「ポストロック」タグアーカイブ

Mogwai『Rock Action』/ モグワイ『ロック・アクション』


モグワイ 『ロック・アクション』
Mogwai – Rock Action

アルバムレビュー
発売: 2001年4月30日
レーベル: [PIAS] Recordings, Matador

 『Rock Action』は、スコットランド出身のポストロック・バンド、モグワイの2001年発売の3rdアルバム。前作『Come On Die Young』に引き続きプロデューサーは、デイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)。

 轟音ギターと静寂のコントラストが鮮烈な1stアルバム『Mogwai Young Team』と、音数を絞り緻密なアンサンブルを練り上げた2ndアルバム『Come On Die Young』。前2作ではギターを中心とした、アンサンブルを構築していったモグワイ。

 今作ではキーボードやストリングスやホーンなどを使用し、サウンドの色彩はより鮮やかに、同時にバンド・アンサンブルにおいてもさらなる実験を重ねています。

 「Sine Wave」と題された1曲目。前作の1曲目「Punk Rock:」に続いて、示唆的なタイトルです。アンビエントな雰囲気のイントロから、水面に波紋が広がっていくようなエフェクトのかかったギターが入り、徐々に楽器と音数が増加。サウンドはどれも生々しく、生楽器のサウンドをサンプラーで解体して再構築したような耳ざわりの1曲。

 2曲目の「Take Me Somewhere Nice」は、イントロからゆったりしたギターのフレーズとドラムが絡み合い、様々な風景が立ち現れるようなアンサンブル。そのイマジナティヴな演奏と音像は、実にモグワイらしいと言えます。しかし、ストリングスが導入されていたり、ボーカルが入っていたり(今までも一部の曲には入っていましたが)と、音楽的語彙を増やそうという野心の伝わる1曲。

 3曲目「O I Sleep」もボーカル入り。1分弱の曲ながら、ピアノの音が美しく、アルバムの中でインタールードのような1曲。

 4曲目の「Dial: Revenge」も、前2曲に続き、ボーカル入りの曲が続きます。イントロからアコースティック・ギターが使用され、今までのモグワイからすると意外性のあるサウンド・プロダクション。

 しかし、ボーカルのメロディーも、複数のギターと絡み合うように、有機的にバンドのアンサンブルに回収され、モグワイらしいゆったりしたグルーヴ感の堪能できる仕上がり。ボーカルのメロディーは間違いなく美しいのに、バンドと溶け合い、あえて前景化させないかのような絶妙なバランスになっています。

 5曲目「You Don’t Know Jesus」は、静寂のイントロから、徐々に盛り上がり、轟音ギターのクライマックスへ。しかし、轟音ギターの洪水のなかを、電子音が漂うようにメロディーを紡ぎ、確実に新しい方法論を取り入れていることがわかります。圧倒的な量感の轟音ギターに鼓膜を震わされる快感と、耽美なメロディーを耳で追う心地よさが、両立された1曲。

 7曲目「2 Rights Make 1 Wrong」は、クリーン・トーンのギターとドラムが絡み合う前半から、徐々に音が増えていく展開。どこかのタイミングで轟音ギターが炸裂するのではと期待していると、轟音ギターではなくホーン・セクションとシンセサイザーが加わり、壮大なサウンド・プロダクションへ。轟音ギターの代わりにホーンとシンセを用いたアレンジメント…というわけではないのでしょうが、当然ながら轟音ギターが押し寄せる展開とは耳ざわりが異なり、モグワイの音楽性の広がりを実感する1曲。

 ちなみに日本盤には8曲目「Secret Pint」のあとに、ボーナス・トラックが2曲収録されています。「Secret Pint」は3分40秒ほどの曲ですが、その後10分の無音部を挟み、9曲目「Untitled」、10曲目「Close Encounters」が収録。iPodなどに取り込んだとき、「Secret Pint」のあと10分ほど無音が続きますが、エンコードの失敗ではありません。僕はエンコードの際のエラーかと思い、確認してしまいましたが(笑)

 過去2作のギター・ミュージックを追求しようという姿勢から、さらに1歩を踏み出し、ストリングスやホーンが導入され、サウンドの色彩は遥かに鮮やかになっています。個人的には、ギターを中心としたアンサンブルを追求していたモグワイが好きですが、『Rock Action』もサウンドと音楽性の幅を広げた、クオリティの高い1作であると思います。

 





