Harold Budd & Brian Eno “Ambient 2: The Plateaux Of Mirror” / ハロルド・バッド&ブライアン・イーノ『アンビエント2: ザ・プラトウ・オブ・ミラー』


Harold Budd & Brian Eno “Ambient 2: The Plateaux Of Mirror”

ハロルド・バッド&ブライアン・イーノ 『アンビエント2: ザ・プラトウ・オブ・ミラー』
発売: 1980年4月
レーベル: E.G.

 1980年にリリースされた、ブライアン・イーノのアンビエント・シリーズの2作目です。ピアニストのハロルド・バッド(Harold Budd)とのコレボレーション。

 アンビエント1に引き続き、ピアノのシンプルなフレーズを中心に据えた1作。前作と同じく、音の響きが前景化されたような、音楽になる前のイノセントな音素材が鳴らされるような、美しく心落ちつく1作です。

 前作『Ambient 1: Music For Airports』は、タイトルのとおり空港で流れることを想定して作られた作品でした。それぞれが違う場所に向かう、あるいは違う場所から戻ってくる、多くの人が行きかう空港という場所になじむ音楽。

 そのような空港という場所にふさわしく、前作は長い旅路を終えた人を癒し、これから見知らぬ土地へ向かい人々の期待や不安をやわらげる、やさしい音楽でした。

 本作『Ambient 2: The Plateaux Of Mirror』も、前作の延長線上にある、なにごとも押し付けない、優しい音の響きの詰まった作品です。聴き手の世親状態や音楽的バックボーンによって、多種多様なイメージが浮かぶ音楽でもあると思います。

 前作が4曲入りで、特に1曲目から3曲目は共通するモチーフのようなものを持っていたのに対して、本作は10曲入り。タイトルのとおり、アンビエントでミニマルな楽曲群なのは確かですが、曲数が多いというだけでなく、前作よりもバラエティに富んだイメージが浮かびます。

 前述したとおり、ピアノの音が中心に据えられた作品であり、サウンドの種類がそこまで豊富なわけでは決してありません。しかし、そこから伝わる情報は様々で、非常にイマジナティヴな音楽が展開されます。

 透明感のある音が漂う1曲目の「First Light」。ヴェールがかかったような、残響音にまで意味があるような、美しい音が響く1曲です。

 2曲目の「Steal Away」は、1曲目「First Light」よりも、ピアノの音の輪郭のはっきりしており、マッシヴに感じられます。決して、強い音というわけではないのですが、アルバムの流れのなかのコントラストで、そのように響きます。

 3曲目の「The Plateaux Of Mirror」は、エレクトリック・ピアノかシンセサイザーを使用しているようで、柔らかく、エコーが深くかかったような、幻想的なサウンドが空間を満たします。

 5曲目の「An Arc of Doves」は音の動きが多く、いきいきとした躍動感のある1曲。アンビエントなこのアルバムの中で、明確なフォームのある音楽に近い響きを持った曲です。

 あまり、言葉で説明するような作品ではありませんが、無音よりも落ち着く優しいサウンドの詰まった1作。「ヒーリング・ミュージック」というほど、目的が限定されるような作品でもなく、音の響きの美しさを最優先した作品であると思います。

 自己主張は強くないのに、部屋で流すとまるで空間の一部のように馴染みます。僕は部屋にいて、特になにもすることが無いとき、聴きたい音楽が思い浮かばないときには、このアルバムを流しています。

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Base Ball Bear「CRAZY FOR YOUの季節」とはどんな季節か?


目次
イントロダクション
独創的な比喩表現
歌詞のなかの人間関係
「CRAZY FOR YOUの季節」とはどんな季節か?

イントロダクション

 「CRAZY FOR YOUの季節」は、Base Ball Bearの楽曲。作詞作曲は小出祐介。2006年11月29日発売のメジャー1枚目のアルバム『C』に収録。

 「Introducing Album」(イントロデューシング・アルバム)として、2006年1月12日に発売された『バンドBについて』にも、別バージョンが収録されています。

 この時期のBase Ball Bearは、バンドがまるで歯車のぴったり合った機械のように、有機的かつパワフルにグルーヴしているのが好きです。

 さらに、この曲に関して言えば、バンドの疾走感と共に、歌詞も目眩がするぐらいにイメージが次々と飛び込んできます。音にも言葉にもフックが無数にある、息もつかせぬ1曲です。

