手は過去の自分を思い出し、若さにまかせて叫んでも「どこにも行けないんだ」と、今では悟っています。

 さらに「だからこそあなたに会いたいんだ」と「何度だって歌ってしまう」とも綴られています。「あなた」とは、思いを伝えられなかった相手。

 2番Aメロに出てきた「あの時言えなかった三文字」とは、「あなた」あるいはそれに準ずる言葉なのではないかと思います。

 「好きだ」だったら意味がわかるけど、「あなた」だけだったら意味が分かりません。でも、思いをあらわす象徴として「あなた」あるいは相手の名前をあらわす3文字が、「あの時言えなかった三文字」である、と僕は思います。

結論・まとめ

 以上「TEENAGE RIOT」の歌詞を、読みといてきました。

 「10代の暴動」というタイトルにふさわしく、10代特有のエモーションが閉じ込められたこの曲。

 ここまで考察してきたとおり、反抗心やニヒリズム、そして不器用な恋心などが、密封された楽曲です。

 この曲の良いところは、若さを礼賛するでもなく、全否定するでもないところ。

 希望と絶望、愛情と憎しみの両方が感じられるというか、なんとも情報量の多い曲だと思います。

 あと、これは僕の想像の域を脱しませんが、語り手が過去の自分へのエールを「バースデイソング」であらわしているところも秀逸。

 歌のなかに他の歌があり、現在の語り手のなかに過去の語り手がありと、構造が幾重にもなって、ますます曲をイマジナティヴなものにしていますよね。

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