Mogwai『Come On Die Young』/ モグワイ『カム・オン・ダイ・ヤング』


モグワイ 『カム・オン・ダイ・ヤング』
Mogwai – Come On Die Young

アルバムレビュー
発売: 1999年3月29日
レーベル: Chemikal Underground, Matador

 『Come On Die Young』は、スコットランド出身のポストロック・バンド、モグワイの1999年発売の2ndアルバム。プロデューサーは、マーキュリー・レヴ(Mercury Rev)のメンバーでもあるデイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)。アメリカでは、ニューヨークの名門インディペンデント・レーベル、マタドール(Matador)より発売。

 モグワイというバンドを説明するときに、「静と動」「轟音」「ノイズ」といったキーワードが用いられることがあります。確かにエモーションを爆発させたような轟音ギターは、モグワイの魅力のひとつ。しかし今作では、1stアルバム『Mogwai Young Team』で聴かれた轟音は控えめに、音数は絞り込まれ、隙間さえも音楽の内部に取りこんだような、緊張感に溢れたアンサンブルを構築しています。

 シンプルなサウンドのギターとベースに、ソリッドな硬い音質のドラム。各楽器のリズムとサウンドが、ゆったりとしたテンポのなかで溶け合い、美しくも厳しい、荒涼な大地や冬の海が目に浮かぶようなサウンドスケープ。アルバム終盤には、前作で聴かれた轟音ギターも登場し、エモーションと知性が同居するギター・オリエンテッドなアルバムです。

 1曲目は「Punk Rock:」。そのタイトルから、轟音ギターが圧倒的音圧で押し寄せる曲を期待する人も多いでしょう。しかし、聴こえてくるのは、爪弾くようなギターと淡々としたスポークン・ワード。ただ、大きい音で速い曲をやるのがパンクなのではなく、新しい音楽に向かい続ける姿勢こそがパンクなんだ!というモグワイのエモーションの表出でしょうか。

 タイトルに付されたコロン(:)も示唆的。コロンは、その後に説明や言い換えを続ける記号ですから、このアルバムは2曲目以降も僕たちなりのパンク・ロックですよ、という意思表示にも思えます。

 2曲目「CODY」は、複数のギターとリズム・セクションが、絡み合いそうな、ほどけていきそうな、絶妙なバランスのアンサンブルを作り上げるスローテンポの1曲。音数は少なめに、隙間のあるアレンジメントですが、この曲から伝わるのは緊張感やスリルではなく、非常にゆったりとしたリラックスした雰囲気。

 3曲目「Helps Both Ways」は、ドラムのサウンドが生々しくレコーディングされ、音量も大きく、前景化されています。2曲目とは打って変わって、音数を絞り込むことでスリルを演出し、緊張感のあるアンサンブル。

 4曲目「Year 2000 Non-Compliant Cardia」は、ゆったりと大きくリズムを刻むリズム・セクションと、ノイジーなギターと電子音による持続音、さらに複数のギターのリズムが溶け合い、音響の深さを感じる1曲。

 7曲目は「May Nothing But Happiness Come Through Your Door」。硬質なサウンドのドラムがリズムをキープするなか、シンプルなギターのフレーズと、奥で流れる電子音が、レイヤーのように重なり、徐々に溶け合っていく前半。それに対して、ギターが波のように定期的に押し寄せては引いていく後半と、コントラストのある1曲。

 11曲目の「Christmas Steps」は、10分を超える圧巻の大曲。1stで展開された静寂と轟音のコントラストが、さらに音数を絞り込み、よりタイトなかたちで再現されています。不穏な雰囲気のイントロから、しばらくミニマルなアンサンブルが続き、再生時間3:48あたりから突如としてベースがスイッチを入れるように登場。

 そこから徐々に、テンポ、リズム、音量が上がり、堰を切ったかのように轟音ギターとエモーションが溢れ出す後半へ。1曲のなかでのダイナミズムが非常に大きく、なおかつ1stからの焼き直しというわけでもなく、モグワイのパンク精神が炸裂した1曲です。

 前述したように、1stに比べると轟音の要素は抑えられた作品と言えますが、その代わりに音数を絞って、緊張感やコントラストを作り出しています。バンドの表現力と音楽的語彙をさらに増した1枚であると言えるでしょう。

 





Sigur Rós『Með suð í eyrum við spilum endalaust』/ シガー・ロス 『残響』


シガー・ロス 『残響』
Sigur Rós – Með suð í eyrum við spilum endalaust

アルバムレビュー
発売: 2008年6月20日
レーベル: EMI, XL Recordings, Krúnk

 『Með suð í eyrum við spilum endalaust』(邦題『残響』)は、アイスランドのバンド、シガー・ロスの2008年発売の5枚目のスタジオ・アルバム。彼ら自身のレーベルKrúnkの他、イギリス及びヨーロッパではEMI、アメリカではXL Recordingsなど、複数のレーベルから世界各国でリリースされた。