 疾走感あふれるバンドのアンサンブルと、独創的なイマジナティヴな言葉が次々に押し寄せる歌詞の世界観。その情報量の多さに圧倒されてしまいますが、彼らの音楽は聴きこめば聴きこむほど、読み込めば読み込むほどに、魅力がにじみ出てきます。

 特に「CRAZY FOR YOUの季節」は、言葉の使い方が独創的です。今回は、この曲の歌詞について分析、考察してみます。

 そして、最終的には「CRAZY FOR YOUの季節」というのが、どんな季節なのか、僕なりの解釈を示したいと思います。

独創的な比喩表現

 曲を再生すると、イントロから疾走感あふれる演奏が繰り広げられます。リズム・セクションと2本のギターが、ひとつの塊のように迫ってくるイントロから、徐々に各楽器が分かれて、曲が加速していく展開。

 そんなスピード感あふれるバンドのアンサンブルに乗って歌われる歌詞も、イマジネーションを喚起させる言葉を、次々と聴き手に投げてきます。

海みたいな彼女が笑った

 引用したのは、歌い出し部分の歌詞です。この曲の歌詞は、語り手が「彼女」との関係および自分の感情を、語っているのだと推測されます。「海みたいな彼女」と、スタートから早速「彼女」が出てきます。

 ここでは「海みたいな」という比喩表現が使われていますが、これはどういう意味でしょうか。「海」という単語から広がる連想は、それこそ無数にありそうですが、思いつくままに書き出してみても「とてつもなく大きい」「真っ青な美しい海」「溺れてしまいそうで怖い」など、様々なイメージに繋がります。

 「海みたいな彼女」というのは、上記のように多層的な意味を含んだ表現で、リスナーそれぞれに違ったイメージを引き起こすのではないでしょうか。

 しかし、共通するイメージもあり「理解できないほど大きい」「美しいけど怖い」など、海という言葉そのものが持つ広さと比例して、「海みたいな彼女」という表現も、リスナーに多種多様な意味を伴って迫ってきます。

一口齧った檸檬が成る街で

 上記に引用したのは、歌い出しに続く歌詞です。こちらも聴き手の注意をひきつける、聴き慣れない言い回しが使われています。

 「かじった」を「齧った」、「レモン」を「檸檬」と、漢字を多用しているところも気になりますが、ここでは引用部全体でなにを表しているのかを、検討したいと思います。

 レモンをかじると、当然のことながら強い酸味を味わうことになります。そんな「一口齧った檸檬が成る街」というのは、顔をしかめるほどの酸味を伴った、しかも既にかじってしまったので、後戻りすることはできない、ということを意味しているのではないかと思います。

 歌詞には具体的に記述されていませんが、失恋の酸っぱさと、すでに結果が出てしまったことの不可逆性、そのようなメッセージがこの歌詞にはこめられているのではないでしょうか。もちろん作詞した小出さんの本意がどうであるのかは分かりません。

 しかし、このような解釈の楽しみをリスナーに与えてくれるところも、この曲の魅力のひとつであるのは、事実だと思います。

歌詞のなかの人間関係

 では、次に歌詞のなかの人物たちの、人間関係を整理したいと思います。前述したとおり、まず語り手と「彼女」が存在します。

眠りの森 あの2人抜け出して 空中都市へ逃れ消えていった

 引用したのは2連目の歌詞の1行目。ここで「あの2人」と出てきます。「あの」という表現から、この「2人」には語り手が含まれていないことが示唆されます。さらに「眠りの森」「空中都市」という非日常的な表現が使用されています。

 この引用部から想像できるのは、語り手が思いを寄せていた「彼女」は、他の誰かのところに行ってしまった、ということ。語り手と「彼女」がクラスメイトなのか、どういう距離感の知り合いなのか、詳細は明言されません。

 しかし、クラスメイトだったと仮定して、「彼女」が遠くに引っ越すなど、物理的に遠くに行ってしまった、という意味ではないはずです。「空中都市」というのは、物理的な距離ではなく、精神的な距離、つまり語り手の「彼女」への思いは、もう叶わないことが確定してしまった、ということを表しているのではないかと思います。

 そのように語り手と「彼女」の関係性を仮定すると、その後の歌詞に出てくる「口笛は重く響く」「クリティカルな感傷」といった表現も、よりリアリティをともなって響くのではないでしょうか。

「CRAZY FOR YOUの季節」とはどんな季節か?

