「洋楽」カテゴリーアーカイブ

Mogwai『Mogwai Young Team』 / モグワイ『モグワイ・ヤング・チーム』


モグワイ 『モグワイ・ヤング・チーム』
(Mogwai – Mogwai Young Team)

アルバムレビュー
発売: 1997年10月27日
レーベル: Chemikal Underground

 『モグワイ・ヤング・チーム』は、スコットランドのグラスゴー出身のポストロック・バンド、モグワイの1997年発売の1stアルバム。

 ポストロックとは何か?というと、ロックのポスト、すなわちロック後のロックということです。それじゃあロックって何か?というと、ひとまず理論的な厳密さは脇に置いて、パブリックイメージとしては、歪んだギターがフィーチャーされ、8ビートのノリやすいリズムがあり、歌詞にはメッセージ性がある、といったところでしょうか。そして本題のモグワイ。彼らはポストロックの代表的なバンドと目されており、『ヤングチーム』はそんな彼らの1stアルバムです。

 それでは実際に聴いてみると、どんな音が鳴っているのか。1曲目「Yes! I Am a Long Way from Home」は複数のクリーントーンのギターを中心に、各楽器が絡み合う美しいアンサンブル。そして、ボーカルが入っていません。まるで風景を眺めているかのようなイマジナティヴな音楽をサウンドスケープと呼ぶことがありますが、この曲などはまさにサウンドスケープと呼べそうです。

 そのままギターを使った静かな美しいインスト・ミュージックが続くかと思いきや、再生時間3分過ぎから徐々に盛り上がり、3:40あたりからはディストーション・ギターが押し寄せてきます。AメロからBメロを経てサビというクライマックスに至る、という一般的なポップ・ミュージックのフォーマットは採用していないにも関わらず、このあたりの盛り上がりは単純にかっこよく、そうした意味では非常にポップと言えます。

 このような構造はアルバム全体を通して続き、2曲目「Like Herod」でも1曲目以上に激しい轟音ギターが、途中からなだれ込んできます。あんまり詳細を書くとネタバレのようになってしまいますが、7曲目「With Portfolio」の後半部分のすさまじい音像、10曲目「Mogwai Fear Satan」のリズムとサウンド・プロダクションが混然一体となった演奏など、聴きどころを挙げていけば、きりがありません。

 ロックという音楽が人々をエキサイトさせる要素を書きだしていくと、単位のはっきりとしたノリのよいビート、聴感的に激しく響く歪んだギターのサウンド、Aメロからサビに至るまでの進行感とサビでのクライマックス、リスナーをアジテートするような歌詞、などが挙げられるでしょう。では、ポストロック・バンドと呼ばれるモグワイの場合はどうか。

 まず、ドラムによるリズムはもちろん存在し、『モグワイ・ヤング・チーム』の一部の曲では、ロック的にノレる部分もありますが、それほど体を揺らすためのビートが前景化された作品というわけではありません。激しく歪んだギターは、ロックにおけるリフのようなかたちでは出てきませんが、アルバム中に十分に含まれています。

 Aメロからサビへの進行感というのも、ロックのような構造を持った音楽と比べれば希薄ですが、音量とサウンドにおける静寂と轟音のコントラストは、Aメロとサビの関係に近いとも言えます。歌詞については、モグワイの曲には基本的には歌が入っていません。

 以上、ロックとの比較で浮かび上がるのは、いわゆるロックのフォーマットをそのまま踏襲してはいないものの、ロックがリスナーに与える興奮を『モグワイ・ヤング・チーム』は持っているということです。言い換えれば、ロックの魅力を部分的には引き継ぎ、部分的には更新しているということ。

 例えば、Aメロとサビとの対比にも似た、静寂と轟音の対比。Aメロからサビという画一的な進行を持たないからこそ生まれる、そろそろ来るかな、来ないかな?という緊張感と期待感。歌詞を持たないものの、リスナーをアジテートするような挑発的で自由なギターのフレーズとサウンド。

 『モグワイ・ヤング・チーム』は、ロックを解体し、再構築しているという意味において、まさにポストロックと言えるでしょう。歌が無い、サビが無い音楽はとっつきにくいと考えている方にこそ、このアルバムの興奮とスリルを味わっていただきたいです。いろいろ小難しいことも書いてきましたが、とにかくサウンド自体がかっこよく、曲が予想しない方向に展開したり、あるいは展開しないで留まったり、何も考えずに聴いて楽しめる作品なので!

 ちなみにジャケットには、今は亡き「富士銀行」の看板が写っております。撮影場所は、当時の富士銀行恵比寿支店。しかし権利の関係なのか、日本盤では黒塗りになっているので、気になる方は輸入盤をチェックしましょう。