 11曲目の「All Alright」のみ英語で歌われているが、それ以外の曲は全てアイスランド語。当初は全編、英語で作詞されていたが、最終的にアイスランド語の方が自然だということで、英語からアイスランド語へ翻訳あるいは新たに作詞されるかたちで変更されたとのこと。

 まるで、大自然をそのまま音楽にしたかのような、美しく躍動感と生命力に溢れたサウンドが、怒涛のように押し寄せるアルバムです。シガー・ロスの音楽性は、しばしばポストロックと評されることがありますが、確かに一般的なロックの方法論とは、一線を画した音楽が鳴っているのは事実。

 しかし、実験のための実験に陥っているのではなく、まず表現したい対象となるイメージやアイデアがあり、その目的の達成のために彼らが持てるクリエイティヴィティを駆使して、新たな音楽を創造していることが、このアルバムを聴けば分かるはずです。

 前述したように、このアルバムには大自然を音楽に変換したような雄大さがあります。壮大な山々を目の前にしたときの荘厳さであったり、大地が鳴り響くような躍動感であったり、草原を野生動物が走り回る生命力であったり、時には自然の厳しさや圧倒的な大きさに怖くなったり、様々な風景が喚起されるイマジナティヴな音楽が詰まった1枚です。

 音楽性には実験的な部分もあるのですが、あくまで音楽の楽しさ、美しさを増幅するための試行錯誤の結果であり、実際に聴いてみると難解な印象はほとんどありません。そういう意味では、非常にポップな音楽であると言えます。

 1曲目の「Gobbledigook」から、躍動感と生命力に満ちた音があふれ出します。アコースティック・ギターと美しいコーラス・ワーク、そして大地を揺るがすようなダイナミックなドラム。地鳴りのような躍動感と、大自然のなかを飛び跳ねる動物たちの喜びを表したかのような、サウンド・プロダクション。

 ギターとコーラスは、音は生々しいのにサンプリングしたものを組み立て直したような不思議な質感なのですが、そんなことよりも音楽の楽しさに耳が向かう1曲です。このアルバムのジャケットは、人々が裸で駆け出していくデザインですが、そんなジャケットのイメージにもぴったり。

 2曲目「Inní Mér Syngur Vitleysingur」は、叩きつけるような四つ打ちのビートが特徴ですが、ダンス・ミュージック的ではなく、火山や大地が躍動するような壮大さをあります。3曲目「Góðan Daginn」は、指が弦をこする音まで入ったアコースティック・ギターのサウンドが美しい1曲。4曲目「Við Spilum Endalaust」では、アコーディオンのような暖かい倍音が響きます。

 5曲目は「Festival」。この曲と11曲目の「All Alright」のみ、タイトルが英語です。イントロはエレクトロニカのような音像で静かに始まるものの、再生時間4:40あたりからドラムが入ってくると徐々に加速していき、最終的には様々なリズムが打ち鳴らされ、躍動感あふれるクライマックスへ。

 6曲目「Suð Í Eyrum」。透明感あるピアノがシンプルに音を紡ぐイントロは、朝靄のなかを散歩しているよう。その後に入ってくるドラムは、エフェクトがかかり不思議なサウンドを持っていますが、違和感にはならず、曲に奥行きを与えています。

 9分近くに及ぶ7曲目「Ára Bátur」は、ピアノとファルセットを多用したボーカルが美しい1曲。後半はストリングスやコーラスなどが加わり、雄大な自然が目の前に広がるようなサウンドスケープ。

 8曲目「Illgresi」は、2本のアコースティック・ギターが絡み合う、美しいアンサンブルが印象的。9曲目「Fljótavík」は、ピアノとストリングスの音が、ゆっくりと時間と空間に浸透していくよう。

 10曲目「Straumnes」は、ボーカルは入っておらず、川のせせらぎのような音がサンプリングされ、矛盾するようですが自然の静かさを表現したような曲。

 ラストの11曲目「All Alright」は、前述したようにアルバム中唯一の英語詞。イントロから音数の絞り込まれたアンサンブルのなかを、感情を抑えたボーカルの声が漂う曲。徐々に楽器と持続音が増えていき、音楽が空間に優しく広がっていくような感覚があります。

 一般的なロックやポップスとは違ったリズムやサウンドを持っているものの、音楽自体の強度が高く、非常にとっつきやすい楽しい作品だと思います。ぜひ、大自然の雄大な風景を楽しむような自由な気持ちで、聴いてみてください。

 