 それでは、一気にサビの歌詞まで移動したいと思います。タイトルの「CRAZY FOR YOUの季節」という表現は、サビの歌い出しの歌詞にもなっています。ここでは、この曲の最後のサビ部分を引用します。

CRAZY FOR YOUの季節が ざわめく潮騒の様で
氷漬けの気持ちを溶かして 海みたいに彼女が笑った

 引用部2行目には、歌い出し部分の歌詞にもあった「海みたい」という表現が繰り返されています。こちらの引用部は、語り手が「彼女」をあきらめようと気持ちを「氷漬け」にしていたのに、「彼女」が笑ったことで、かつての感情がよみがえってきてしまった、ということでしょう。

 英語で「crazy for」というと、何かが欲しくてたまらない、好きで好きでたまらない、という意味。これまでにも多くの歌で使われてきた表現でしょうが、「crazy for you」というのは、あなたが好きで好きでしょうがない、という意味です。

 そんなクリシェ化した表現に「季節」という言葉を組み合わせ、季節の移り変わり、2人の関係性の移り変わり、自分の感情の移り変わり及びざわめき、を並行させながら鮮やかに語っていく「CRAZY FOR YOUの季節」の歌詞は、間違いなく優れた歌詞であると言えます。

 具体的な「2月」や「春」といった季節ではなく、感情のざわめきを前景化するために、「CRAZY FOR YOUの季節」としたのでしょう。

 語り手の心がざわめき、揺れる季節が「CRAZY FOR YOUの季節」です。この曲は、青春時代のその季節にしかありえない感情を、見事に描き出した曲であると思います。

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Brian Eno『Ambient 1: Music For Airports』/ ブライアン・イーノ『ミュージック・フォー・エアポーツ』


ブライアン・イーノ 『アンビエント1: ミュージック・フォー・エアポーツ』
Brian Eno – Ambient 1: Music For Airports

発売: 1978年
レーベル: E.G., Polydor

 ブライアン・イーノが1978年に発表した6枚目のスタジオ・アルバムであり、タイトルに「Ambient 1」とあるように、彼の一連のアンビエント作品の幕開けとなる1作です。

 『Ambient 1: Music For Airports』というタイトルが示すとおり、空港で流れることをイメージして作られたアルバム。4曲が収録されていますが、番号が付されているだけで、それぞれに曲名はありません。

 「空港のための音楽」ということですが、では空港とはどのような場所でしょうか。ごく簡潔に言うなら、多くの人が長距離の移動のために集う場所。そして、空港に集う人々は、これから旅立つ人は期待や不安を持ち、旅路を終えて帰ってきた人は安心感と疲労感を持っていることでしょう。

 そんな人々が行き交う空港という場所にふさわしい音楽とはなにか、と考えながらこのアルバムを聴くと、また聴こえ方が違ってくるのではないかと思います。

 出発を待つ人々の不安を和らげ、帰ってきた人の疲労を癒し、なおかつ飛行機の飛び立つ音や、人々が出す音にも馴染む音楽。『Ambient 1: Music For Airports』は、そのような場になじみながら、優しく響く音楽です。

 1曲目はピアノの音が、空間を埋めるように、ぽつりぽつりと、ゆっくり優しく鳴り響きます。隙間の多いピアノの音を包み込むように、シンセサイザーも音を紡いでいきます。

 2曲目は、ボーカル(というより素材としての声に近い)とシンセサイザーのロングトーンによって、1曲目とは違ったかたちで、空間に浸透していくような音像。

 3曲目は、1曲目と2曲目を同時に鳴らしたようなサウンド。ピアノの音にボーカルが重なってきたときには、クラシックで主題が戻ってきたような、ジャズでテーマに戻ってきたような、安心感と高揚感を覚えました。1曲目のピアノのミニマルなリズムに、2曲目のボーカルの広がりのあるサウンドが溶け合い、つかみやすい音楽を形作っていきます。

 4曲目は、シンセサイザーのみの演奏。暖かみを感じる電子音が幻想的に響き、リラクシングな雰囲気が広がっていきます。

 空港を意識して聴くと違った聴こえ方がするのでは、と先述しましたが、なにも考えずに音だけに耳を傾けていても、十分に楽しめる作品です。ロックやポップスのような明確な形式を持たない音楽ですから、誰にでもオススメできるかというと、そうではありませんが、アンビエントに興味がある方には、自信を持っておすすめするアルバムです。

 個人的には「ヒーリングミュージック」のような、音楽の機能を限定しすぎた呼び方は好きではないのですが、ヒーリングミュージックとして聴くことも可能かと思います。

 音楽のフォームを気にすることなく、音自体に包まれるような、音楽が優しく部屋を満たしていくような感覚を、ぜひ体験してみてください。

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Sigur Rós『Von』/ シガー・ロス 『希望』


シガー・ロス 『Von』(希望)
Sigur Rós – Von

発売: 1997年6月
レーベル: Warp

 アイスランドのポストロックバンド、シガー・ロスの1stアルバム。タイトルの「Von」は、英語では「Hope」、日本語では「希望」を意味するアイスランド語。

 生楽器とエレクトロニクスの有機的な融合、シューゲイザーを思わせる音の壁とも言えるサウンドや、ポストロック的な実験性、エレクトロニカ的なサウンド・プロダクションなどなど、彼らのその後の音楽を構成する要素は、この1stアルバムの時点で出揃っています。

 この1stアルバムを出発点に、音楽性とアンサンブルを磨き続けてきたことが、実感できる作品であるとも言えます。

 1曲目は、バンド名と同じく「Sigur Rós」と題された1曲。10分近くに及ぶ大曲ながら、定型的なリズムやメロディー、展開は持っておらず、アンビエントな音像の曲です。

 音が迫ってきたり、遠ざかったり、鈴のような音が鳴ったり、悲鳴のような声が響いたり、とサウンドには耳を傾けてしまうフックが散りばめられ、いつの間にか音楽に取り込まれてしまう感覚があります。

 2曲目の「Dögun」には、イントロからボーカル…というより人の声が入り、大きな教会で鳴り響くような、神聖で厳かな雰囲気。ドラムなどリズム楽器は使われず、1曲目に続いてこちらもアンビエントでエレクトロニカのようなサウンドになっています。

 再生時間2:30あたりからは、人の話し声や、雨や風の音をフィールド・レコーディングしたような音が入り、それまでとは雰囲気が一変。様々な音素材を、有機的に融合させて音楽に昇華させるシガー・ロスの手法がすでに確立されつつあることが分かります。

 3曲目「Hún Jörð …」は、はっきりとしたビートとメロディーを持ち、ここまでの2曲と比べると、ポップ・ミュージック的な形式を持った1曲。裏声で歌うボーカルは、幻想的な雰囲気。

 しかし、歪んだギターの音色や、途中からエフェクトをかけられたボーカルも加わるなど、実験性も共存しています。タイトルの「Hún Jörð …」は、英訳すると「Mother Earth」とのことで、確かに母なる地球を讃えるような荘厳さのある曲です。

 4曲目「Leit að lífi」は、音数が少なく、ミニマルでアンビエントな1曲。そよ風が吹き抜けるようなサウンド。

 5曲目「Myrkur」は、音楽的なフォームを持った曲で、3曲目「Hún Jörð …」以上にメロディーとリズムがはっきりしています。ボーカルの裏声とメロディー・ラインには神聖な雰囲気も漂いますが、ギターポップのようにも聴こえる1曲。

 7曲目「Hafssól」は12分を超えるサウンドスケープ。明確なフォームは持たないものの、様々な音が押しては引いて、イマジネーションを掻き立てられる1曲。

 9曲目はアルバム・タイトルにもなっている「Von」と題された1曲。リズムとメロディーのある音楽的な曲ですが、サウンド・プロダクションは音響重視で、幻想的な雰囲気。エレクトロニカに近い耳触り。

 11曲目「Syndir Guðs (Opinberun frelsarans)」は、ボーカルとドラムが入っているものの、サウンド自体が前景化したような音響的な1曲。奥の方で鳴っている「ピュー」という感じの音が心地いい。

 タイトルは英訳すると「Sins of God (Revelation of the Savior)」、「神の罪」とのこと。こちらのタイトルを意識しながら聴くと、また違った印象に聴こえてきます。

 アルバムのラスト12曲目の「Rukrym」は、途中まで無音が続くのかと思いきや、再生時間6:20あたりから、突如として音が押し寄せてきます。光が広がっていくような、解放感のある音像。

 一般的なロックやポップスのような、明確なフォームを持った曲は少ないアルバムです。アルバム全体としてはアンビエント色が強い印象ですが、既存の形式に頼るのではなく、あくまで音楽至上主義のスタンスで独自の音楽を追求する、シガー・ロスらしい1作と言えます。

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Mogwai『Hardcore Will Never Die, But You Will』/ モグワイ『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』


モグワイ 『ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル』
Mogwai – Hardcore Will Never Die, But You Will