Mogwai『Mogwai Young Team』 / モグワイ『モグワイ・ヤング・チーム』


モグワイ 『モグワイ・ヤング・チーム』
(Mogwai – Mogwai Young Team)

アルバムレビュー
発売: 1997年10月27日
レーベル: Chemikal Underground

 『モグワイ・ヤング・チーム』は、スコットランドのグラスゴー出身のポストロック・バンド、モグワイの1997年発売の1stアルバム。

 ポストロックとは何か?というと、ロックのポスト、すなわちロック後のロックということです。それじゃあロックって何か?というと、ひとまず理論的な厳密さは脇に置いて、パブリックイメージとしては、歪んだギターがフィーチャーされ、8ビートのノリやすいリズムがあり、歌詞にはメッセージ性がある、といったところでしょうか。そして本題のモグワイ。彼らはポストロックの代表的なバンドと目されており、『ヤングチーム』はそんな彼らの1stアルバムです。

 それでは実際に聴いてみると、どんな音が鳴っているのか。1曲目「Yes! I Am a Long Way from Home」は複数のクリーントーンのギターを中心に、各楽器が絡み合う美しいアンサンブル。そして、ボーカルが入っていません。まるで風景を眺めているかのようなイマジナティヴな音楽をサウンドスケープと呼ぶことがありますが、この曲などはまさにサウンドスケープと呼べそうです。

 そのままギターを使った静かな美しいインスト・ミュージックが続くかと思いきや、再生時間3分過ぎから徐々に盛り上がり、3:40あたりからはディストーション・ギターが押し寄せてきます。AメロからBメロを経てサビというクライマックスに至る、という一般的なポップ・ミュージックのフォーマットは採用していないにも関わらず、このあたりの盛り上がりは単純にかっこよく、そうした意味では非常にポップと言えます。

 このような構造はアルバム全体を通して続き、2曲目「Like Herod」でも1曲目以上に激しい轟音ギターが、途中からなだれ込んできます。あんまり詳細を書くとネタバレのようになってしまいますが、7曲目「With Portfolio」の後半部分のすさまじい音像、10曲目「Mogwai Fear Satan」のリズムとサウンド・プロダクションが混然一体となった演奏など、聴きどころを挙げていけば、きりがありません。

 ロックという音楽が人々をエキサイトさせる要素を書きだしていくと、単位のはっきりとしたノリのよいビート、聴感的に激しく響く歪んだギターのサウンド、Aメロからサビに至るまでの進行感とサビでのクライマックス、リスナーをアジテートするような歌詞、などが挙げられるでしょう。では、ポストロック・バンドと呼ばれるモグワイの場合はどうか。

 まず、ドラムによるリズムはもちろん存在し、『モグワイ・ヤング・チーム』の一部の曲では、ロック的にノレる部分もありますが、それほど体を揺らすためのビートが前景化された作品というわけではありません。激しく歪んだギターは、ロックにおけるリフのようなかたちでは出てきませんが、アルバム中に十分に含まれています。

 Aメロからサビへの進行感というのも、ロックのような構造を持った音楽と比べれば希薄ですが、音量とサウンドにおける静寂と轟音のコントラストは、Aメロとサビの関係に近いとも言えます。歌詞については、モグワイの曲には基本的には歌が入っていません。

 以上、ロックとの比較で浮かび上がるのは、いわゆるロックのフォーマットをそのまま踏襲してはいないものの、ロックがリスナーに与える興奮を『モグワイ・ヤング・チーム』は持っているということです。言い換えれば、ロックの魅力を部分的には引き継ぎ、部分的には更新しているということ。

 例えば、Aメロとサビとの対比にも似た、静寂と轟音の対比。Aメロからサビという画一的な進行を持たないからこそ生まれる、そろそろ来るかな、来ないかな?という緊張感と期待感。歌詞を持たないものの、リスナーをアジテートするような挑発的で自由なギターのフレーズとサウンド。

 『モグワイ・ヤング・チーム』は、ロックを解体し、再構築しているという意味において、まさにポストロックと言えるでしょう。歌が無い、サビが無い音楽はとっつきにくいと考えている方にこそ、このアルバムの興奮とスリルを味わっていただきたいです。いろいろ小難しいことも書いてきましたが、とにかくサウンド自体がかっこよく、曲が予想しない方向に展開したり、あるいは展開しないで留まったり、何も考えずに聴いて楽しめる作品なので!

 ちなみにジャケットには、今は亡き「富士銀行」の看板が写っております。撮影場所は、当時の富士銀行恵比寿支店。しかし権利の関係なのか、日本盤では黒塗りになっているので、気になる方は輸入盤をチェックしましょう。