発売: 2011年2月14日
レーベル: Rock Action, Sub Pop

 スコットランド出身のポストロック・バンド、モグワイの7作目のスタジオ・アルバム。その挑発的なタイトルから、初めて聴くまで、暴力的な轟音ギターが炸裂するアルバムだと思い込んでいた『Hardcore Will Never Die, But You Will』。

 実際の音はと言うと、轟音ギターも入っており、モグワイのハードな面が好きな方も気に入るアルバムだと思います。しかし、彼らのシグネチャーとも言うべき轟音ギターに加えて、実に多彩なギターのサウンドが聴けるアルバムでもあります。

 僕はモグワイのギター・オリエンテッドなアンサンブルが好きな質なので、このアルバムは彼らのアルバムの中でも特にお気に入りの1枚。

 ボーカルが入っている曲もありますが、バンドの伴奏に対してメロディーを乗せるというより、バンド・アンサンブルの一部に回収されていると言ってよい仕上がり。アルバム全体としても、アンサンブル志向の作品であると言えます。

 1曲目から「White Noise」という象徴的なタイトルですが、クリーン・トーンのギターが絡み合う、サウンドもアンサンブルも美しい1曲です。轟音に頼らず、徐々にシフトを上げるように、バンド全体がグルーヴしていく展開が秀逸。

 2曲目の「Mexican Grand Prix」は、画一的なビートのイントロから、徐々に加速していくようなアレンジメントが緊張感を生んでいます。ボーカルにはヴォコーダーがかけられ、完全にバンドの一部に取り込まれています。モグワイのボーカルを前景化しないアレンジが好きです。

 3曲目「Rano Pano」は、毛羽立ったような、ざらついた耳触りのギターが、次々に折り重なっていくイントロから、早々に耳と心を持っていかれます。もう、倍音に次ぐ倍音!という感じで、非常に心地いいです。人によってはノイズとしか思わないのかもしれませんが(笑) 途中から入ってくる高音のスペーシーなギターも良い。

 4曲目「Death Rays」。これはサウンドもアンサンブルも美しい1曲です。電子音と思われる音も、ストリングスも、ディストーション・ギターも、すべてが自然に溶け合い、ひとつの有機的なサウンドを構成しています。

 5曲目「San Pedro」は、イントロだけ聴くと、ボーカルが入ってきそうなロックな曲。しかし全編インストで、激しく歪んだ複数のギターが絡み合い、せめぎ合うようなアンサンブルが展開されます。

 6曲目の「Letters To The Metro」は、ピアノがフィーチャーされ、このアルバムの中では最もエレクトロニカ色の強い1曲。

 7曲目「George Square Thatcher Death Party」は、5曲目「San Pedro」に続いて、こちらもボーカルが入ってきそうな曲。と思って聴いていると、途中からボーカルが入ってきます。

 このボーカルにもヴォコーダーがかけられ、いわゆる歌ものではありません。イントロの雰囲気は、ちょっとソニック・ユース(Sonic Youth)っぽいと感じました。

 8曲目「How to Be a Werewolf」は、電子的な持続音が響くイントロから、徐々にメロディーとリズムが重なっていき、音楽が立ち上がってくるようなアンサンブルが心地いいです。

 再生時間1:04あたりから、ドラムがスネアとバスドラを叩き始めるところで、まずシフトが上がります。そこからベースが入るところでもう一段上がって…という進行感が、たまらなく良いです。こういう段階的な盛り上げ方の演出もモグワイらしい。

 9曲目「Too Raging to Cheers」は、イントロから電子的なサウンドのキーボードが、揺らぎながら広がっていく、アンビエントな音像。そこから、徐々に音が増え、生楽器とエレクトロニクスが有機的に絡み合っていきます。

 ラスト10曲目の「You’re Lionel Richie」は、今アルバム最長の8分を超える大曲。静と動のコントラストが鮮やかな、壮大な曲をアルバムの最後に配置することの多いモグワイ。

 今アルバム最後の「You’re Lionel Richie」も、轟音ギターあり、美しい旋律あり、盤石のアンサンブルありの1曲。堂々としたスローなテンポで、時空を歪めるように轟音ギターが唸り、そのギターを包み込むようにアンサンブルが構成されます。

 前述したとおり、僕はギターを中心にした肉体的なアンサンブルが好きなのですが、このアルバムは轟音ギターのみに頼らず、多彩なサウンドが響く1作です。

 轟音ギターとクリーン・トーンのギター、生楽器と電子的な耳触りのサウンドの融合も秀逸で、サウンド的にも聴きやすいアルバムであると思います。

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